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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
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飽きられたおもちゃ 187

「ヨイラ!すぐにあいつと魔法使いを連れて逃げろ!」


 震える足で何とか立っているヨイラに向かってシャートが声を上げる。その正面では一切の表情をなくしたエンソフィリアが、シャートに向けて紫色に光る右手を向けた。


「っち!魔法使い!さっさと連れを回収しろ!」


「言われなくても!」


 アムリテはエンソフィリアから視線を外し、リーナが飛ばされたであろう倒れた本棚に向けて水で出来た縄を飛ばした。水縄は水球よりも圧倒的な速度を持ち、重なる本棚の隙間を縫ってリーナを本棚の中から救い上げることに成功した。


「っが、っけほ、けほ……」


 右足を水縄で縛られ、宙づりになったリーナ。その体に目立った外傷はないが、左の脇腹を手で抑えており、顔をしかめていることから無傷ではないことが分かった。


「ちょっとだけ我慢しなさいよ!」


 アムリテは水縄を全速力で自身の方向へと縮めて、足元までリーナを引き寄せた。その反動でリーナはうめき声を上げるが、半端な速度で回収すればエンソフィリアに攻撃されることは必至だったために、一切速度を緩めることはできなかった。


 アムリテの足元で横たわるリーナ。そんな彼女を見つめていたヨイラに向かってアムリテが叫んだ。


「何してんのよ!?さっさと逃げてリーナを治しなさい!」


「は、はい!」


 アムリテに命令されたヨイラは、すぐさまリーナの体を背に乗せて入ってきた通路を戻って行く。


 それを見ていたエンソフィリアはなおも感情を表さないまま、シャートに向けていた右手の平を上に向けて、そのまま腕を振り上げた。


「っぐ!?」


 すると、シャートの体は高速で宙に浮きあがり、勢いが弱まることなく遥か上にある天井に追突した。シャートが追突した天井からがれきが落ち、シャートは力なく床へと墜落を始めた。


「アルト・スフィア!」


 自由落下を続けるシャート。その体は床に触れることなく、空中でアムリテが生み出した水球の中で止まったのだ。


「あんた戦えるんでしょうね!?」


 アムリテの呼びかけにシャートは弱弱しくも水球の中で右腕をあげた。


 その様子にアムリテは舌打ちをして、エンソフィリアを見つめた。


「…あいつを受け止めた時に感じた。……本だけじゃなく、動かしたいものを魔力で包んで思い通りに動かす。それがあんたの魔法ね。どんな魔力量なのよ……」


 エンソフィリアは出会った時のような明るい少女ではなく、ただの人形かと思えるほど無機質な目でアムリテを見つめる。それはおもちゃに興味を失った子供のようにも見えた。


「あたしよりよっぽど鍛えてるリーナが一発であの状態。更に、あたしの魔法はどれも傷一つ付けられない。もうお手上げね」


 アムリテは状況を整理して、一つの解答を導き出した。


「シャート、だったわよね?さっきの言葉、信じてるから!それじゃあね!」


 アムリテはゆっくりと床に近づいていた水球を解除し、後ろに振り替えると全速力でヨイラたちが戻っていった通路に向かって走り出した。


「……………」


 エンソフィリアはそんなアムリテの背中に右手を向ける。そして、少しだけ目を見開いた。


「それはやめてくれ」


 アムリテに襲い掛かるエンソフィリアの魔法。それは背中を打ち付けたシャートが放り投げた自身の靴により阻まれた。


 アムリテとエンソフィリアの間に放り投げられた靴。その靴は突如として見るも無残に捻り潰された。


「ったく、最後まで降ろしてくれよな…。まぁ、別にどっちでもいいか。あー、俺が喋っても何も言わないってことは、もう怒ってなかったり?」


 背中に付いた汚れを叩いて立ち上がるシャート。その場違いな発言に答えるかのようにして、シャートの頭部を挟み潰すかのようにして二冊の本がシャートへと向かう。


「まぁ、そうだよな」


 シャートはその二冊の本に反応することなく、二冊の本はシャートの頭を挟み潰した。


 書庫には鈍い音が響き渡り、二冊の本の間から真っ赤な血が流れる。


 その光景を見つめていたエンソフィリアは直立のまま頭を失ったシャートの横を通り、通路の奥へと逃げた三人を追おうと歩き出した。


「……ちょっと待てよ。どっちでもいいが、無視されるのは辛いんだぜ?」


 その言葉、いや、その事象にエンソフィリアは目を見開いた。


 それはどこからともなく聞こえるシャートの声もだったが、なんと頭を失ったシャートの手が横を通るエンソフィリアの肩を掴んだのだ。


「驚いただろ?自分で言うのもなんだが、俺は決闘場では王者さんと五位さんの次にファンが多いんだぜ?特に子供のな」


 シャートの声はエンソフィリの耳に、脳に直接語り掛けるように入り込んでくる。


「ッ!」


 エンソフィリアはその声を黙らせようと、自身の肩を掴んでいるシャートの体を魔法で捻り潰した。


「そう怒るなよ。ここからはお前の理想だけが目に映る。お前が夢見た夢の国で、夢の城だ」


 シャートの言葉が終わると同時に薄暗い書庫だった風景は白い光に包まれ、光が収まるとそこはカラフルで膨らみのある壁で覆われた空間に変わっていた。


 その部屋には動物を模した人形から、可愛いげな服を着た少女の人形まで言葉無数に存在した。


 エンソフィリアが周囲を見渡していると、その視界の正面にシャートが突如として現れる。その体は頭を失っておらず、汚れていた服も元通りになっていた。


「どうだ?ちょっとは心動かされるだろう?」


「………………おじさん、すごいね!」



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