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ミキタビ始めました!  作者: feel
1章  初めての王国
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試験中の緊張感 6

リーナがギルドに入ると、モミジがリーナを見て近づいてきた。


「おはようございます!リーナさん!シヨンさんからは中でお待ちですよ」

「ありがとうございます!」


リーナはモミジに礼を言い、闘技場に続く扉を開け、通路を進んだ。そして、通路と闘技場を分ける扉の前で深呼吸をすると、勢いよく開けた。

観客席の方では、カルロとアマナが座ってこちらに手を振っている。

アマナがリーナより先に着いているのが気になったが、興味は闘技場の真ん中で腕を組んでいる人物に移った。


「シヨンさん、お待たせしました」

「……今度は手加減しないわよ?」


シヨンが目を鋭くして、リーナを睨む。


「はい!お願いします!」


リーナはシヨンに向かって頭を下げる。


「準備はいいようですね」


後ろから、モミジが声を上げる。


「それでは、合図で始めてください」


モミジがゆっくりと胸の辺りまで、右腕を上げる。


「登録試験、始め!」


声と共に、モミジが右腕を上げる。

合図と同時に、シヨンの足元に昨日と同じく魔法陣が出現する。

それに対してリーナは、全速力でシヨンに近づく。


「かはっ」


突如、リーナの腹部に強い衝撃が走り、リーナの足は地面から離れて、元居たところまで飛ばされ、背中を打ったが何とか態勢を立て直す。


「何も見えなかった…」


何もないところで、リーナ吹き飛んだ。昨日の球よりも強い衝撃を受けて。


「透明にすることもできるなんて…」


リーナがその場に立ちすくんでいると、後方から気配がし、横に転がる。

直後、リーナがいた場所が大きな音と土煙を上げた。


「そうだ!昨日の感覚を思い出せば…!」


リーナは目を閉じ、昨日の特訓の時と同様に球の気配に集中した。

すると、真っ黒な世界から魔法の気配が見えた。

その気配を避けるように体を揺らしながら、足を前へゆっくりと進める。

前後左右ありとあらゆる方向から飛んでくる気配を最小限の動きで避ける。


「目を開けなさい!」


シヨンの声に驚き、目を開けると握り拳一個分はあろうかというほどの石が飛んできた。


「わっ!」


反射的に身を低くして回避する。しかし、背中に衝撃が走り、顔から地面を滑る。即座に立ち上がり、リーナは視線を目の前のシヨンに向け直す。


「目だけに頼らないのは、重要よ。実際、洞窟や夜の戦いでは人間は圧倒的に不利だから、気配に多く頼る。けど、目を使わないのは、単なる愚策。投擲物や地形なんかを把握するには、目が一番早いし、正確なの」


そう話すシヨンの周りには先ほどと同様程度の石が多数浮いていた。そして、その石がまとっているはずの魔法の気配もリーナには感じられなかった。


「負けた次の日に挑んでくるから、本気を隠していたのか秘策でも思いついたかと期待してみれば…。とんだ期待外れよ」

「そんなこと───」


シヨンはリーナの言葉を待たずに、魔法で浮かせているであろう石と見えない球をリーナに飛ばした。そ

れに気づいたリーナは、必死によけようと右へ左へ走りまわる。だが、弾幕が激しくリーナは手や足に大量の傷を与えられる。


「気配に集中すれば石が、目に集中すれば球に当たる…」


リーナはまだ魔法の気配と言うものを感じてから一日も経っていない。他のことをしながら感じて避けるなんてことは到底できるはずもない。


「……」


シヨンは左の人差し指を下に向けた。

リーナは真っすぐに向かってくる次の石を避けようとすると、急に石が目前の地面に墜落した。


「え?」


一瞬の戸惑いの後、リーナはシヨンの狙いに気付く。視界が土煙で大きく遮られてしまったことに。


「これじゃあ…!」


その土煙の奥からでも、球と石は非情に的確にリーナを狙ってくる。わずかに見えた陰からリーナは射線を予測し、何とか避ける。しかし、影は石からしか生み出されずに球からの射線が分からないリーナは土煙の奥から来る大量の攻撃を許してしまった。

両手両足がひどく痛む。骨折しているのだろうか…?骨折をしたことのないリーナには分からない。しかし、今までに感じたことのない物理的な痛みを感じている。こんなことなら───

折れかけた心を無理矢理思考を止めることで、修正する。


「後悔は後でもできる…。なら、いまやるべきことはいちかばちか!」


リーナは球と石が来ている方向に走り出した。


「そう…。残念だわ…」


土煙の中もはっきりと捉えることのできるシヨンは静かに目を閉じた。

シヨンは突進してくるリーナに向けて、大量の石と球を投げつけた。これで死亡までは至らずとも、大きなトラウマを与えてリーナの冒険者を阻もうと。

大きな音がシヨンの耳と肌に届く。だが、その音の感覚にシヨンは疑問を抱く。感触がないのだ。リーナを捕らえ、倒れるはずの感触が。

シヨンは目を開け、リーナを見る。そして、その光景を見たシヨンは口角を上げた。


「そうよ、あなたなら…!」


シヨンの目は土煙の中で的確に球を腕で弾き飛ばし、石を避けながらも全速力で走ってくるリーナを見ていた。


「ありがとう、シヨンさん。どこまでも優しくしてくれて」


リーナはシヨンに感謝した。無駄な思考をやめた後の頭は鮮明に目の前で起きている事象を捕らえられた。

確かに、影を生み出すのは石だけだ。しかし、土煙の奥からやってくる球は土煙を不自然なほどにかき分けて直進してくる。それに、今までの球は全て爆発していないことにも気づいた。なら、避けるべきは石だけでいい。それ以外は弾いてしまえば。

気づけばリーナは土煙を抜け出し、シヨンにあと数メートルという距離まで接近していた。

あと少し…!あと少しでシヨンさんに…!


「来なさいリーナ!これが最後よ!」


リーナは足に力を込めたところで気付いた。昨日と同様の魔法陣が、シヨンの足元に展開していることに。魔法陣が昨日と同様の光を上げ、二人を包む。


「考えなくていい!」


リーナは光の中でも、シヨンに向かって走る続ける。そして、姿を見つけた瞬間に腰から短剣を抜いた。


「ちょ、まさか!」


シヨンが制止しようと、リーナに魔法をかけようとするがリーナは止まらずに抜いた短剣をシヨンに投げつけた。


「っち!」

シヨンは左手を前に出し、魔法陣を展開する。その魔法陣に短剣は勢いを殺されるが、足元の魔法陣も消えていた。


「シヨンさん、勝ちですよ」

「っ!?」


シヨンは脇の下まで接近していたリーナに驚き、声を上げる。そして気づいたときには、左足でリーナの脇腹を横下蹴りしていた。


「あ…。ごめん」


シヨンの声はリーナに届くことなく、リーナは闘技場の壁に激突し、気を失った。


「試合終了ですー!」



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