飲み会 166
オーナーの話を聞き終えたランキング上位の者たちはその部屋から退室し、各々の方向へと歩いて行った。そして、ロミオとジュリエット、シャンシャンはヒイロの控室の前まで歩いて行くと、中からリーナ達の声が聞こえてきた。
その声に混ざろうとロミオがドアノブに手をかけると、シャンシャンがロミオの肩に、ジュリエットがロミオの手の上にそれぞれの手を置いて制止した。
「ロミオ、今入るのはデリカシーに欠けるわ。今日は帰りましょう?」
「そうアル。それにまだ帰りたくないって言うなら。後ろの変態が構ってほしそうネ」
ロミオの肩に手を置いたシャンシャンはもう片方の手で、三人の後ろをついて歩く人影を指さした。
その方向を見たロミオは諦めたように息を吐くと、人影に声をかけた。
「カルッベラ、まだ僕に何か用かい?悪いけど、僕もオーナーが話していたこと以上は知らない。分かったなら、早く寝て明日に備えることだね」
ロミオに声をかけられたカルッベラはその表情が視認できる距離まで近づいてきた。
「お前ら、いつ魔族の侵入に気が付いた?警備には俺も目を光らせていたが、不審な奴は全員弾いたつもりだった。それに、あの汚ぇガキが魔族の拾い子ならば、今すぐにでも殺すべきだ。どうして放置している?」
「気づいたのはオーナーが言っていた時刻と大差ないよ。実際に目にした魔族の放つオーラは人間そのものだった。遠目から見ていただけの君が気付けないのも無理ないだろう。あの子供の話は────」
───ロミオが決闘所の休憩室で未だ眠る子供、ライトクレイルの話を切り出そうとすると、シャンシャンが二人の顔の間に手を挟みこんだ。
「それ以上話すなら場所を変えるアル」
「あぁ?そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ?このままにしとけば───」
「──黙るアル。七位が私に逆らうんじゃないネ」
シャンシャンは睨みつけてきたカルッベラをにらみ返し、序列を口に出した。
「…この時間なら俺の行きつけで個室が取れる。ただし、割り勘だからな」
「いいだろう。ジュリエット、君は先に帰って休んでおくんだ。何かあったらすぐに僕の名を叫ぶんだよ」
「そうさせてもらうわ。おやすみロミオ、愛してるわ」
ロミオとジュリエットは互いの頬を合わせて、別れを告げた。
「シャンシャン、君はどうする?先に帰っていてもいいが…」
「明日は飲めそうにないから今日飲むアル。それに割り勘ならお得すぎるネ」
「…っち。こっちは決闘もなくて金欠だってのに、良いご身分だぜ」
決闘場から移動した三人はカルッベラの案内で小さな店の個室に座っていた。そこは高級感が一切なく、隣の部屋から笑い声が聞こえてくるほど壁も薄かった。
いびつな形をした木の机の上には三人が注文した料理と飲み物が置かれていた。
「お前ら、魔族と戦ったことはあるか?」
アルコールが入った酒を口にしたカルッベラがおもむろに口を開いた。
「僕はないね。師がそもそもいなからその手の話には疎い」
ロミオは店に似合わない華奢なグラスに入った赤い液体を口にした。
「私は師匠が戦ったって言ってたアル。そう言う七位はあるネ?」
シャンシャンは飲み物と料理を交互に口へと運び、次々と店員に酒を運び込ませていた。
「……あぁ、一度だけな」
その言葉にロミオとシャンシャンは耳を傾ける。
「俺がまだ冒険者だった時だ。俺はSランクへ昇格するために、昏き森で魔獣を狩っていた。もちろん、ギルドには無断でな」
「無茶をするね。だが、場所が場所だけに遭遇してもおかしくはない」
「黙って聞いとけ。でだ、俺が小型の魔獣を三匹ほど狩って買えろとしたときに、何かの気配を感じてな。咄嗟に身構えたが、気付いた時には森の外にいた。そして、俺が狩ったはずの魔獣は全部消えていたんだ」
カルッベラの話を聞いた二人は大きなため息を吐いた。
「……それ、戦って言わないアル。どうせ、幻覚型の魔獣に襲われただけネ」
「なら、俺はどうして生きてる?魔獣ならその場で俺を喰ってるだろうが」
「……確かにそうだが、魔族であってもそれは同じだろう。おそらくはSランク冒険者が君に幻覚をかけたんだろう。彼らなら辻褄が合うだろうしね」
カルッベラがいくら魔族だと言っても二人はそれ以降カルッベラに聞く耳を持たなかった。
「……とにかく、俺はこの街から出る。早死にはしたくないんでな」
「そうアルか。達者でネ」
「また明日の朝に。今日はよく寝ることだね」