進むべき道 189
腹部を中心に体全体へと広がる温もりを感じたリーナはゆっくりと体を起こした。
「気づかれましたか!完璧に治ったはずですが、痛みや違和感はありますか?」
「すごい……。どこも痛くないです!ありがとうございます!」
リーナは衝撃を感じた右の脇腹をさするが、運ばれてる間にも痛んでいた脇腹は嘘のように何の痛みもなかった。その様子を確認したヨイラはリーナから手を逸らし、リーナを覆っていた緑色の光は周囲に消えて行った。
「リーナさん、まずはすみませんでした!あなた達がいなければ、あの魔族に一瞬で殺されてました。なのに、車の中ではあんな態度を……」
「い、いえ!私もヨイラさんがいたから今助かってるわけですし…。あ、もしかして、敬語を使ってるのもそれを気にして?」
「はい。私は今回のメンバーの中で一番弱い。だから、せめてもの礼儀、みたいなものです」
車内ではタメ口だったヨイラが敬語を使っているのに違和感を感じたリーナ。それは彼女なりの誠意の表し方だった。
「そんなの全然大丈夫ですよ!弱いって言っても、ヨイラさんの強みは回復魔法ですし!」
リーナはヨイラの回復魔法を受けて、その効力に驚いていた。数分前までは歩くどころか、会話することさえできないほどの痛みが、ヨイラの魔法で消え去ったのだ。
そんなリーナの言葉を聞いたヨイラは少しだけ驚いたような顔をすると、くすりと笑った。
「すみません。だって、アムリテさんにも同じことを言われたので」
「え、そうなんですか!?」
リーナがアムリテの方に視線を向けると、アムリテは床の上であおむけになって寝ていた。その様子に拍子抜けし、リーナもくすりと笑った。
「じゃあ、リーナ。悪いけど、私を守ってくれる?その代わり、何かあったら絶対に治すから」
「もちろんです。そうとなったら、すぐに戻りましょう。シャートさんが心配です。ほら、アムリテも起きて!風引いちゃうよ?」
リーナは床で寝息を立てているアムリテの体を揺すって起こそうとする。
「んぅ…」
アムリテは眠たげな声を上げつつ起き上がると、目を開けてリーナを視界に入れた。
「…起きたのね。全く、心配させんじゃないわよ」
「寝てたのはアムリテじゃん……。それより、早くシャートさんのところに」
「あ、その事なんだけど二人とも聞いて欲しいことがあるの」
書庫へとつながる通路を進もうとしたリーナの足をヨイラの言葉が引き留めた。
「多分、シャートさんは心配いらない。むしろ、私達が行くと邪魔になる。あの人の魔法は対象を選べないから」
「対象を選べない?どういうことですか?」
「…そのまんまでしょ。その場にいる全員に攻撃、あるいは作用する魔法。簡単なのは空気に干渉して毒を流すとか、あの書庫なら全部の本を燃やすとかね」
アムリテの説明にリーナはなるほど、と呟いて納得した。
「その通りなの。だから、私達は正面の通路じゃなくて、両サイドのどちらかに行きたいの。賛成してくれる?」
「分かりました。なら、どっちに行きますか?運が良ければオーナーさんたちともシャンシャンとも合流できますけど、逆だったら……」
正面の通路にはエンソフィリアがいた。その事を踏まえると、三つの通路にはそれぞれ魔族が待ち構えていると考えられる。
そこで問題となってくるのは、先に入った二組の行方だった。二組と合流できれば心強いが、どちらとも合流できずに魔族と出会えば今度こそ命はないだろう。
「何か痕跡、目印とかはないの?」
アムリテの問いかけにヨイラは首を横に振る。
「急な事でしたし、今回みたいな決闘場を出て目的を達成する事なんてなかったので……」
三人がそれぞれの通路の先を見つめて、どちらに行くか悩んでいると右側の通路から大きな爆発音がした。
「きゃ!?」
ヨイラはその音に驚きその場にしゃがみこむ。爆発音はその後も何度も続き、それが戦闘をしているから起こっていると分かったリーナとアムリテは進む通路を決めた。
「立ちなさい。さっさと行って援護するわよ!」
「ヨイラさん、掴まってください」
「あ、ありがとう…。もう、大丈夫。ちょっとびっくりしただけ。うん!」
リーナとアムリテから差し伸べられた手を握り、お尻に付いた土を払うと、三人は急ぎ足で右側の通路へと足を進めた。
いつもお読みいただきありがとうございます!feelです!
最近、忙しくてあとがきを書けていませんでしたが、少しだけお知らせを!
実はサブタイトルに記載している番号がずれているようですので、本日、9/18の午後に全て訂正します!
なので、お読みいただいた今回の話数は186話ではなく、189話となります!
次回の更新話数は190となっておりますので、よろしくお願いします!
これからもリーナ達のミキタビをよろしくお願いします!