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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
185/293

魔族の少女 エンソフィリア 185


「ねぇねぇ、可愛い可愛い女の子たち、名前を教えてくれる?男は喋らないでね」


 色鮮やかな服装をした少女は書庫の手すりに座り、スカートから見える色白の細い足をばたつかせている。その少女を見つめるヨイラは額に汗を浮かべ、少女に気付かれないようにゆっくりと後退していた。


「人に名前を聞くなら、自分から名乗ったらどうなの?」


 その言葉を発したのはアムリテだった。アムリテの言葉にヨイラが顔を振り向かせ、動揺を見せた。少女が実力者だった場合、アムリテの言葉で相手が刺激されてば戦闘になるのは目に見えていたからである。


 ヨイラの不安は見事に的中したようで、先ほどまで笑みを上げていた少女はその笑みを取り消し、ばたつかせていた足はピタリと止まった。


「人形に挨拶なんてするわけないじゃん。あんまり可愛くないなら、パーツだけ貰うよ?」


 少女は鋭い目線でアムリテを睨みつける。その瞬間、直視されたわけではないヨイラが小さな悲鳴を上げた。だが、アムリテはそんなことをお構いなしに少女を見つめ返した。


「あは、その目きれいだね!うん!気に入った!あたしの名前はエンソフィリア・ビルゾレイル。さぁ、あなたの名前を教えて?あたしの部屋の一番いいところに飾ってあげるから!」


 エンソフィリア・ビルゾレイル。そう名乗った少女は再び笑みを浮かべて、アムリテへと問いかけた。


「はん!魔族相手に名乗る名前なんてないわよ!さっさと、ヒイロを返しなさい!」


 アムリテは少女の問いかけに答える代わりに手にしていた杖を光らせ、どこからともなく現れた水球をエンソフィリアへと向けた。


「ひっどーい!そーれーとー、ここで水とか火を使ったらデトクロに怒られるっよ!」


 エンソフィリアはおもむろに右手を本棚へと向ける。すると、右手を向けられた本棚から十冊ほどの本がひとりでに浮遊した。そして、十冊の本はエンソフィリアへと向かう水球の前に立ちはだかると、ページを開いて水球を受け止めた。


「リーナ!弓でサポートして!こいつはあたし達で何とかするわよ!」


「う、うん!」


 リーナは慌てた様子で背負っていたリュックから弓の一式を取り出し、矢をエンソフィリアへと向け、一矢を放った。


「あたしまだ何もしてないのにひどくない?あ、そっちの子も名前教えてくれる?って、リーナちゃんって呼んでたよね。人形にした後にちゃんと、名前も刻んであげるね」


 エンソフィリアは笑顔のまま右手を矢の方へと振りかぶると、水球で濡れた本の三冊が束になって矢を受け止めた。


「ねぇねぇ、魔法使いちゃん。名前教えてくれない?そっちの震えてる子でもいいよ?」


 エンソフィリアに視線を向けられたヨイラは再び小さな悲鳴を上げると、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。その様子を見たエンソフィリアは愉快気に笑い声をあげる。


「あはははは!可愛いね!その顔、もっと近くで見せてよ!」


 エンソフィリアは左手を広げてヨイラへと向ける。すると、ヨイラの両サイドにある本棚から二冊の本が飛び出し、本はページを広げてヨイラへと接近する。


 ヨイラはその場から動くことができずに、本はヨイラの腕を挟みこんでしまった。


 そして、二冊の本はヨイラの両腕を挟みこんだままゆっくりと浮上してエンソフィリアのもとへと向かっていった。


 弓を手にしていたリーナはヨイラへと駆けつけることを諦め、浮遊する二冊の本の一冊を狙って二本の矢を放った。


 すると、どこからともなく三冊の本が飛んできて再びリーナの矢は阻まれてしまった。


「うん!顔も可愛い!着てる服は地味だけど、そのおかげで顔がもっと可愛く見えてるね!狙ってやってるならすごいけど、狙ってないなら気持ち悪いなぁ」


 ヨイラの何かが気に入らなかったのか、エンソフィリアは笑みを消してヨイラを見つめる。そのヨイラの顔は汗と涙があふれだしており、歯がガタガタという音を立て震えていた。


「あんたはさっきからずっと気持ち悪いのよ!」


 その二人の空気を壊したのはアムリテが作り出した無数の水矢による攻撃だった。


 無数の水矢はエンソフィリアの前と横から襲い掛かっており、その攻撃は後ろへ回避する事しかできないようになっていた。


 エンソフィリアはその唯一残された逃げ道の方へと顔を向ける。しかし、エンソフィリアは手すりに座ったままそこから動くことはなく、目いっぱいに右手を広げるとそのまま握り締めた。すると、それぞれの水矢の近くにある本棚から無数の本が飛び出した。


 すでにエンソフィリアへと向かっている水矢。それは決して遅い物ではなかったが、飛び出した本は水矢を優に勝る速度を持ち、無数の本は全ての水矢を挟みこんだのだ。


「……嘘でしょ?あたしの一番早い魔法なのに……」


「あー、ごめんね?十分に早かったとは思うけど、遅すぎるの。だからさ、魔法使いちゃんにその顔は似合わないからもっと頑張ろうね?」


 エンソフィリアはあろうことか、自分を殺そうとしているアムリテに対して謝罪をした。

 


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