暴君竜とあれ 169
少女から赤い花を受け取ったヒイロが控室にその花を飾り、リーナ達と少しの間会話しているとオーナーが控室に入室してきた。
「ヒイロ、そろそろ決勝戦だが準備は良いかな?」
「はい。いつでも大丈夫です」
オーナーの問いかけにヒイロは立ち上がって返事を返した。その返事を受け取ったオーナーは首を縦に一回振るうと、ヒイロへ付いてくるようにと命じた。
「じゃあ、行ってきますね。絶対に優勝してきます!」
「うん!応援してるからね!私に分まで頑張って!」
「頑張りなさい!」
リーナだけでなくアムリテの声にも力が入っており、彼女がヒイロの事で緊張している様子が分かった。
声援を受けたヒイロはニコリと笑うと、オーナーの後を追うようにして控室から退出した。
「シャンシャンさん、ヒイロとオウジンさんってどっちが強いんですか?やっぱり、王者のヒイロなんですかね?」
ヒイロのいなくなった控室でリーナは隣にいたシャンシャンにふと湧いて出た疑問をぶつけた。その問いにシャンシャンはんー、と悩む様子を見せた。
「そもそも、ヒイロとオウジンが戦うことが少ないアル…。けど、今までやった三戦ではどっちもヒイロが勝ってるから、基本的にはヒイロの方が強いネ」
「基本的には、ですか……?」
「それはオウジン選手が今までのヒイロとの戦いで暴君竜になっていないからだね」
シャンシャンの含みある言葉に疑問を感じたリーナに答えたのはロミオだった。
「彼はどういう訳か、ヒイロとの戦いで一度たりとも暴君竜になったことがない。それは、彼が本気を出していないと捉えることができる。だから、オウジン選手が本気を出せばヒイロに勝てるという意見も少なくないね」
「そう、なんですか…。…けど、私が最後に見たヒイロのあれは使ってたんですか?」
リーナが最後に見たあれ、ヒイロの髪が鮮やかに発行し、まるでオウジンの暴君竜のようになっていた姿だ。
「使ってないね。そもそも、ヒイロがあの姿になること自体、今までで一度だけだったんだ。それが、決闘場、初代トーナメント優勝者との決闘だった」
「……その時はどっちが勝ったんですか?」
「あの時は相手の降参でヒイロが勝ったよ。当時はまだ決闘場も小さくてね。この話を知っているのはオーナーと限られた人だけなんだ」
ヒイロのあの姿を知っているものが少なかったために暴君竜のような名称がつけられていなかったのだろうとリーナは納得した。
「なら、オウジンさんが暴君竜になっても、ヒイロがあれになれば勝てるんですよね?」
「さぁね。まぁ、数時間後には分かることだろうし、今はこれから行われる決闘を楽しもう」