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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
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願い 覚悟 197


 腹部に致命傷を負っていたロミオ。彼はヨイラの魔法で命の危機からは脱したが、立っているだけで息を上げており、とても戦えるようには見えなかった。


「今すぐ魔法を解いてください!本当に死にますよ!?」


「ここでリーナ君が負ければどのみちさ。なら、僕も戦わないとね」


 ロミオは長剣を構えてダモクレスへと剣先を向ける。だが、剣先は小刻みに震えていた。


「……ヨイラ、私の足をくっつけられるアル?」


 ロミオを必死に制しようとしているヨイラはシャンシャンの言葉に多少の戸惑いを感じながらもすぐに答える。


「回収さえできれば…。でも、シャンシャンさんももう戦うことはできません!血を失い過ぎです!これ以上流血すれば、助けられる保証はできません」


「死なないだけ十分アル」


 そう言うとシャンシャンは手を二回叩いた。すると、遠くに転がっていたシャンシャンの左足は一度目の爆発で方向を変え、二度目の爆発でシャンシャンの足元まで転がってきた。


「ロミオ、私の足が治るまでの時間を稼ぐアル。そこからは私に譲るネ」


「……感謝する」


 ロミオは短くそう告げると長剣を構えて、リーナと睨み合うダモクレスへと駆け出した。


「ヨイラ、治すアル」


 シャンシャンは転がってきた自身の左足を持ち上げて、ヨイラへと渡す。だが、ヨイラはその足に手を伸ばすことをしなかった。


「……できません。私がオーナーから受けた命令は誰も死なせないことです。今あなたの足を治せば、あなたは死にに行く。そんなことはできません」


「あんたまだ───」


 顔を下に向けて治療を拒否するヨイラに対してアムリテは声を上げようとする。だが、そんなアムリテの前に手を伸ばすことでシャンシャンは制止する。そして、シャンシャンはその手を動かしてヨイラの頭の上に置いた。


「ヨイラ、誰も死なないアル。だから、私の足を治してほしいネ」


 嘘だと分かる言葉。だが、その言葉にヨイラはたまらず顔を上げた。すると、目の前には見たことも無い柔らかな笑みで笑っているシャンシャンがいた。その顔を見たヨイラは涙が溢れだし、そっとシャンシャンの足を受け取った。


「し、死なないで、ください…。死なな、ければ、絶対に、助けますので……!」


 ヨイラは受け取ったシャンシャンの足の傷口に手を当てて魔法を行使する。淡い緑色の光が切られた傷口に集まると、傷口の表面がわずかに動き出した。


 それを確認したヨイラは切られた左足をシャンシャンの左腿にくっつける。


「…………三分、です。それが治療時間と、動いていい限界です」


「分かったアル」




 ヨイラがシャンシャンの治療を始める数分前、ダモクレスはリーナから免染を逸らし、向かい来るロミオと攻防を繰り広げていた。


 その攻防は一度目のような剣対剣の戦いではなく、拳と剣がぶつかり合うものだった。


 ロミオはダモクレスの右肩から脇腹を切り裂くように剣を振るう。その剣をダモクレスは右手の甲で受け止め、左手を握り締めてロミオの腹部へと殴り込む。


 ロミオは一連の流れを読んでいたかのように、長剣を握る右手首を回した。すると、長剣はダモクレスの右手の甲を滑り。放たれた左拳をその剣身で受け止めた。


 両腕を攻防に使ったことによりがら空きとなったダモクレスの腹部にロミオの足蹴りが入る。だが、ダモクレスは一歩も動くことなくその足蹴りを受け止めた。


 そして、開いた右手を握り締め、ロミオの顔面へと振るう。


 その瞬間、ダモクレスの背中に強烈な痛みが走り、羽を広げて上空へと回避した。


「助かったよ、リーナ君」


 ダモクレスのいた少し後ろには鏃を左手に持ったリーナの姿があり、その先には紫色の血が付着してた。


「右腕が使えてれば、今ので……!」


 ロミオが体を張って作り出した千載一遇のチャンス。だが、先の攻防で右肩を負傷していたリーナ。左手で握った鏃ではダモクレスに致命傷を負わせることができなかった。


「焦ることはないさ。彼にも相当疲労がたまっている。その証拠に、今の僕でもまだ生きてる。落ち着いて行けば勝てるさ」


「やっぱり、ロミオさんはその感じが似合ってますね。分かりました。落ち着いて行きましょう!」


 意気込む二人を上空から見下ろすダモクレスは負傷した右肩に手を置いた。しかし、これまでのように傷が回復することはなかった。傷が回復しないダモクレス。だが、ダモクレスはわずかな笑みを浮かべた。


「そうか…。我らが願いは叶うのだな……」


 ダモクレスは広げた羽を数回動かすと、離れた位置に転がっていたリーナの短剣を手にする。そして、ダモクレスはその短剣はリーナの足元へと放り投げた。


「少女よ。貴様がそちらに立つというのなら、我を殺していけ。その覚悟が無ければ、ここで死ね!」


 拳を掲げてそう宣言したダモクレスはリーナへと真っすぐに駆け出した。


 リーナは迷う暇もなく、短剣を手にして迫りくるダモクレスへと向かう。


 ロミオもまたリーナをフォローできるようにとその後ろを付いて行く。


 ダモクレスは十分に腕を引いて拳を放った。それは風を巻き付けながらリーナの顔面へと進む。その拳がリーナの顔面に届くよりも先にロミオは長剣を伸ばして、拳に剣身を当てることで軌道を逸らす。


 だが、ダモクレスの攻撃はそれだけに終わらず、すぐさま左手を握り締めて下側から腹部へと迫る拳を放っていた。リーナはその攻撃を伸び切っていたダモクレスの右わきに入ることで回避し、両腕が伸び切ったダモクレスの胸へと左手で握った短剣を突き刺した。


 ダモクレスは苦痛に顔をゆがめるが、口を開け、首を伸ばしてリーナの首筋へ噛みつかんとする。その開かれた口にリーナは自身の左腕を噛ませ、ダモクレスの胸部に刺さった短剣を額で押し込んだ。


「っぐ……」


 ダモクレスはその衝撃に耐えることができず、よろけながら後ろへ後退して床に尻を着けた。その体からはみるみるうちに覆っていた光が霧散していく。


「……それで、良い。それでこそ、同族よ……」


 ダモクレスは体を支えていた両腕から力を抜き、仰向けになる形で倒れこんだ。


 長期戦になると予想していたリーナとロミオはその行動が罠である可能性を疑い、いまだに剣先を倒れたダモクレスへと向けている。だが、ダモクレスが目を閉じたことでその警戒は少しずつ薄れて行いき、リーナはダモクレスへゆっくりと近づく。


「一つだけ、聞かせてください。あなた達はどうしてこんな事を…?」


 ダモクレスは閉じた目を薄く開けると、何も言わないまま呼吸をやめた。そして、ダモクレスの体から大量の血があふれ出した。その血はどれもリーナ達が付け、ダモクレスが治していたはずの傷口から溢れ出していた。


「…体を騙していたんだね。だからあんなにも早く傷が治ったように見えたんだ。痛みも誤魔化していたんだろうね」


 体中から血を出しきり、やせ細ったように見えるダモクレスを確認したロミオは長剣を腰に下げた鞘に戻し、少し離れた場所に座り込んだ。


「少し休んだらオーナー達と合流しよう。君も疲れているだろう?腰を下ろすと言い」


 リーナは首を縦に振り、ダモクレスに一度目線を送ってから、ヨイラたちの元で体を横にした。


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