ダモクレス・ドルドレッド 191
全身から紫色の光を放つ魔族。それに対するロミオは五つの光球を備えて、魔族へと切りかかった。剣先に一つ、剣身の両サイドを挟みこむ形で四つの光球が移動し、ロミオの左下からの切り上げに追随する。
魔族はその切り上げに右手に持った長剣で受けようとする。しかし、魔族が持っていた長剣はロミオの生み出した光球の一つに触れた瞬間、藍色だった剣身が赤く光り、光球に触れた部分が融解された。
魔族は手にしていた長剣が光球に触れた部分より先を床に落とし、短くなった事でロミオの斬撃を右脇腹に受けた。だが、ロミオの斬撃は魔族の体に傷をつけることなく、皮膚に触れたところで止まってしまった。
「展開しろ。フォトン・スフィア」
魔族の右脇腹で止まった長剣。その周りに浮遊していた五つの光球はロミオの言葉を受け取ると、魔族の腹部を取り囲むように広がり、五つの光球は魔族の腹部に触れた。
「っぐ…」
光球は先ほどの長剣のように魔族の体を貫通する事はなかったが、魔族の腹部を赤く熱していた。その熱に魔族は小さなうめき声を上げると、羽を羽ばたかせて空中へと脱出を試みる。だが、光球は魔族の腹部から離れることはなかった。
「……浅知恵も極めれば、か。だが、セカンダリーには遠く及ばない」
「なら、そのまま焼け死ねばいい。咲け、フォトン・スフィア」
ロミオは魔族の言葉に対した反応をすることなく、上空へと逃げた魔族に向かって拳を握り締めた。すると、魔族の腹部に接触している部位を残して、光球は八つの花の形へと変形した。
光り続ける花、光花はそれぞれがその花弁を散らし、その花弁は魔族の顔面を中心に纏わりついて行く。
「注意するといい。その花弁一枚一枚は大した温度ではないけど、重なればフォトン・スフィアを越えるからね。と言っても、もう耳が残ってないだろうけどね」
ロミオは腹部を光球に、顔面を花弁に覆われた魔族に背を向けて、リーナ達の方へと視線を向けた。
「少し、恥ずかしいところ見せたね。ここにいる君達だけの秘密にしてくれないかな?」
それは歯をむき出しにして魔族と戦っていた事を指しているのだろうと、皆が理解する。しかし、その要求にこたえたのはリーナ達、三人の誰でもなかった。
「安心するがいい。人間ども、四匹全員の命はここで消えるのだから、誰にも告ぐことはできない」
それは超高熱の光球と花弁に顔面と腹部を覆われてもなお浮遊し続けている魔族からの言葉だった。
「……油断するからアル」
ロミオが魔族の言葉に驚き、振り向こうと体を捻らせると、突如として口から大量の血を吐血した。そして、遅れてロミオの体の腹部から大量の血を噴き出した。
ロミオはそのまま言葉を喋ることも身動きすることも無く、前方に倒れてしまった。
「アムリテ、回収をしてやるネ」
シャンシャンの忠告から常に杖を光らせていたアムリテは、その言葉よりも先に水で長い縄を作り出し、ロミオへと向かわせていた。
「我々の戦いだ。邪魔をするな」
ロミオが倒れたことにより、光球と花弁から解放された魔族は右手に持った長剣でアムリテに向かってその剣を振るった。すると、紫色の斬撃がアムリテに向かって放たれた。
「それはそっちの勝手アル」
シャンシャンはおもむろに手を一度だけ叩き合わせる。すると、魔族が生み出した斬撃は中心から爆発し、アムリテに届いたのはその爆風だけだった。
「ヨイラ!」
アムリテはロミオの右足を水縄で掴むと、勢いよく引き戻してヨイラの前へと運んだ。その際にも血は止まることなく流れ続けており、傷の深さを物語っていた。
ヨイラはその容体をすぐに察して、着ていた上着をロミオの腹部に強く巻き付けてから、回復魔法をかけ始めた。
「ここからは私とリーナとアムリテの三人で戦うアル。あいつと戦ってるときに仲間を誘え、とか言ってたし、不満はないネ?あっても聞かないけどネ」
「…好きにするがいい。だが、その男の命はこちらの物だ」
魔族は右手に持っていた長剣をヨイラの前で横たわるロミオをへと投げつけた。
「そんなに焦らなくても、私達を殺せば自動的にそうなるアル」
シャンシャンは再び手を一度叩くと、ロミオへと一直線に向かっていた長剣の剣先が爆発を上げ、魔族へと進行方向を変えた。
魔族は自分に帰ってきた長剣の柄を掴み取り、その長剣を見つめた。
「セカンダリーに到達できなかった者の浅知恵は興味深いな。一芸にしては十分だ」
魔族はロミオから視線をシャンシャンへと移し替えると、少しだけ口角を上げて笑みを作った。
「リーナ、目が慣れるまでは距離を置くアル。それまでは私が前を張るから、慣れてきたら援護して欲しいネ」
「分かった。慣れるまでは弓で戦うね」
リーナは手にしていた短剣を鞘に戻すと、リュックから弓と矢を取り出した。
「我はダモクレス・ドルドレッド!三匹の人間よ!貴様らの命、頂戴しよう!」
「それ、二回目アル」