乱入者 175
ロミオの身代わりとなって男の回し蹴りを一身に受けたパリス。しかし、パリスはロミオの腕から離れると、そのままテクテクと走り、ジュリエットの腕の中に戻って行った。
「パリス、私の血を吸いなさい。そして、あの魔族から私とロミオを守るのよ」
ジュリエットは自身の人差し指を口に入れて、歯を立てた。そして、指先から流れでる血をパリスの口元にあてる。すると、ジュリエットの血を吸ったパリスは腕の中から飛び出し、ジュリエットとロミオの中間に仁王立ちした。
「五位、なるべく遠距離で戦うアル。私達の攻撃は意味ないし、反撃を食らうだけネ」
「……分かっているさ。今はヒイロの援護だ。ヒイロの攻撃だけは防いでいるしね。当たれば安くはないのだろう」
自慢であった攻撃が通じない。その事実にロミオはショックを受けつつも、すぐに思考を切り変えた。
シャンシャンの魔法、ロミオの長剣、二つを同時に食らっても無傷だった男。しかし、男はヒイロが繰り出す全ての攻撃を見えない壁で防いでいた。それはヒイロの攻撃を食らえば、無傷では済まないと言う事を示している。
「思考は悪くない。だが、当の勇者が言葉を発しないようではそれも難しいのでは?」
「…………」
なおも瞳と髪を鮮やかな赤色に光らせているヒイロ。そんなヒイロはこの状態になってから、一度たりとも口を開かず、今なおただ男を睨みつけているだけだ。
「ヒイロの攻撃なんて今まで何十回と見てきたアル。今更言葉なんていらないネ」
「要は魔族、君がヒイロに集中できない状況を作り出せばいいだけの話さ。例えば、こういう風にね」
ロミオは手にしていた光り輝く長剣を上方向に掲げる。すると、長剣から強い光が発せられ、戦闘場全体を光が覆った。
「これで視界は防いだ!」
「だから何だと────」
男の声は周囲に届く前にそこで消え去った。それはシャンシャンが放った魔法に寄る効果だ。自分自身をも巻き込み、指定した範囲全ての音の波形に、対となる波形を当てることで音を打ち消し合う。
シャンシャンが指定した範囲は戦闘場全体。戦闘場から全ての音が消え去る。
眩い光の中、何も聞こえない無音空間の中、そこでもヒイロは男を見失いことなく、一直線で男に飛び掛かり、渾身の一撃を放つ。
何も見えない、何も聞こえない空間ではヒイロと男以外にその攻撃がどうなったのかは分からない。
次第に戦闘場には音が戻り始め、風の吹く音が耳に届く。それと同時に光が弱まって行き、観客を含むすべての人間がその光景を目の当たりにした。
それは、ヒイロの拳が男の腹部を貫き、男が口から流血している光景だった。
「……や、はり、勇者、だ」
男は口から血を吐きだしながら、自身の腹部を貫通するヒイロの腕を掴む。
「……魔王に、魔族に、栄光、あれ」
男がその言葉を口にすると、体中から紫色の閃光を上げ、爆発を上げた。