ギルドに入ることって、入会で合ってますか?? 7
感じたことのある温かみに気付き、リーナは闘技場の真ん中で目を覚ました。
「ん?あ、アマナさん…。おはようございます」
「おはようございます、リーナちゃん。何が起きたか覚えてますか?」
そう言われ、リーナは自分の記憶を辿る。
「えっと、朝起きて和食を食べてからシヨンさんに登録試験をしてもらって…。あ!私、最後どうなったんですか!?」
「覚えてないんですか?」
「はい…。いけた!と思ったのは覚えてるんですけど…」
アマナは困ったように、胸の前で両手の人差し指を合わせて
「えっと、リーナちゃんはシヨンちゃんに蹴られて、気を失ったんですよ」
「そう、ですか…」
リーナは自分でも驚くほどに、すんなり受け入れることができた。
「また、明日がんばりますね。アマナさん、ありがとうございました」
リーナは笑顔で、アマナに礼を言う。涙がこぼれないように、頭を上げながら。
「なに、また泣こうとしてんのよ!」
横から声を掛けられ、リーナは体を起こす。
「シヨンさん…。また、負けちゃいましたね」
「何言ってんのよ。負けたのはあたしよ」
「え…?」
シヨンは頭の後ろに手を回し、顔を背ける。
「ルールはあたしに触れることよ。あたしはあんたを蹴った。つまり、あんたの勝ちよ。リーナ」
リーナは自分から触れることはできなかったものの、蹴られたということはシヨンに触れたということだ。
「あ、え、って言うことは…」
「そ。合格よ。おめでとうリーナ!」
シヨンは闘技場の端にいるリーナに近づいて行き
「よく頑張ったわね。リーナの勝ちよ」
そう言って、シヨンはリーナの頭に手を置いた。
「う、うわぁぁん!」
リーナはシヨンに抱き着き、大量の涙と声を上げた。
昨日の悔しさを晴らせたのもあるが、なによりもシヨンの期待に応えることができたからだ。
「ちょっと、鼻水つけないでよ?」
シヨンは優しい笑みを浮かべながら、リーナが泣きやくまでリーナの頭を何度も撫でた。
リーナが泣き止んだあと、シヨン達はギルドの二階にある一室に移動し、テーブルを囲んで座っていた。
「さて、本当なら試験に合格したら冒険者とは、ってのを教えるんだけど、リーナにはもう教えたから、暗黙のルールっていうか、マナーみたいなのを教えるわね」
「は、はい!」
リーナは姿勢を正し、シヨンの方を見つめる。
「まずは、リーナの口調ね。基本的には冒険者同士では敬語と敬称は使っちゃダメよ」
「どうしてですか?」
「んー、理由は色々あるけど一番はやっぱり舐められないためかしら?やっぱり冒険者って仕事柄、初対面で仕事したりたまには小競り合いもするの。そこで舐められたら、遠慮ってのをしないからね。あの馬鹿どもは」
「なるほど。あれ?でも、アマナさんは敬語ですよね?」
リーナとアマナが初めて会った時からずっと、アマナは誰に対しても敬語で喋っていた。
「あぁ、アマナは冒険者じゃないのよ」
「そうなんですか!?」
リーナはアマナの方に向いた。
「はい。私、これでも身分上は神官さんですよ~」
アマナは両手の人差し指と中指をくっつけたり離したりした。
「ずっと冒険者だと思ってました…」
「そりゃそうね。神官なんて、冒険者と一番遠い存在だからわかるはずないわよ」
シヨンは呆れたように、腰に手を置いた。
「ま、そういうことだから。リーナは敬語を使っちゃだめよ?」
「うん!ちょっと、違和感はあるけど気を付けるよ!」
「よろしい。次は、そうね、もし、リーナが討伐クエストを受けたとするわ」
「うん」
「それで、目的地に着いたら先に他の冒険者がターゲットと戦っていたとする。その時、リーナだったらどうする?」
リーナは唇に人差し指を当て、少し考える。
「んー、その人が勝てそうなら見とくかな。でも負けそうなら、助けに行くよ」
「優等生みたいな模範解答ね。赤点で不合格」
「優等生で模範解答なら、満点合格なんじゃ…」
「もし、助けたやつが汚い奴なら助けた後に、自分が倒したー、なんて言い張るのよ。ちなみに、私はその時は実力で黙らせけど」
シヨンの顔が、ニヤリと歪んだ。
「あはは…」
「あとはリーナなら正々堂々と勝負できたら大抵の奴には勝てると思うけど、横取りする奴は大体、罠とか毒を盛ってくるから警戒はしときなさい」
「うん。手柄はどっちでもいいけど罠には気をつけるね」
そこまで話すとシヨンとアマナは荷物を持ち始めた。
「あれ?どこか行くの?」
「そうよ?これからクエストに行くの」
「もう行くんですか!?私、まだ何も準備してないんですけど…」
会話が終わった後、地図や薬を買いに行こうと思っていたリーナは少し慌てる。
「何言ってるのよ。リーナは自分のクエストを受けなさい」
「……え?」
「私達がこれから行くのはSランクのクエスト、魔王領との国境、リーナと会った昏き森の警戒及び調査よ。リーナは受けることができないの」
Sランククエスト───それは通常の討伐クエストや護衛クエストとは桁違いの危険性があるため、唯一ランクをつけられているクエスト。Sランククエストを受けるためには、ギルドが指定する討伐クエストを
一人で達成することが条件となっている。
「そんな…。私、これからどうしていけば…」
「知らないわよ。それくらい自分で考えなさい。冒険者でしょ?」
シヨンはそう言って、リーナの額を指ではじいた。
「あいて!」
リーナは赤くなったおでこを抑える。
「リーナが私達と同じ場所に来るまで待っててあげるから、がんばんなさいよ?」
「ほんと!?」
「ええ」
「そんなこと言って、シヨンちゃんの方が一緒に居たいだけなんですけどね」
「アマナ…、今日の夕飯抜きにするわよ?」
シヨンに睨まれても、アマナは何事もなかったかのように笑みを浮かべ続ける・
「さて、長居しっちゃったしこれでお別れね。カルロは昨日の夜に行かせたから、会えないけど、リーナの活躍が楽しみだ、って言ってたわよ」
「そうなんですね…。ありがとうございます!って伝えといてください!」
「ん。それじゃあね。バイバイ」
「リーナさん、危ないことはほどほどにしてくださいね?お元気で」
「うん!シヨンもアマナさんも本当にありがとうございました!」
そうしてリーナはシヨンとアマナをギルドの外まで送り届け、見えなくなるまで手を振り続けた。
シヨン達と別れたリーナはクエストが貼ってある掲示板の前で、頭を悩ませていた。
「んー…。初めてのクエストって何を受ければいいんだろう?」
腕を組んで、唸っているとモミジが受付の奥から手招きしているのが見えた。
「リーナさん、これから初クエストですか?」
「はい。だけど、どれを受けたらいいか…。討伐クエストは三人以上ですし、お遣いとか道案内なんてこっちが頼みたいくらいです…」
「ふふ、ですよね。私も王国に来た時は、右も左も分かりませんでした」
掲示板のクエスト内容は多岐にわたるが、王国ということもあって討伐クエスト意外だと、他の地域の賓客を相手にするものが多かった。
「これなんてどうでしょう?報酬は少し寂しいですが、一石二鳥だと思いますよ?」
そう言って、モミジが手にしていた紙を受け取り、内容を見ると
「薬草集め…。報酬は──お金と地図ですか!?」
「はい。まだ、地図は買ってませんか?」
「これから買いに行こうと思ってたんですよ!でも、私、薬草がどこに生えてるかなんてわからないです…」
「大丈夫ですよ?これ、お貸しいたしますので」
モミジは次に、紙の下にあった一冊の本をリーナに渡した。
「これは…?」
「ギルド用の図鑑です。お渡しすることはできないんですが、今回の目標のハツラツ草は一ページ目にありまして、自生してる場所や大きさの目安、特徴から市場価格まで書いてるんです」
「すごいですね!王国や他の街の地図まで…!」
「そうです、すごいんです!なので、持ち出しは禁止してますがぜひ読んでいってください!」
「ありがとうございます!何から何まで…。このクエストお願いしてもいいですか!?」
「分かりました!では、受理しましたので、頑張ってくださいね!こちらの籠がいっぱいになるまでお願いします!」
リーナはクエストを受け、少し大きめの麻で作られた袋を受けとった後、ギルドのテーブルに腰掛け、本
を読み王国と周辺の地形、ハツラツ草の自生場所を暗記すると早速、ギルドから出て行った。
リーナは王国を出て、数十分ほど昏き森とは反対方向に歩くと、綺麗な小川に着いた。
底にある小石一つ一つが目で見えるほど透き通った水が流れていて、その水を野生の動物が飲みに来ていた。
「ハツラツ草──滋養強壮の効果があってキレイな水が豊富にある所にしか生えない。で、図鑑にはここに
生えてるって書いてあったけど…」
周囲を見渡し、適当な草を手に取るが雑草かハツラツ草かもわからない。
「図鑑には周囲が暗くなると、葉先がキレイな黄色に光る、って書いてあったっけ」
リーナは空を見上げ、太陽の位置を確認するが、まだ太陽は高い位置で輝いていて夜になるにはまだ早い。
「こんなことなら、市場に行って確認してこればよかったなー」
ふて寝をしようと、体を後ろに倒し、地面に倒れこむ。
その拍子に花びらが舞い上がり、鼻先に花びらがついた。
「はっくしゅん!」
大きなくしゃみが出る。
「うぅ、このまま夜になるまで待つのもなぁ…」
体を横にし、目をつむる。すると、瞼の裏にわずかな光が伝わる。
「ん?」
目を開けると、リーナの陰に入っている草がわずかに光っていた。
「これって、もしかして!?」
光っていた草を一つ摘んで、体を起こす。そして、リーナは手で草を覆い隠すと、手の間から覗き込んだ。
すると、摘んだ草は黄色く淡い光を微かに放っていた。
「やっぱり!ハツラツ草って、夜じゃなくても光るんだ!」
リーナは手にあるハツラツ草を袋に入れると着ていた上着を脱ぎ、地面に広げて頭を上着の下に入れた。
上着の下には暗さに負けじと多くのハツラツ草が、光を放っていた。
「これで、日が落ちるまでには帰れる!」
リーナは光っているハツラツ草に手を伸ばし、根っこから摘んでいく。
小川が近いからか、ハツラツ草は力を入れなくても簡単に抜けた。
上着の下の地面が肌を見せるころには、ギルドから貰った袋がいっぱいになっていた。
「よし、こんな感じかな?」
顔を上げ、額に流れる汗をぬぐうと
「痛た…」
ずっと同じ態勢で摘んでいた痛みが腰に走ったが、それもすぐに治まった。
日はまだ完全には落ちきっておらず、今から王国に向かえば野宿は避けられるだろう。
「あ、そういえば寝る場所とか夕飯の場所とかわからないや…」
朝に起きた宿はアマナが用意した宿で、リーナはギルド以外の建物を知らない。
「まぁ、モミジさんに聞けばいいかな?」
王国に入ったきりモミジやシヨン達に頼りっきりになっている。
いつか、恩返しをしようとリーナは思いながら、王国に帰った。