クエスト達成!からの晩餐! 8
王国に入る前に門番の人たちに冒険者カード見せて、お昼に通った道を歩いていく。お昼は食材や日用品を売っている商店しかなかったが、夜になるとどこの店もテーブルと椅子を並べ、料理を提供していた。
ぐうぅう
リーナのお腹が大きな音を出した。
「お腹減ったなぁ…。そういえば、お昼から何も食べてない…」
シヨンとの試験、王国からハツラツ草周辺への往復。リーナの体は予想以上に悲鳴を上げていた。
「早く、ハツラツ草を渡してお金をもらおう!」
ギルドに向かう足が少し早くなった。
ギルドに着くと、モミジが受付の奥でまだ、仕事をしていた。
「モミジさん、終わりましたよ!」
リーナが近づき、声をかけるとモミジはリーナに気付き返事を返した。
「お帰りなさい、リーナさん。ハツラツ草は取れましたか?」
「どうぞ!」
リーナは少し大きくなった袋をモミジに渡した。
それを受け取ったモミジは中を確認した。
「しっかり、受け取りました。では、報酬を持ってくるので少しお待ちください」
モミジはそう言って、奥に行って何かを持ってきた。
「今回はハツラツ草の採取でしたので、五千エルと保存袋が報酬となります!」
リーナは渡された五枚の紙とハツラツ草を入れた袋より少しきれいな袋をもらった。
「その袋は保存袋と言って、うちのギルドが新人さん用に作った少し特殊な袋なんですよ?」
「特殊…?」
「はい。その袋には魔術師が書きこんだ術式が組み込まれていて、中はすごく冷たい空気が流れてるんです。」
「そんな、すごい物もらっていいんですか?」
「リーナさん、突然ですが新人冒険者の死因の第一位って何だと思います?」
モミジはメガネを少し上げ、リーナに聞いた。
「え、えっと、やっぱり戦死、魔獣とかに殺される、じゃないんですか?」
「間違い!……ではないです。しかし、新人冒険者の死因として多いのが食糧問題なんです」
意外な答えにリーナは首をかしげる。
「単純な、食糧不足だけじゃなく腐敗などを知らない冒険者が多く、餓死はもちろん食べようと思った獣
に食べられることも多いですね」
「そうなんですね…」
「少し冒険に慣れてくると食べられる実とか虫がわかるんですけど、新人のうちは知らないのと抵抗もあってですね…。そんなことで、少しでも安全な冒険をしてもらいたい一心でマスターが配布しています」
「優しいマスターさんですね。いつか、会ってみたいです」
心の中で会ったことも無いマスターに感謝して袋を受け取る。
「あ、モミジさん少しいいですか?」
「なんでしょう?」
「今日の夕飯と宿って、どこで取ればいいかとか、ってわかりますか?」
「ギルドの左隣が有料ではありますが、一泊千五百エルで浴場にも入れる女性専用の宿がありますよ。夕飯は一度、ギルドの地下を見てはいかがでしょう?」
「地下って、あの冒険者さんたちがお酒を飲んでた場所ですか?」
「あら、ご存じでしたか」
「はい、お昼にアマナさんと一緒に行きました」
「でしたら、市場の方に行ってみてはいかがでしょう?食べ歩きなども楽しめますよ。ギルドよりは少し値段が張りますが」
リーナの手持ちは報酬で貰った五千エルのみ。それに、今晩の宿として千五百エルは既に使うことが決定
しているので、少しでも安い方がいい。
「ギルドでの夕飯ってどのくらいですか?」
「そうですね…。デザートを食べないなら、一食三百エルくらいですね。ちなみに街の方なら七百エルくらいですよ」
「倍以上じゃないですか!?」
お金が心もとない状況では、多少我慢してでも出費を抑えたい。
「それじゃあ、地下に行ってきますね」
地下につながる階段を降りるため、リーナはカウンター左手にある扉へ向かう。
アマナと来た時と同じように扉を開けると、入り口の扉から昼間の喧騒とは比べ物にならないほど大きな声が飛び交っているのが聞こえた。
「アマナさんだったら、この時点で帰りそうだなぁ」
階段を降り、再び扉を開けると、鼻を衝くほどの料理の匂いが溢れてきた。
「なんだか、魔王城を思い出すなぁ…」
アマナと来た時は試験のことで頭がいっぱいだったが、魔王城ではこの光景に魔王軍が飼っている魔獣たちがいた。
「あんた、見ない顔だな?新人か?」
リーナが感傷に浸っていると、突然目の前のテーブルに座っていた男から声を掛けられた。
「は、はい!今日から冒険者になり─なったんだ!」
リーナはシヨンに言われた冒険者同士でのルールを思い出し、咄嗟に敬語をやめた。
「そうか!そりゃあ、めでてぇな!よし、俺たちがおごってやる!なんでも好きな物を言いな!」
「いいの!?」
持ち金に困っていたリーナには願ってもない申し出だ。
男の横には大きな帽子をかぶった女性がいたため、リーナは二人の正面に座った。
「あぁ!おい、母ちゃん。こっちの嬢ちゃんに何か出してやってくれ!」
「あいよ!お嬢さん、何か希望はあるかい?」
厨房の方から、アマナと行ったデザート屋の人とよく似た女性が出てきた。いや、少しこっちの方が顔にしわがある。
「あ、じゃあお肉系がいいな!」
「あいよ!」
女性はリーナの要望を聞くと、厨房の奥へと戻って行った。
「良かったな嬢ちゃん!マルロの野郎、今日は魔獣を倒せたからって調子乗ってんだ」
リーナに話しかけた、男をマルロと呼んだ隣の男はマルロの仲間だろうか。やけに、見知った顔で話している。
「えっと~…?」
リーナが男への返答に困っていると
「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はマルロ。んで、俺の横で酒を飲んでるのがパーティメンバーのレイ。隣の禿げは知らん」
「おい、マルロ!俺は禿げじゃなくて剃ってんだ!!あと、いい加減俺の名前を覚えろ!ジクっていうイ
カした名前をよぉ!」
「禿げ頭うるさい!酒がまずくなる!」
マルロの隣に座っていたレイという女が、机に持っていたコップを机にたたきつけジクに向けて怒鳴った。
「で、可愛い君はなんて言うの?」
レイは相当酒が回っているのか、少し顔が赤くなっていた。
「私は、リーナ。さっきも言ったけど、今日冒険者になったばっかりで、初クエストをこなしたんだ!」
「へえ、初クエストってことはハツラツ草じゃないの?」
「どうしてわかったの!?」
リーナはレイに初クエストとだけ言っただけで、クエストの内容は言ってない。なのに、レイは内容がハツラツ草であることを言い当てた。
「このギルドでの初クエストって言ったら、あのクエストしかないからな」
「そうそう、このバカ男なんて方向を間違えて昏き森に入りかけたんだから」
「うるせー!今じゃ、森の魔獣共も全部狩りつくせるからいいんだよ!」
「はいはい、まずはSランク昇級クエストを受けれるようにならないとねー」
レイがマルロをからかっているうちにリーナが注文した料理と飲み物が入ったであろう樽を、メイド服を着た女性がテーブルに運んできた。
「これは、豚の肉を骨ごと甘ダレに丸二日間漬け込んだものでして、口に入れた瞬間にとろけますよ~」
リーナは料理を受け取ると、机に置いていたフォークを使おうと手にすると
「この料理はな、骨の部分を手で持って肉にかぶりつくんだよ」
マルロがこういう風にと、食べ方を表現している。リーナもそれを真似てお肉にかぶりつく。
すると、力を入れずとも肉はほどけ、表面を覆っていたタレと肉汁が合わさり病みつきになりそうな甘さがあふれ出した。
「おいしい…!」
「当たり前だろ!母ちゃんのご飯はそこらの店とは比べ物にならねぇぜ」
なぜかマルロが自慢するように言った。
「そういえば、リーナはどうして冒険者になったの?やっぱりお金?」
「いえ、元々色んな所を見て回ろうと思ってたんですけど、知り合った人がそれなら冒険者になるといいと言ったので」
「へぇー。確かに冒険者なら商人じゃなくてもどこでも入りやすいわね」
「旅ならあれだな。一度、メルモっていう国に行くべきだ」
「メルモ…?」
リーナは首をかしげて言葉をなぞる。
「メルモは唯一決闘ができる国でな。殺し合はないが、色々なルールがあって面白いぞ。戦う相手の武器を指名とか、オッズが低い方がいい武器をもらえるなんてのもあったな」
「確かに面白そうだね!ここからどのくらいで着くの?」
戦いはあまり好きではないが殺し合いではないうえに、楽しめるようになっているなら少し興味はある。
「ここからメルモは少し遠くてな、馬車で行けば丸二日かかるな」
「マルロたちは何で行ったの?」
「あぁ、あの時はたまたま護衛のクエストがあってな。金持ちの旦那の魔導車に乗せてもらったんだ。あれは、すげぇぞ。天気さえ良ければ空を飛んでメルモまで数時間で着いちまう」
「そうなんだ!…ちなみになんだけど、メルモまでの道のりに町や村はあるの?」
「ん?あぁ、確か小さな村ともう少し行ったところに、街があったね」
「なら、私は徒歩で行ってみようかな」
リーナが徒歩と言うと、マルロとレイは目を丸くした。
「なんでこの流れで徒歩!?そこは、魔導車か馬車で行くべきだろ!」
「え、えっと、私はさっきも行った通り旅をしたいわけでして」
「そうだな。それは聞いた」
「それには、色んな人とも会いたいって意味もあるんですよ?」
「人?また、どうして?」
レイは持っていた樽を机に置き、リーナに聞いた。
「私は、今まで家族以外の人と会う機会がなかったんです。だけど、この前大きな選択をする事になって。けど、私は何も知らないから自分の目で見てみたいな…って思ったんです」
「……はぁ、リーナはすごいねぇ」
「そんなことないですよ!」
「そんなことあるんだよ。冒険者ってのはあたしもそうだけど、何かから逃げるために選んだ奴が大半なんだ」
そう話すレイは後悔をしているような力が入っていない目をしていた。
「悪いね!さぁ、今日は祝いだ!あたし達の魔獣討伐とリーナの冒険の始まりに乾杯!」
「「乾杯!」」
レイが樽を高く上げると、マルロやジク、周りの冒険者が同じように樽を高く上げた。
「か、乾杯!」
リーナも続くようにして、樽を上げた。
マルロやレイ達とギルドで夕飯を済ませた後、リーナはモミジに教えてもらったギルドの横にある宿に入り、宿泊の手続きをし、部屋の鍵を受け取ると鍵に掛かれていた番号の部屋に入った。
「おぉ、意外にいい部屋…」
街での夕飯、二回分の値段だったのでリーナは期待半分だったが一人で使う分には少し広いほどの部屋に小さな机と二つの椅子、ベッドが置かれていた。
リーナは椅子にリュックを置き、対面の椅子に座ると、ふぅ、と息を吐いた。
「疲れたなぁ…」
初めての国、シヨンとの試験、初クエストなど一日で起きた様々な事を思い出す。
「けど、楽しかったなぁ」
リーナは今日起きたことが楽しかったと感じた。
確かに、シヨンとの試験は痛かったし、初クエストは初めてのことが多くて困った。だけど、リーナはそ
の全てが新鮮で魔王城にいたころでは考えられない体験に興奮していた。
「ここから、もっと新しい事に会える…」
口に出すと、口角が吊り上がるのを感じた。
「さて!明日に備えて今日はもう寝ようかな」
着替えを出すため、リュックを掴むと
「そういえば、ここって浴場があるって言ってたな…」
鍵と一緒に貰った館内図を見て、大浴場の場所を見ると着替えを持って、大浴場に向かった。
大浴場に着くと、キレイなタオルが置いており、タオルのことを完全に忘れていたリーナは一枚貰った。
服を脱いで、浴場に入ると大きな石に囲まれた浴槽があった。
「わぁ、久しぶりだぁ…」
あまりの忙しさに忘れていたが、リーナも女の子。さらに、魔王城にいたころは朝と晩に二回、それと夕暮れに入るほどお風呂が好きだ。
縁に置いてある桶を手に取り、湯をすくうと体にかける。
これだけで、一気に疲れが流されるように体に染み渡る。
「はぁ…、さいっこう…」
桶を元々あった場所に置き、ゆっくりと浴槽に入る。温度は少しぬるめで、肩まですんなりと入ることができた。
「お城のお湯はサラサラだったけど、ここはちょっとトロトロだなぁ」
お湯を両手ですくい、少し隙間を作ってそこから流す。特に意味はないが、どこか楽しくなる遊びとも言えない遊びをする。
ある程度遊ぶと体も温まり、顔が赤くなってきたのを感じる。
「明日はどんなクエストが受けれるかなぁ。お金がたまったら、メルモに行きながら街や村の人たちと話して…。また、シヨン達と会えるかなぁ。会いたいなぁ…」
これからの予定を口にすると、なぜか今日別れたばかりのシヨン達がいないことに寂しさを感じた。
「ダメダメ!こんなことじゃ、お城のみんなに笑われちゃう!」
リーナは両手でお湯をすくって、今度は顔に掛けた。
「もう夜も遅いし、早く部屋に帰って寝よう!」
そう言ってリーナは浴槽から出て、浴場を後にした。