招集 165
リーナとヒイロの決闘が幕を閉じると同時に、決闘場に在籍するヒイロとオウジン、デルタ、そしてミレアを除くランキング上位、六名がオーナーによって地下にある一室に招集され、その部屋に備えられている各々の指定された席に座っていた。
事情を知っているロミオとジュリエット、シャンシャンは静かに待機しているが、事情を知らない他のランキング上位勢達は初めての事に少なからず動揺していた。
そんな中、ある男がロミオに近づき、その肩に手を置いた。
「オーナーが俺達を集めるなんて初めてだ。おいロミオ、何か知っているなら話せ」
ロミオに話しかけた目元に大きな切り傷のある男は決闘場ランキング七位、カルッベラ・コンペツィオだ。
「僕の口からよりもオーナーからの方がいいだろう。それにあの人の事だ。既に僕が知らないことまで調べ上げているに違いない」
「……そうだろうがよ。あぁ、そういや、話は変わるがお前の決闘、見てたぞ。まさか、お前があんな小娘に負けるとはな。久しぶりに腹を抱えて笑った」
カルッベラはロミオの肩に置いた手でそのままロミオの肩を叩いて、ロミオを挑発する。ロミオはそれに言葉を返すようなことはしなかったが、自身の肩を叩くカルッベラの手を腕で払いのけた。
「俺だったらあんな奴一瞬で殺せたな。今のお前からなら五位の座も奪えそうだ」
「ならやってみるがいいさ。トーナメントに出場すらしていなかった君では、実力も根性も何一つとして彼女の足元にすら及ばないだろう。もちろん、僕のにもね」
ロミオがカルッベラを鋭い目線で睨むと、カルッベラはおどけたように笑った。
「そう怖い顔をするなよ。トーナメントなんてただの遊びだ。お前も遊んだんだろ?だから、負けた。いや?あえて負けることで観客を盛り上げたのか?」
「僕が負けたのはわざとなんかではないし、トーナメントは遊びじゃない。その証拠になるかは分からないが、オウジン選手も出ている」
「あれはただ王者と戦えれば何でもいいのさ。あれの目には俺もお前も、デルタでさえも映っていなかった。ま、王者の目にはあれでさえ映ってないんだがな」
思い出すかのようにして口を開くカルッベラ。その言葉を聞いていたロミオは、ふっと口を緩めた。
「……何がおかしい?」
その笑みを不審に思ったカルッベラは覗き込むようにしてロミオの顔を見つめた。
「いや、何もないさ。ただ、君の目が節穴だと証明されただけでね」
「あぁ?」
先ほどの仕返しか、今度はロミオがカルッベラを挑発し、カルッベラはその挑発に乗ろうとした。その時、一同が集まっていた部屋の扉が開き、一人の男が入室してきた。
その男こそ決闘場の全権限を有し、ここにいる全員に招集をかけた本人。オーナーだ。
オーナーは部屋を一瞥すると、ロミオとカルッベラの方に目をやった。
「カルッベラ君、席についてくれるかな?」
オーナーの言葉を聞いたカルッベラはロミオを睨むと、すぐに指定された席へと戻った。
「トーナメントを楽しんでもらっていたところ急な招集をすまないね。ある緊急事態が発覚したので君たちと共有しておく」
オーナーは全員に声が届くように部屋の中心まで足を進めた。
「このトーナメント期間はより多くのお客様に来ていただくために、軍に掛け合って検問を緩めてもらっているのは知っているね?その見返りとしてうちからはトーナメント期間中の警備を一部担当していることも」
部屋に集まった者たちは声を発することなく、ただ首を縦に振る。
「そんな中、魔族の侵入が確認された」
「っな!?」
カルッベラは立ち上がって声を上げる。部屋にいる中で声を上げたのはカルッベラだけだったが、初めてこのことを知った者たちは驚きを隠せないでいた。
「魔族って、そりゃあ、冗談か何かか……?いくらトーナメントだからって、魔族が人間領に入ってきたら、その時点で戦争が起こるだろ!?」
「冗談ではない。だから君たちにこの事を話しているのだ」
有無を言わさないオーナーの力強い言葉がカルッベラにそれ以上の発言を与えない。
「これから君たちに私が調べ上げたすべての事を話す。そして、それを聞いた君達には明日に備えて万全の準備をしてもらおう」