episode・18 陽キャと陰キャの遭遇
「あ、月城? 私! 今大丈夫?」
『大丈夫だけど、何か用か?』
「何か用かって、この間のコンパの結果まだ聞いてないんだけど」
『は? そんなの報告する必要ないだろ』
「いや、あるし! 服選んであげたんだから、報告するでしょ! 普通」
『石嶺の普通の定義なんか知らねぇよ』
「いいから言えっての!」
『はぁ……まぁ上手くいったんじゃねぇの? 大山にバイト紹介してもらえたからな』
「よかったじゃん! それで?」
『それで? とは?』
「その……で、出逢いとかあったわけ?」
『そんなもんねぇに決まってんだろ? バイト紹介してもらう為に参加しただけなんだから』
ふぅ、嘘は言ってなさそう。
やっぱりあんな場にいてもブレない奴だ。ちゃんとした格好で参加したはずだから、女共が絶対に放っておくわけがないと思ってたんだけど、もはや才能と言っていい天然鈍感パワーの方が上回ったようね。
『そうだ、丁度良かったわ』
「なに?」
『お前って今週末の日曜って暇か?』
「え? う、うん。その日はバイトもないから空いてるけど?」
『そっか。んじゃ、この前のお礼って言ってた映画なんだけど、その日でいいか?』
え?うそ? あいつがあの約束覚えてくれてたなんて、思ってもみなかった。
「あ、あぁ! あれね。うん、そ、その日でいいよ」
『ん、分かった。上映時間とか調べとくから、また後で時間とか決めるのに連絡するよ』
「分かった。あ! 映画の日ちゃんと服装とかの約束も守ってよ」
『分かってるよ。お前に見繕って貰った服と、髪をちゃんとしてコンタクトして行けばいいんだろ? じゃあな』
相変わらず気怠そうな声。ぶっきら棒な電話の切り方。
何度も電話をしたわけじゃないけど、偶には愛想欲く話して欲しいものだ。
――でも……映画の約束覚えてくれてたんだ。
なにこれ。普通に嬉しいんだけど……えへへへ。
「あ、あの!」
「うひゃぁい!!」
嬉し恥ずかし全開妄想モードの真っ最中に、突然後ろから声をかけられたものだから、思わず変な声でちゃったよ。
つか、いつからいたの!?え?最初から!?全然気づかなかったんだけど!
「あ、私、ここの2回生の三島って言います」
「あぁ、はいはい。三島さんね」
三島さんって言うのか。名前聞いてもやっぱり知らないなぁ。
大学って高校と違って、本当に人が多いから私も同じ学部の人しか知らないんだけどね。
「あの、不躾な質問なんですが、さっきの電話の相手の月城さんって」
ん?月城の名前が出てくるとは思わなかったな。
「月城? 月城がどうかしたの?」
「その月城さんって、月城 雅さんですか?」
「え? うん。そうだけど……月城と知り合いなの?」
おいおい。こんな女の子と知り合いなんて聞いてないんだけど!
まぁ、彼女でもないんだから、あいつの友好関係なんて知る権利なんてないんだけどさ……。
「あの! 私、月城さんともう1度会いたいんです!」
はい!月城にやられちゃってる女の子出現ですよ!
もう1度会いたいとか、もう恋する乙女全開じゃんか!
「それで?」
「月城さんの携帯番号を教えて貰えませんか?」
なるほど。携帯番号すら知らない子が、もう1度会うにはどうすればいいか悩んでいた所に、月城と電話している私がこのベンチに現れたって事か……。
――は?なにそれ!?ドラマか!?ドラマだろ!
強引にとか、ケンカ腰に来る女なら尽く論破して黙らせる自信はある。
でも、こうやって縋る様に頼まれたりするの、弱いんだよなぁ。
「はぁ、あのね三島さんだっけ。勝手に他人の個人情報を教えるのってマナー違反だと思うんだよね。親しき中にも礼儀ありってやつ」
「……そう……ですよね。変な事訊いて、すみません」
う~ん……そんなションボリしないでよ。まるで私が嫌な奴みたいじゃん。
いくらあいつに会いたいからって、見ず知らずの私にいきなり声をかけるとか、この子にしてみたら凄い勇気がいったんだろうな。
でもなぁ、個人的には面白くはないんだよ。うん。
このまま会えない方が、私にとって都合がいいのは間違いない。
間違いないんだけど……。
「だから番号は無理だけど、違う事を1つ教えてあげる」
「え? ほ、本当ですか!?」
あぁ、嬉しそうな顔しちゃって。
「W駅前に『Verdun』ってステーキハウスがあるんだけど、その店の2軒隣の『モンドール』ってカフェに月城がバイトしてる」
「それ本当ですか!? あ、あの! いつそのカフェに行けば月城さんに会えるんですか!?」
「シフトまでは知らない。だから根気よく通うしか方法はないよ」
これは意地悪で言ってるんじゃない。バイト先は聞いた事があるけど、シフトは揶揄いに来られるのがウザいからって、教えてくれなかったんだよね。
つ~か、ウザいってなによ!ウザいって!
「そうですか! ありがとうございます。会えるまで通ってみます!」
「あいつの情報教えたんだから、1つ私も教えて欲しいんだけど。いい?」
「は、はい! もちろんです!」
「月城とはどこで知り合ったの? こう言っちゃなんだけど、あいつの行動範囲なんて大学と家とバイト先しかないはずなんだけど」
「あ、はい。えっと、先日のコンパの席で知り合いました」
そうか。そういえばコンパに参加してたんだっけ。
「って! コンパー!?」
「え? は、はい」
「コンパってもっと男も女もギラッギラした連中がするもんじゃないの!? 三島さんみたいな子も普通なの!?」
「あ、いえ。石嶺さんのイメージで合ってると思いますよ。私以外の女の子はそんな感じでしたし……私は知り合いにドタキャン要員として、強引に参加させられただけですから」
なるほど合点がいった。どちらかというと、この子の場合コンパっていうより、2次元好きが集まるオフ会って感じだもんね。
「え? な、何ですか? 私の顔に何か付いてますか?」
そう考えてこの三島って子を見ると、なんだか月城に似てる気がしてきた。
「いや別に……あ、そうだ。何で私の名前知ってるの?」
「あ、あぁ、さっき男の人が呼んでましたよね? 石嶺って」
「そっか。最初からこのベンチにいたんだったね」
どうでもいいんだけど、何でこの子はさっきから尊敬の眼差しみたいな目で私を見てくるんだろう。初見だよね?どっかで会った事ある?もしそうならメッチャ失礼じゃね?
まぁ、それは今はいいか。
やっぱり私の予感が当たったって事だ。コンパを境に月城の周りが騒がしくなってきてる。
――これはあいつの傷が癒えてからなんて悠長な事言ってたら、死ぬ程後悔する羽目になる。
予めアラームをセットしていた時間を告げる電子音が、石嶺が付けている腕時計から鳴り、午後からの講義が始まる時間を知らせた。
石嶺は時計のアラームを止めて、ベンチに背を向ける。
「それじゃあね。三島さん」
「あ、あの! また声をかけていい……ですか?」
ライバルになるわけがない……そう言い切れない相手と仲良くなれって?
純粋無垢って怖いな。ホント……。
「……別に」
「あ、ありがとうございます! それじゃあ、また! 師匠!」
私と話すのがそんなに嬉しいのかな。何か変な子だったけど、憎んだり出来そうにないんだよなぁ……。まぁ、学部は違うみたいだし、そうそう会う事はないだろうから、今は週末の月城との映画に集中すべきだね。
――ん? 師匠って……なに?




