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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
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喪失 役割 夢の国 188


 リーナを背負って、苔が前面に生えた広場まで戻ってきたヨイラは中央にある大きな石の上にリーナを横たわらせた。その際にリーナは小さなうめき声を上げた。


「……大丈夫。私はできる。弱くない…」


 ヨイラは震える手を握り締め、必死に自分へと言い聞かせる。


 ヨイラは数えきれないほどの人間を回復魔法で癒してきた。それは彼女の実力を証明すると共に、彼女の確固たる自信へと繋がっていた。


 しかし、ヨイラは先ほどの魔族、エンソフィリアとの戦いで活躍どころか、味方の足を引っ張っていた。それはヨイラに動揺を生み、回復魔法の実行すら躊躇うほどにまでいた。


「……足を引っ張るな、なんて言っといて私が一番邪魔になっていた……。挙句の果てには人質にされて……」


 ヨイラはリーナから目を逸らし、震える自分の手を見つめた。


 自分よりも一回りも幼い少女たち。彼女たちは魔族に臆することなく、エンソフィリに血を流させるほどの働きを見せていた。その事実が更にヨイラを追い込んでいた。


 ヨイラがどうしようもない無力感、あるいは喪失感に襲われているとヨイラ達が抜けてきた通路から足音が聞こえてきた。ヨイラはエンソフィリアが追ってきたのかと、腰を抜かすが、通路の先から顔を見せたのはアムリテだった。


「…アムリテさん!?生きてたんですね…!」


「生きてたって言うか、逃げてきたわ。ところで、リーナは治ったの?」


 ヨイラの言葉を軽く流したアムリテは、ヨイラに預けたリーナの姿を探す。その姿はすぐに見つかり、リーナは広場の中央にある石の上で横になっていた。


 その顔はいまだに青ざめており、とても回復魔法が使われた後には思えなかった。


「あんた何してたのよ!?何のために先に逃がしたと…!まさか、リーナを治さないつもり!?あの子は危険を承知で一番前に……」


 アムリテは気持ちを抑えられずにヨイラの胸倉をつかみ上げる。


「ま、ち、違います!違い、ます……。治そうとは思うんです……。だけど、無力な私が下手な魔法を使って悪化させたら、なんて思うと……。このまま、動かさないで治るのを……」


「はぁ?何言ってんのよ」


 弱弱しく言葉をこぼすヨイラ。その言葉を聞いたアムリテは手を離して、ヨイラへと言葉を発する。


「さっきの戦いであんたが何もできなかったのは仕方ないこと。そもそも、誰も医者に戦闘なんて頼んでないの!ちょっと戦えるのか知らないけど、仕事を間違えないで!あたしが、今あんたに求めてるのは魔法でリーナを治すことそれだけ!あんたなら出来るでしょ!?」


 これまで戦闘もできる医者。その立ち位置で居たヨイラはいつの間にか、回復魔法と同列に自身の戦闘面に誇りを持っていた。だが、出会ったばかりの少女に言われた、あたりまえの事にヨイラは心のどこかで何かが解けて行くのを感じた。


「……リーナさんの傷は数か所の骨折だけです。今は折れた骨が内臓に触れていて、痛みに耐えかねているのかと。五分。五分で治して見せます」


 ヨイラはアムリテの反応を待つことなくリーナへと踵を返し、リーナへと両手を向けた。


 その両手からオウジンを治した時と同じ淡い緑色の光がリーナを包みこんだ。


「あたしも少し休まないと……。置いてきたあいつには悪いけど、魔力が……」


 アムリテは言葉を言い切る前に苔に覆われた床にお尻を付け、寝息を立て始めた。


×××××××××××××××××××××××××××××××××××××


 馬の背中から真っ白な翼が生えた人形が宙を歩き、純白のドレスを着た女性の人形が黒のタキシードを着た男性の人形と歩いている。そんな現実離れした空間には、シャートと魔族の少女、エンソフィリアがいた。


 先刻までシャートの頭部を潰し、体を見るも無残な姿にしたエンソフィリアは近くに転がっていた少女を模した人形を手に、翼の生えた馬に乗って宙を散歩していた。


「あはははは!こんなの初めて!皆可愛くて、ふわふわしてて、本当に夢みたい!」


 その顔は年相応の笑顔を浮かべており、魔族と言われなければいたって普通の少女と思えた。

 そんな少女を下から見上げるシャートは空間に似合わない木製のベンチの上に座っていた。


「おじさん!もっといっぱい可愛いの出して!ペガサスだけじゃなくて、ドラゴンとかリッチーとかも!あ、あと逃げちゃった三人の女の子も!」


「はいはい。じゃあ、頭の中で思い浮かべてみろ。どんな肌触りか、どんな色なのか、どんな大きさなのか、全部はお前の理想通りになる」


 そう言われてエンソフィリアは持っていた人形を手放し、ペガサスの上で両腕を組んで必死に想像をかきたてた。すると、エンソフィリアの腕の中にリーナ、アムリテ、ヨイラ、三人の姿を模した小さな人形が現れた。


「わーい!可愛いー!次はリッチーとデュラハン!そーれ!」


 エンソフィリアが指を振るうと、エンソフィリアを囲むようにしてボロボロの布を着たリッチーと甲冑を着ながら頭部を失っているデュラハンが現れた。


「人形は人間の子どもと同じなのになぁ。やっぱ魔界ってあぁ言うのがいるのかね」


 現れたリッチーとデュラハンは人間のシャートからすれば嫌悪の対象にしかならなかったが、二つを生み出したエンソフィリアは満足している様子だった。


「おじさん、その椅子、可愛くない!もっと、ふわふわのになーれ!」


 エンソフィリアは再びペガサスの上からシャートの乗るベンチに向かって指を振った。すると、木製だったベンチはもこもことした羊毛のような質感に変わり、シャートはその中に埋もれてしまった。


「…ったく。どっちでもいいが、俺はまだ二十六だぜ。おじさんじゃねぇ、よな……?」


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