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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
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エンソフィリア(書庫での戦い) 186


 自分が本気で倒そうとしている相手からの謝罪。それはアムリテの冷静さを欠くには十分すぎる挑発だった。


「そんなに本が好きなら全部切り裂いてやるわよ!」


 アムリテは再び何もない背後から水球を生み出すと、その水球から十本に及ぶ水で出来た長剣を生み出した。アムリテはその長剣の柄同士を引っ付けると、大きな円盤状に組み合わせた。


「あたしは本なんか読まないわ。どちらかと言えば嫌いな方。こんな場所、いるだけで頭が痛くなりそうなくらいよ」


 エンソフィリアは目の前で、本に両腕を挟まれて浮遊しているヨイラの顔をむにむにと触りながら不満を口にする。アムリテはそんな発言に聞く耳を持たずに、強く光る杖を振りかぶった。すると、円盤状となった長剣は回転をしながらエンソフィリアへと向かった。


 エンソフィリアの視線がヨイラの顔から十本の長剣へと向く。


 その瞬間、リーナは本棚と本棚の間を走り抜けて長剣と自身でエンソフィリアを挟みこめる位置まで移動した。そして、リーナは何のためらいもなくエンソフィリアの顔面を狙って一本。ヨイラの顔を掴む腕に向かって二本の矢を放った。


 両サイドから襲い来る攻撃。エンソフィリアはそのうちの長剣にだけ視線を向けており、リーナの放った矢には気づいていない。


 いける。


 そう思った瞬間、エンソフィリアはヨイラの顔から手を離して手すりから飛び降りた。



 狙いを見失った矢は無数にある本棚の一つに三本ともが刺さる。


「こっちは逃がさないわよ!」


 軌道上からエンソフィリアを失った回転する長剣。しかし、その長剣はアムリテの魔法で生み出された物であり、アムリテは更なる魔力を行使することでエンソフィリアを追尾させた。


 上から迫りくる長剣。それを見たエンソフィリアは重力があるとは思えないほどにゆっくりと落下しつつ、左手を長剣へと向けた。すると、エンソフィリアの下方向にある本棚から五冊の本が飛び出して長剣を阻むようにして割り込んだ。


「逃がさないって言ってんでしょうが!?」


 アムリテはその本に構うことなく長剣に魔力を流し込む。すると、長剣の回転速度が上がり、五冊の本と接触した瞬間、五冊の本は真っ二つに裂けてしまった。


「あーあ、デトクロになんて言おう。まぁ、いっか。怒られた所でだし。それ!」


 エンソフィリアは真っ二つに裂けた本を興味なさげに見つめると、今度は右手を真上へと向けた。すると、その瞬間ヨイラの腕を挟んでいた二冊の本が長剣へと向かって上昇を始めた。


「きゃああああああああ!?」


 本に引っ張られてアムリテの魔法へと向かうヨイラ。魔法の威力は人体を切断するには十分な物であり、このまま直撃すればヨイラの絶命は目に見えていた。


「っち!」


 ヨイラへと向かう長剣。アムリテは杖を振るうことで、その長剣が回転する向きを横から縦に変更した。その結果、長剣はヨイラの胴を切り裂くことなく、ヨイラの右腕を挟んでいた本の背だけを切り裂く形となった。


 背を切り裂かれた本は紙をばらまいてエンソフィリアの頭上へと墜落した。


「痛っ…」


 本の表紙が頭部に墜落したエンソフィリアは、悲鳴というよりも不満を口にしてその表紙を床へと叩きつけた。


「左は自分で何とかしなさい!」


 アムリテの魔法によって右腕が自由となったヨイラ。そうなれば左腕の本は自分で対処できるだろうと、アムリテはなおも回転を続けている十本の長剣をエンソフィリアへと向かわせる。


「さすがにしつこい」


 エンソフィリアは真上から襲い掛かる長剣を睨みつけると、右手に紫色の光を宿して真上へと向けた。その瞬間、アムリテの生み出した長剣は弾け飛び、エンソフィリアに一滴の水もかかることなく床へと散らばった。エンソフィリアは右手光らせたままアムリテへと向ける。


「次は────」


 ────だが、エンソフィリアはそこで手を止めた。


 それは真横から短剣を持って飛び掛かってくるリーナを視界の端に捉えたからだった。


 エンソフィリアは慌てて右手をリーナへ向けようと体をねじる。しかし、リーナはそれすらも間に合わないほどに接近しており、振りかぶった短剣でエンソフィリアの右頬を切り裂き、その勢いのまま右腕に深い傷を刻んだ。


「きゃああああああああ!?」


 少女の甲高い悲鳴が書庫全体に伝わる。しかし、リーナは攻撃の手を止めることなく更なる追撃を試みようと足を前へと踏み込む。


 エンソフィリアの顔面を狙った下からの切り上げ。エンソフィリアは閉じていた瞼を開けた瞬間その刃に気付き、反射的に首を後方へとやった。その結果、エンソフィリアの顎が刃に当たり、血を流した。


「もうゆるさ────」


 首を戻しながら言葉を口にしようとするエンソフィリア。だが、その言葉はリーナの蹴りを腹部に受けたことで口から出ることなく、エンソフィリアの小さな体は後方へと飛ばされて本棚に背中を強打した。


「す、すごい…。トーナメントで戦っていた時よりも更に……」


 リーナの攻撃を見ていたヨイラが感嘆の息を漏らす。その手には小さなナイフが握られており、どうあら左腕を挟んでいた本から逃れることに成功したようだった。


「リーナ、作戦変更よ。あたしの魔法じゃあいつに勝てない。だから、あたしがカバーに回るからあんたが直接やりなさい」


「うん。私もそう言おうと思ってた。シャートさんとヨイラさんは来た道を戻って、他の人たちと合流してください。私達も後から追いつきます」


 シャートとヨイラに視線を向けることなくリーナは本の中に埋もれているエンソフィリアに剣先を向ける。


「……そうしたいのはやまやまだが、それはお前たちの方がいいだろう」


 シャートの言葉が終わると同時に本の中からエンソフィリアが立ち上がった。


 その腕は大量の出血をしているが、頬と顎に付いたはずの傷はきれいさっぱり消えていた。


「シャートさん、すみませんが正直言って───」


 ───リーナは油断していた訳ではない。だが、シャートへと言葉を発しようとしたリーナは言葉の途中で三人の視界から消え去り、その次にリーナの真横にあった本棚が凄まじい音を立てて連なる本棚を巻き込んで書庫の壁へと飛んで行った。


「ヨイラ!すぐにあいつと魔法使いを連れて逃げろ!」

 


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