赤い花 168
ヒイロの知り合いが経営する小さなパン屋で朝ごはんを取った後、リーナ達はお昼に行われるヒイロの決勝戦までの間を大通りで過ごすことにした。
大通りにはトーナメントの決勝戦が行われるという事もあり、ここ数日とは比べ物にならないほどの人で賑わっていた。
「すごい人だねぇ。どこのお店も入れそうにないや……。ところで、私達、すっごい見られてない?」
リーナは街行く人々からの視線を感じていた。それもそのはずだろう。リーナ達のグループは七人にから成る大所帯であり、そのうちの五人は有名な決闘場ランキング選手なのだから。
「その割にはみんな見てるだけで、誰も話しかけてこないわよね?あんた達、もしかして人気ないの?」
「僕とジュリエットはよく話しかけられる方かな?誰も話しかけてこないのは彼女たちのおかげだね。彼女たちがいなければ、前に進むことすらできなくなっていただろう」
そう話すロミオの視線の先には、笑顔で先頭を歩くシャンシャンとその後ろで周囲の人間に睨みを利かせるカルッベラがいた。なお、カルッベラはいまだに拘束から解かれておらず、その迫力には欠けるものがあった。
「カルッベラさんは分かりますけど、シャンシャンもなんですか?どちらかと言うと話しかけやすそうですけど……」
「決闘場での彼女を知らない人はそうだろうね。だけど、知ってる人ならまず近づかないよ。だって、彼女は決闘場が誇る殺害ランキング一位なんだからね」
シャンシャンはロミオの言葉が聞こえたのか、後ろを振り向いて笑顔でリーナに手を振った。ロミオの言葉を聞いたリーナはその笑顔に少しだけ鼓動を鳴らした。
「彼女の魔法は調整が難しいようでね。普段なら開始と共に対戦相手の頭が破裂するんだよ。常人ならそこで使用を控えるだろうが、彼女はそれをやめない。だから、対戦数と殺害数が最も近く、破裂する相手の頭が花が咲いているように見えることから、ブラッディフラワーって呼ばれているんだ」
「ブラッディ、フラワー……。私、よく勝てたと今更思います……」
トーナメントでの殺害が禁止されていなければ、と思うとリーナは妙な汗を掻いた。
そんなリーナがそんなことを想像していると、小さな少女が一行へと近づいてきた。
その手には一輪の赤い花が握られており、少女はその手をヒイロへと差し出した。
「おねぇちゃん、がんばってね!これ、おかあさんといっしょ取ってきたの!」
ヒイロは少女から差し出された花を見つめていると、人混みの中から少女の母親らしき人物が慌てた様子で近寄ってきた。
「すみません!つい目を離してしまって……!ほら行くわよ、ミア!」
母親は少女の肩を掴んで人ごみの中へと戻そうとする。しかし、少女はその力に抵抗してヒイロへと力いっぱい花を差し出した。
ヒイロはその花を少女の手と一緒に自分の手で覆うと、膝を折って少女の目を見つめた。
「ありがとう!絶対に勝つから、ちゃんと見ててね!」
ヒイロに目を見つめられた少女は少しだけ頬を赤くすると、満面の笑みを浮かべて母親と一緒に人混みへと消えて行った。
「その花、ヒイロの髪と同じ色だね」
「わざわざ探してくれたんでしょうか。せっかくなので、カップに水を入れて控室に飾りましょう!」
そうしてヒイロは少女から受け取った赤い花を優しく手で包み込み、決闘場へと向かった。