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ミキタビ始めました!  作者: feel
1章  初めての王国
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試験勉強後には試験があります 5

 デザートを食べ終えた二人は、ギルドを出て王国から少し離れた草原にいた。


「アマナさん、どうしてこんな所に来たんですか?」

「それはですね。お昼寝をするためです」


そう言うと、アマナは肩掛けカバンから杖を取り出し、上空に魔法陣を描いた。

すると、その魔法陣を中心にオレンジ色の光が大きな球体になってアマナとリーナを覆った。


「すごい…。でも、お昼寝をするのに、どうして魔法なんて使うんですか?」

「お昼寝をするのは私だけです。この結界の中で今から、リーナちゃんにはシヨンちゃんに勝つための特訓をしてもらいます!」

「えぇ!?急にどういうことですか!?」


アマナはリーナの事を無視して、結界から出て行く。


「アマナさん!?」


リーナがアマナの後を追い、結界から出ようとすると結界に衝突して、結界の中央でしりもちをついた。


「シヨンちゃんは、わざと負けれるような子じゃないですからね。なら、リーナちゃんは正面から勝つしかありません。しかし、今のままじゃ、リーナちゃんは絶対にシヨンちゃんには勝てません。どうしますか?特訓はせずに、明日も今日みたいに泣きますか?」


アマナはあからさまな挑発をリーナにしかける。


「私は頑張る子には、とことん付き合います。しかし、諦めてしまった子に手を差し伸べるほど優しくも暇でもありません」


アマナの口調は変わらないが、そこには信念と呼べるものをリーナは感じた。


「…アマナさん、ありがとうございます」


リーナは自分がシヨンに勝てないことを理解していた。対策を練ろうとしても何も思い浮かばなかった。そのことを見越して、アマナは自分に特訓の場を用意してくれた。そう思と、感謝の気持ちが込みあがってきた。


「では、訓練を受けるということですね?私はシヨンちゃんほど強くはないですけど、シヨンちゃんよりも厳しいですよ?」


アマナの眼光がリーナを刺す。


「望むところです!お願いします!」


リーナはそれを受け取め、頭を下げた。


「よく言いました。それでは訓練開始です!」


アマナが結界の外で、杖を上げると結界の中にシヨンと同じくらいの体格をした紫色の何かが作り出された。


「結果から出る方法は一つ、そのシヨンちゃん人形に触ることです。しかし、球の魔法は全方位から飛ん

できますし、速度も威力も登録試験よりも高いです。倒れても容赦なく飛んできます。そのことを覚えていてください」


アマナがそう言い終えると、リーナの背後から球が飛んできた。


「っか!」


リーナは反応こそできたものの、体が追い付かず吹き飛ばされそのまま結界に激突した。


「試験の時よりも、三倍はある…。あれがもし爆発の球だったら…」

リーナは姿勢を直し、結界から生み出される球の色を見た。

「…全部同じ色?」


結界から生み出される球は全部、オレンジ色をしていた。


「見難いけど、一つも爆発しないなら!」


リーナは腰から短剣を取り出し、人形に向かって走り出す。リーナの目の前から球が飛んできた。それをリーナは短剣で、切ろうと横に短剣を振る。すると、短剣の刃が球に触れた瞬間大きな爆発をして、リーナは再び吹き飛ばされ、結界が作り出していた他の球に触れさらに大きな爆発を受け、高く打ち上げられたリーナは、地面に激突する直前で横から球が飛んできて、地面との激突は免れた。


「…はぁ…はぁ……」


リーナは乱れた息を整える。その間にも前方とから球が飛んで来ている。リーナは即座に右へ飛び、回避するが後ろから飛んできた球に反応できずに前方に倒される。


「大丈夫…。まだ、動ける…」


手と足に力を入れ、立ち上がる。

リーナの後方の結界から球が生み出される気配がする。しかし、それを目視してから避けるほどの体力が残っていない。

よって、リーナが取れる選択は一つだった。

結界から球が発射される。それに対してリーナはわずかに体を横に逸らす。獲物を見失った球は、そのまま向かいの結界に衝突し、大きな爆発をした。


「これは、ただの賭け…。当たれば、いや、当たることは考えなくていいや…」


今度は両左右から、球が飛んでくる。

それをリーナは全身を前に傾ける。球が体の上でぶつかり、両方が自分の来た方向に帰っていく。それを気配で感じつつ、リーナはよろめきながら、ゆっくりと人形に近づく。


「爆発の方ならよかったのに…」


リーナが人形に一歩近づくたびに、球が様々な方向から飛んでくるが、それをリーナは体を傾けたり、横に移動というよりはよろけるようにして回避する。進行方向に進むしかない球は、球同士や地面、結界に衝突して爆発した。


「もう少し…」


あと一歩で手を伸ばせば、人形に触れられる。そんな距離まで進んだときに、リーナは前後左右から球が飛んできたのを感じた。


「はっ!」


リーナは最後の力を振り絞り、大きく跳んだ。四つの球はこれまでと同じく、それぞれの方向に帰っていく。

重力に従い、落下するリーナは頭を前に傾け人形の方に重心を寄せる。


「いける!」


リーナは大きく腕を広げ、人形に抱きついた。


「やった…」


リーナは人形からずるずると落ち、その場にあおむけで倒れこんだ。


「おめでとうございます!」


結界が解け、隣から、アマナの声が聞こえるが、顔を横に向けることもできない。

かろうじて目を開けると、ずっとオレンジ色だった上空はわずかな赤を残し紺色になっていた。


「すぐに治しますので、ちょっと待ってくださいね」


アマナがリーナの顔を覗き込み、体に手をかざすと緑色の光がリーナを包んだ。


「暖かいです…」


目を閉じると、体の疲労がすとんと落ちていくような感覚がする。


「終わりましたよ!お疲れ様でした!」


目を開けると、体が嘘のように軽くなっていた。


「あんなにしんどかったのに…!」


「私、回復魔法だけは今まで誰にも負けてこなかったんです!」


アマナが腕を曲げ、自慢するように鼻を鳴らした。


「それよりも、びっくりしましたよ!お昼寝から起きると、リーナちゃん、どこかの仙人みたいな動きしてましたもん!」


リーナは仙人と言われ、自分の動きを思い返すと、確かにそうかも知れないと思った。


「あはは…。あれは、体力がなくて…。というか、本当に寝てたんですね…。私、結構死にかけましたよ?」


走れるほどの体力が残っておらず、当たっても仕方ないという気持ちで動いていた。

しかし、リーナは不思議と当たる気がしなかった。


「あー、まぁ、死んだらごめんなさいして埋めとく予定でした」


アマナはバツが悪そうに人差し指で頬を掻き、目を逸らした。


「さて!もう夜も近いですし、帰りましょうか」


パンと手を鳴らし、アマナは話題を変えた。


「そうですね。私、もう眠気が限界まで来ました…」


瞼を開けているのも辛い眠気が、リーナを襲う。


「宿はもう取ってくれてるそうなので、私がおんぶして運んであげます。私の背中の上で、眠っていてください」


アマナはリーナに背を向けて、しゃがんだ。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


リーナはアマナの背に倒れるようにして、深い眠りに落ちた。



 温かい光が瞼を差し、リーナは目覚めた。


「ここは…?」


体に被さっていた毛布をめくり、体を起こす。辺りを見渡すと、キレイな部屋になっていて、自分はベッドで寝ていたようだ。右には広いベランダがあり、左は通路になっていた。


「…私、あのまま夜まで寝っちゃったんだ」


リーナはアマナに王国まで送ってもらうつもりだったのだが、まさか自分が夜まで寝るとは思っていなかった。


「そういえば、アマナさんはどこだろ?」


アマナの姿を探そうと、ベッドから降りる。すると、驚くほど体が軽くなっているのに気づいた。


「アマナさんが治してくれたのかな?」


リーナはベッドから降り、左の通路に曲がるとすぐにドアがあった。

そのドアのドアノブを下げ、開けようとすると勝手にドアが開き、前に体勢が崩れる。


「わっ!」


転倒すると肝を冷やしたが、なにか柔らかい物がクッションとなり、転倒はしなかった。


「あぁ、ごめんなさい。リーナちゃん、大丈夫ですか?」


リーナが顔を上げると、アマナの姿があった。


「あ!ごめんなさい!」


すぐに、アマナの体から離れる。


「起こしに行こうと思ったんだけど、もう平気みたいですね」

「はい!おかげさまで、すごく調子いいんです!」


リーナはその場で、数回跳んだ。


「ふふ、良かったです。でも、ここには他のお客さんもいますし、まだ朝も早いのでもう少し静かにしましょうか?」


アマナは人差し指を口のところで立てて、しーっと言う。


「すみません…。そういえば、ここってどこなんですか?」

「ここは、冒険者や旅の商人さん、観光の方が泊まれる旅館です。朝ごはんも出てくるので、行きましょうか?」

「はい!実は私、すっごくお腹空いてたんです」


空腹で、お腹が鳴らないように抑える。


「では、付いてきてください」


歩き始めたアマナの後ろ姿を見て、リーナはアマナが昨日とは違う、素朴でゆったりとしたキレイな服を着ていることに気付いた。



 キレイな後ろ姿に見惚れながら、付いて行くとテーブルや椅子はなく、小さなテーブルのような物の前に敷物が敷いている部屋に入った。


「その敷物の上に座るんです」


リーナがどこに座ればいいか、キョロキョロしているとアマナがお手本のように膝を折り、お尻の下に入

れて、敷物の上に座った。

リーナも同じように座ると、引き戸の奥から声が聞こえた。


「おはようございます。お料理をお持ちしました」


引き戸が開き、二名の従業員らしき女性が、それぞれの前にある小さなテーブルに小鉢に入った様々な料理と、下の部分が燃えているお鍋らしきものを置いた。


「失礼しました。ごゆっくりどうぞ」

「はい。ありがとうございます」


アマナが礼を言うと、二人の女性は部屋から退出した。


「珍しい料理ですね?」


これまで王国で食べてきた料理とは異なり、匂いや色が控えめな料理が多い。


「ここは、数少ない和食という料理を出してくれる旅館なんです」

「へぇ…」


魚を焼いたものや、山菜らしきものがメインだった。


「素朴な味ですけど、落ち着きますね」

「はい、体が温まります」


リーナとアマナは和やかな笑みを浮かべながら、初めての和食を堪能した。



 和食を食べ終わった後に、リーナとアマナは温かいお茶を飲んでいた。


「アマナさん、今日ってシヨンさんはどこにいますかね?」

「シヨンちゃんに会いたいんですか?昨日あんなに泣かされたのに?」


リーナは昨日、シヨンと登録試験という名目で戦い、負けた上に泣いてしまった。

普通はそんな相手とはもう会いたくない、となるはずだ。


「そうですね…。本当を言うと会いたくはないです。けど、シヨンさんにありがとうって言わないまま、言えないまま終わりなんて、嫌ですから」


そう話すリーナの手に自然と力が入る。


「そうですか。安心しました…」

「安心、ですか?」

「はい、もしリーナちゃんが昨日の試験のこと、特訓のことで冒険者になることが嫌になったら、私は少し悲しくなっていたと思うので」


アマナはリーナに向かって、微笑む。その微笑みには安心からなのか、感謝の気持ちが入っているように

リーナは感じた。


「シヨンちゃんなら、昨日の試験からずっと闘技場にいますよ。夜に見に行くと、泣きそうになりながらリーナちゃんの様子を聞いてきました」

「ずっとですか!?それに泣きながらって!?」

「シヨンちゃんは優しい子ですからね。早く行ってあげてください。私も必ず見に行きますので」


リーナは自分のリュックを背負い、部屋から出て靴を履き


「アマナさん、特訓の成果ぶつけてきますね!あと、色々おいしかったです!」

リーナは深々と頭を下げた後に、店を出てから全力でギルドに向かった。



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