出発準備 180
魔族の追跡にロミオの同行が決定。それを待っていたかのようにオウジンが起き上がり、オーナーが本題へと切り込み始める。
「まずはヒイロとシャンシャンの人形、パリスを攫ったと思われる魔族の行方だが、オウジン選手、どうなっているかな?」
「後は追えてる。だが、あいつに付けた血が気付かれるのは時間の問題だな。俺の魔力が感知されたらどうにでもなるだろう」
オウジンが魔族に付けた血、その言葉にシャンシャンとロミオは戦闘場でのオウジンを思い出す。彼は魔族の奇襲からヒイロを守るために、身代わりとなった。つまり、魔族に着けた血とは、その際に魔族に付着した血の事だろうと。
「距離もそう遠くねぇな。ここから東に行ったところにある砂漠の手前で、止まってる」
「ありがとう。ならば、ここからは今後の行動についてだ。まず、オウジン選手とロミオ選手、それにシャンシャンは確定で同行してもらうが、二人はどうする?今回は命を落としてもおかしくない状況だからね、個人の意見を尊重するつもりだ」
オーナーはこれまで名前の出ていなかったランキング上位勢の二人、ヨイラとキッドに声をかける。ちなみに、ヨイラは戦闘場で倒れていたオウジンに回復魔法をかけた若い女性だ。
「オーナーは行かれるのですか?」
ヨイラは小さな声でオーナーへと問いかける。
その問いにオーナーは首を縦に振った。
「もちろんだ。決闘場の長をしている身、このようなことをされて黙っているわけにはいかないのでね」
オーナーはヨイラの問いに即答で返した。その答えを聞いたヨイラは別段驚いた様子もなく、すぐに口を開いた。
「そうですか。では、私も行きます。攻撃面は自信ありませんが、回復だけなら一人前のつもりですから」
ヨイラは手を胸の前で握り締めると、部屋にいる選手全員を見渡した。
ヨイラに見つめられた一同はその瞳を見つめ返す。しかし、オウジンともう一人だけがヨイラと目を合わそうとしなかった。
「シャート選手、君はどうするか聞いても?」
オーナーはその一人、シャートに同行するかどうかの是非を問いかける。
全員の視線を浴びているシャートは長い息を吐く。
「……別に、どっちでもいいです。正直、王者さんも六位さんも観客レベルの知識しかないので……。オーナーが決めてください」
「なら、お願いしよう。君を戦力に入れられるのなら、幅が広がるからね。ただ、命の危険を感じたら逃げてもいいよ」
「……了解です」
シャートはオーナーとの話が終わると、すぐさま視線を下に下げ、気だるげに息を吐いた。
「では、オウジン選手を筆頭にこれから魔族のもとへと向かう。窮地に際した場合を考え、オウジンと私、シャンシャンとロミオ、後方でヨイラとシャートと言う班分けをする」
「班分け、ですか…?」
班分けという言葉にヨイラが疑問の声を上げた。
「相手は一人ですし、全員で詰めた方がいいのでは?」
「今は不確定要素が多すぎるんだ。だから、オウジン選手と私が接敵し、イレギュラーが起きなければ班の順に戦闘に参加して欲しい」
「分かりました。でも、怪我をした人が出てばその時点で私は参加しますね」
「あぁ、それでいい。では大雑把な作戦だがこれ以上の質問は移動しながら聞こう。では、五分後にここを発つ。それぞれ、準備を!」