書庫 184
シャートを先頭にリーナ達四人が遺跡の内部に入ると、中は床の溝がわずかな光を放っており、光は溝の物だけの薄暗くひんやりとした空気が漂っていた。前を歩いているはずのシャンシャンとロミオの姿は目視できなかったが、中は一本道になっていたためにリーナ達は特に不信感を持つことなく奥へと足を進める。
薄暗い通路をしばらく進んでいると、先の方から光が差し込んできた。四人はその光を目指して歩くと、天井のない部屋というよりも開けた空間に出た。
その空間は全体が苔で覆われており、中央に円形の大きな岩で出来た椅子のような物があるだけで、その先には三本の通路が存在するだけだった。
「……こっちだ」
シャートは迷うことなく三本の通路のうちから、正面にある通路を選択した。
「ちょっと待ちなさいよ。どうして、そっちになるのか話しなさい」
アムリテは小さな声でシャートへと問いかける。シャートは気だるげなため息を吐くが、リーナもアムリテと同じ疑問を持っていたためにシャートへと眼差しを向けた。
「……匂いだ。この通路の先からは四位さんと五位さんが付けてる香水の匂いがする。だが、後の二本には獣臭だけだ。おそらくは森の熊とか狼が寝床にしてるんだろうよ」
匂いだと言われたリーナとアムリテは鼻先をそれぞれの通路側へと向けるが、鼻に入ってくるのは苔の匂いのみだった。
「早く行くぞ。遅れるわけにはいかないからな。信用できないなら、他の通路に行け」
「オーナーの命令ですからそういう訳には行きません。リーナちゃん、アムリテちゃん、今は私達を信じて付いてきてくれる?」
「分かりました。アムリテもいいよね?」
「……まぁね。ただし、ヨイラ、あたしと歩く順番変わってくれるかしら?」
アムリテはヨイラの頼みを聞く代わり、ではないがヨイラへと歩く順番の交換を申し出た。四人はこれまでシャートを先頭に、アムリテ、ヨイラ、リーナの順番で歩いていた。その順番をアムリテは自身を三番手にするようにと言っているのだ。
「うん。それじゃあ行こうか。シャートさん、お願いします」
ヨイラはアムリテの提案を深く考えることなくあっさりと承認すると、正面の通路前で待つシャートへと小走りで駆け寄った。
「……ねぇ、アムリテ。どうして、順番を変えたの?」
「魔法使いはいつだって後ろでサポートするもんなのよ。あんたも後ろからの不意打ちに注意しなさいよ」
リーナとアムリテはシャートとヨイラに聞こえないほどの小さな声で、その会話を終えた。
四人が入った正面の通路はこれまでの通路と大した差はなく、ただ道なりに沿って歩いて行くと再び明るい光が四人の視界へと入ってきた。
そこは先ほどのような苔の生えた天井のない空間ではなく、数えられる限りで階層が五階もある大きな書庫だった。
リーナ、アムリテ、ヨイラの三人は部屋を見渡していると、シャートが額に汗を掻いているのにリーナは気付いた。その後、シャートは懐から短剣を静かに取り出した
「……三人とも警戒しろ。魔族だ」
「わぁ!四人もいる!やっぱりあたしってツイてるんだわ!三人は女の子だし、お人形にしてあげるね。あ、でも、グレイビーと被るか。まぁ、いいや!人形は何体いてもいいしね!」
四人の視線が一斉に声の元へと集まる。そこには書庫の二階の手すりに座り、四人を見下ろしている書庫とは雰囲気の合わない色鮮やかな服装をした少女がいた。