目的 176
紫色の煙に覆いつくされた戦闘場の中で、小さく、しかし確かに誰の耳にも届く拍手の音が聞こえた。すると、音の発生地から強烈な風が吹き、その場に停滞していた紫色の煙はどこかへと消え去った。
煙が消え去った戦闘場にはロミオとジュリエット、煙を払ったシャンシャン。そして、背中から血を流して伏せているオウジンの姿があった。
「ヒイロは!?それにあいつもいないネ!?」
戦闘場にはその四名の姿だけであり、直前まで戦闘していたヒイロと魔族の姿が見当たらなかった。
「………………やられたね」
ロミオは右手の親指を噛みながら、あることに気付いた。
「どういうことネ!?何か分かったアル!?」
「あの魔族はヒイロの事を勇者だと言っていた。そして、魔族がリーナ君と接触したときに話していた時に勇者を生み出すって言っていた」
リーナと魔族が接触、それはライトクレイルとの決闘の直後だ。リーナがどうしてライトクレイルを自分の子どもだと偽ったか魔族を問いただした時に、魔族は勇者を生み出すためだと言っていた。
「つまり、あちらの目的はヒイロである以上、僕たちがすべきだったのはヒイロを逃がすことだったんだよ。もっとも、今更の話────」
「───そんなこと聞いてないアル!相手の目的がヒイロって分かったなら、今はヒイロを助けることだけを考えるネ!」
シャンシャンはロミオの胸倉をつかみ上げると、そのまま頬に向かって拳を振るった。
ロミオはその拳を自身の手で掴み、シャンシャンを鋭い目線で睨んだ。
「そんなのするわけがないだろう!?相手は僕たち三人がかりでも勝てなかったんだ!相手の居場所が分かったところで、犬死にするだけだ!」
「お前はヒイロを見捨てるつもりアル!?たった一人の女の子を!?」
「だから!そんな話をしているんじゃない!行っても無駄だと言っているんだ!それに、どこにいるかも分からないじゃないか!?」
シャンシャンとロミオの拳に力が入り、お互いは今にも殺し合いを始めそうなほどに興奮していた。
「シャンシャン、その手を離しなさい」
二人の間に入ってきたのはオーナーだった。シャンシャンオーナーの顔を認識すると、数秒間下を向き、ロミオを投げ捨てた。
「ロミオ選手、ジュリエットの様子を見てあげて欲しい」
ロミオはオーナーのその言葉を聞いてジュリエットに視線を向けた。すると、ジュリエットは床に座り込み、息を荒げていた。
「どうしたんだジュリエット!?」
ロミオは急いでジュリエットに駆け寄り、肩に手を置いた。
「………パリ、スが、いなく、なったの」