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episode・11 予期せぬ出会い

「はあぁぁ……」


 学校に登校して教室に入り、自分の机に突っ伏して盛大な溜息をつく。

 お姉ちゃんがうちに来てから、家の空気が変わってしまった。

 何かにつけてお姉ちゃんが雅君に突っかかっているからだ。


 やれ風呂掃除が雑だとか、洗濯物が間に合ってないだとか、料理の味が口に合わないだとか……。

 家の事を全くしないくせに、進んで家事をしてくれている雅君に何であんな事言えんのよ……。

 今朝なんて、昨夜のバイトが忙しかったみたいで疲れていたから少しだけ寝坊してしまったみたいで、朝食が簡素なものになってた。

 それでも、今までがまるでどこかのお店で食べているような素敵なメニューだっただけで、今朝の朝食だって美味しかったし、メニューの内容だって一般的に考えたら、十分なご飯だったんだ。

 ――なのに、お姉ちゃんは鬼の首を取ったような顔で、雅君に文句の嵐。太一さんもお母さんもそんなお姉ちゃんを見て溜息ばかりついてる。

 そもそも、お姉ちゃんなんて料理が出来るとか言ってるけど、私は覚えてるんだからね! 私達がまだ小さい頃にお母さんが帰って来ない時に作ってくれたご飯。あれ、実はレンジでチンしただけのご飯だって事!


「おっはよ!」


 机に突っ伏していると、転校した初日から仲良くしてくれている榎本美咲が声をかけてきた。


「あ、おはよう。美咲」

「なんか、最近元気なくない?」

「ははっ、ちょっと家がゴタゴタしててね……」

「あぁ、あれ? もう高2なんだから、勉強に本腰いれないと大学いけないわよ! ってやつ?」

「う~ん……そういうゴタゴタなら解り易くて助かるんだけどねぇ」


 美咲達には、親の再婚で転校してきたって事は話してある。

 だからと言って、家庭の事情の詳細を話すわけにもいかなくて、悶々としながら授業を受けたから頭に入ってこないまま、気が付けばお昼休みになっていた。


 仲良くしている美咲達は同じ部活で、大会が近いらしくて昼連するらしい。

 部室で一緒に食べる?って誘ってくれたんだけど、流石に部外者がお邪魔するのは気が引けるからって断わった。

 というわけで、今日は久しぶりのボッチ飯なのだ。

 他のクラスメイト達と仲良く出来てないわけじゃないんだけど、なんというかお邪魔かなって思っちゃって、気が付けばコソコソと雅君が作ってくれたお弁当を持って教室から出ていた。


 さて、今日はどこで食べようかなっと。


 私は渡り廊下にあるベンチに座ってお弁当をどこで食べるか思案した。

 渡り廊下には賑やかな声を響かせて沢山の生徒達が往来してるのを見て、いつも賑やかな美咲達と食べているのだから、今日は静かに食べたいなとある場所を思い出したのだ。


 目的地を決めた私はベンチから立ち上がり、少し速足で特別棟の階段を上がっていく。階が高くなる度に賑やかな生徒達の声が遠くに聞こえるようになってきた。

 なんだか、もうすでに懐かしい感じがする。

 前の学校ではこれが普通だった。

 1人でお弁当を持って賑やかな場所から離れていって、誰もいない場所でお昼を食べる。

 寂しいとか思わなくなってきた時はヤバいかなって思ったりしたけど、どうしようもないと諦めてた。

 だから、この学校に来て美咲達がいてくれるおかげで、そんな1人の時間を過ごさずに楽しい学校生活を送れているだけでも、お母さんの再婚に感謝だ。

 お姉ちゃんの事はこれから大変だけど、きっと解って貰えるはずだ。

 だって、この家族をとても大切にしてくれる雅君がいるんだもん!


 というわけで、久しぶりのボッチ飯は転校初日に美咲達に案内してもらった屋上で食べる事にしたのです!


 少し建て付けの悪くなった重い扉を開けると、すっかり夏の匂いがする風が私の顔を吹き抜けていく。

 屋上には暑くなってきたからか、誰もいないようだった。

 ボッチ飯にはうってつけのシチュエーションって感じだ。


 私は直射日光を避ける為に、建物で日陰が出来た場所で座り込んで、今日の雅君お弁当をワクワクしながら開くと、私の大好きなものばかりで構成された内容に、思わず「わぁ!」って声が漏れちゃった。

 まぁ、誰もいないからいいよね。


 早速、好物の出汁巻き卵を口にいれると、顔の筋肉をダルんダルんに緩ませて、口の中の幸せを噛み締めた。


「美味しい! やっぱり雅君が作る出汁巻き卵は最高でしょ!」


 最近の私の悩み。雅君の作るご飯が美味し過ぎてつい食べ過ぎてしまい、少し……そう! ほんの少しだけ体重が増えてしまった事。

 贅沢な悩みかもしれないけど、お年頃の女の子には深刻な問題なんだけど、太ってしまったのは雅君が美味しいごはんばかり作るからであって、決して私のせいではない。うん!間違いないな!


 雅君のお弁当は何が凄いって、冷凍食品を使っていない事だ。

 全部手作りで冷めても美味しいように、工夫して作ってるって訊いた。

 雅君は男の子だけど、お嫁さんにしたいランキングのトップに君臨していそうな程の女子力って何なのって感じ。


 1人で食べているからだろう。誰の目も気にしないで至福の時間を味わっていられたから、気が付かなったんだ。

 この屋上に私以外の気配がある事を……。


「そんなに美味いん? それ」

「――え?」


 そう声をかけられて、初めて目の前に人が立っている事に気付いた。


「え? え?」

「いや、滅茶苦茶幸せそうに食べてたからさ」


 私の前に現れたのは、ほぼ金髪のツイテにギャルメイクにこれでもかと、ウチの制服を着崩している女の子だった。

 強気な性格が表れているような、少し目じりがあがった大きな目に、スッと通った鼻筋の下に派手な色の口紅が塗られた小ぶりな唇。髪を上げているのにも関わらず、小顔なんだと一目で解る顔周りから覗かせる小さな耳に飾られた金色のピアスが妙に印象に残る、所謂ギャルな女の子が首を傾げていたのだ。


 ていうか、ゆるゆるの幸福顔をガッツリ見られてしまった。


「ご、ごごごめんんなさい。誰もいないと思ってました」

「は? 別にこの場所アーシの私有地じゃないんだし、誰がいようが関係ないんじゃね?」


 こういうギャル系は超がつく程に苦手だ。

 前の学校でも、ギャル軍団によく絡まれて嫌な思いをさせられてきたから。

 しかも田舎学校のギャルなんかと違って、明らかにオーラみたいなのが見える――気がする。


「そ、そうですね……ご、ごめんなさい」

「だから、何で謝るし!」

「ヒィ! ご、ごめんなさい!」


 ギャル子さんは(名前知らないから、勝手に命名)私の怯えた様子に溜息をついて、綺麗な金髪の頭をガシガシと掻いている。


「アンタ見かけない顔だね」


 早速イチャモンつけてカツアゲですか? ホントお金持ってないんで勘弁して下さい。


「こ、この前転校してきたん……です」

「……あぁ、そういや転校生が来たって騒いでた奴いたっけな」

「あ、はい。それ多分、私の事かと……」


 いやだからって、新顔なんだから挨拶料払えとか勘弁して下さい。お願いします……。


「つーかさ! 上履き同じ色って事はタメなんだから、せめて敬語やめてくんない? なんだかタメに敬語使われるとむず痒いって言うか」


 そんな事言ってタメ口きいた途端、生意気だとか言わない?


「わ、わかり――分かった」

「こんな暑い日にここで弁当とか、アンタボッチなん?」


 あぁ、そう思われるよね。でもね……。


「ち、違うよ! 今日は友達が部活の昼連でいなくて、それで何となくって感じで、私は()()ボッチじゃないもん!」


 あ、()()って言っちゃった。

 元ボッチかよって絡まれる!?


 そんな不安を他所に、ギャル子さんは「ふ~ん」と薄い返答を返してきただけだった。気付かなかった?それとも聞き流してくれた?もしかして、私の知らないとこで元ボッチって噂を流す気!?

 ていうか、お昼休みにこんな所にいるギャル子さんも方がもしかして……。


「おい! アーシも違うかんね!」

「え?」

「アーシはボッチじゃないっての! ただ、色々と面倒な事が多くてさ。昼休み位は静かに過ごしたいから、ここにいるだけだかんね!」


 ――うん。どうやらギャル子さんはエスパーのようだ。


 ギャル子さんは口を尖らせながら、私に背を向けて扉の方に向かい、片手を上げて歩き出した。


「まぁ、なに? ボッチ飯邪魔して悪かったね。そんじゃ」

「だ、だからボッチじゃないってば!」


 私に横顔を見せて、クックッと笑みを零しているのを見て、私は揶揄われた事に気付いた。

 でも、そんなギャル子さんの顔を見て、私はさっきまであった怖いって気持ちがなくなっていて、思わず訊いてみたくなったんだ。


「ね、ねぇ! 良かったら名前教えてくれない? 私は成瀬 夕弦っていうんだけど」

「そういえば転校生で違うクラスなんだから、知らなくて当然だね。アーシは心、西宮 心っての」


 西宮 心。心ちゃんか……なんだか名前と――


「名前と顔が合ってないとか思ってるっしょ!」


 だから心を読むの止めて下さいよ。心だけに……。


「な、何で分かったの!?」


 あ、思わず正直に言っちゃったじゃん!

 ヤバい!怖い!に、逃げよう!


「プッ! あはははっ! 正直すぎっしょ! ここでアーシにそんな事言える奴って、そうはいないって!」

「あ、ははっ、な、なんというか……ごめん」

「いや、いい! そういう奴、嫌いじゃねぇし。アーシ雨が降ってない限り、昼休みはここにいるからさ。またね、夕弦!」


 そう話すギャル子さんもとい、西宮さんが私の事を呼び捨てにした時、何故だか痺れる感覚があって、気が付けば私はさっきまでの強張った顔から自然な顔になっていたんだ。


「うん! またね! 心!」


 私も呼び捨てにしてそう言うと、心はニッコリとはにかんで扉を開けて屋上から校舎内に入って行った。


 この出会いがとても大きなものになるなんて、今の私には知る由もなかったのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ガールミーツガール( ˘ω˘ ) こういうのもいいですね( ˘ω˘ )
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