立場 167
リーナとアムリテ、ヒイロの三人は控室で朝を迎えていた。三人はこれから朝ごはんをどうしようかと話していると、部屋の扉が三回ノックされてロミオとジュリエット、シャンシャンの三人、それと体を縄で縛られた男が部屋の前に立っていた。
「おはようございます!ちょうど朝ごはんを食べに行くところだったんですけど、ロミオさん達も一緒に行きませんか?」
リーナは縄で縛られた男を一瞥だけすると、すぐに視線を逸らそした。
「それは嬉しいお誘いだ。どこに行くつもりだったのかな?」
「私の知り合いにパン屋を経営している人が居るので、そこのパンをリーナさんたちに食べて欲しいんです。そこは果物も自家製なので、ジュースも美味しいんです!」
「……ほんとうにヒイロは食べ物知り合いが多いネ。ま、私も今日はパンの気分だったから大歓迎アル」
ヒイロの人脈の広さにはリーナも驚くが、趣味が食べることだけだと言っていたのを思い出し、不思議ではないのかとひとりでに納得した。
「じゃあ、まずは衛兵さんのところですよね?ヒイロ、そのパン屋さんの近くにいるかな?」
「え、あ、パン屋も巡回ルートには入っているので、衛兵所もありますけど……」
「おい、こら待て。勝手に俺を犯罪者にしてじゃねぇよ」
自然と衛兵の元に連れて行かれそうになった男が声を上げるが、その全身は縄で縛られており、あまり迫力があるものではなかった。
「え、違うんですか?その顔と格好だからつい……」
「格好は分かる。縄で縛られてるからな。だが、顔はやめろや。こちとら生まれつきこの顔なんだよ。分かったらすぐに謝れ」
「なに言ってんのよ。リーナ、謝る必要なんてないわよ。どうせ下着泥棒とかでしょ?ほんと、人格が顔に出てるのよ。衛兵に渡す前に水責めにしてやるわ。そうしたらきっついその顔もふやけて可愛くなるんじゃないかしら?」
アムリテは姉から貰ったという杖を光らせて男の顔を水の膜で覆った。
「ごぼごぼごぼごぼごぼ!?」
全身を縛られている男はそのみずを取り払うことができずにもがき苦しみ、意識がなくなる寸前のところでアムリテは水の膜を解除した。
「…ぜぇ、…ぜぇ、…ぜぇ。こんのクソガキ……!俺を誰だと思って……!」
「知らないわよ。もう一回お仕置きしてやろうかしら?」
水の膜から解放された男は息を切らしながらアムリテを睨みつけるが、アムリテは男をにらみ返すと、今度は水球を作り出して男の片耳を水球に密着させた。
すると、少しでも水球から離れようと首を伸ばした。その光景があまりにも面白おかしく、アムリテは声を上げて笑った。
「アムリテ君、すまないがそこまでにしてやってくれないか?犯罪者のような顔をしているが、この男はただの決闘場選手なんだ」
「あら、そうだったの?もうちょっと後で言ってくれたら罪悪感が生れたかも知れないわ」
ロミオから男の事を聞いたアムリテは水球を解除して、杖を背中に背負い直した。
「いまは無ぇのかよ…。……っち、ロミオ、もう逃げねぇからさっさとこの縄を解け。そうしねぇと俺がこのクソガキのおもちゃになったままだ」
「僕はそれでも構わないけど。どうするシャンシャン?」
「そのままにしとくアル。また逃げられるのもめんどうネ」
シャンシャンの言葉により、男はアムリテの満足が行くまでのおもちゃとして扱われることが決定した。