リーナ対ヒイロ 162
二人が同時に、ヒイロからの接近、リーナからの接近、全てを行った結果、その全てにリーナは敗北していた。
頭を踏み台にされ、武器を手放され、リーナはヒイロとの戦いで勝ち筋を見つけることができずに、負け筋を潰すことで後手に回っていた。
「…会った時から思ってたけど、やっぱり強いなぁ…。でも、このまま負けるのは嫌かな」
冷や汗と同時にリーナの口から弱音が漏れるが、即座に弱音を切り替えして頬を両手で叩いた。
目の前にはヒイロが立っており、リーナとヒイロの間にはリーナが再び叩き落とされてしまった短剣が転がっていた。
「今度は取らせませんよ?どうしてもって言うなら、頑張って下さい!」
「もう頑張ってるよ!?」
ヒイロのいたずらな笑みにリーナは反応を返す。一連のやり取りが二人は心の底から楽しいと思い、無意識のうちに戦闘を長引かせているのかもしれない。
「魔法は使えないし、武器もない…。でも、手と足はまだ動くし諦めるには早いよね!」
両手を握り締めたリーナは再びヒイロへと直進する。その間には短剣があり、ヒイロはその短剣を拾わせまいとこちらも正面へ駆け出した。
二人の速度はわずかにヒイロの方が早く、先に走り出したリーナと後から走り出したヒイロが衝突するのはちょうど転がっている短剣の上だった。
先に攻撃を繰り出したのは短剣を握っているヒイロの刺突だった。ヒイロは右ひじを自身の脇腹にピタリとくっつけ、右手に握っている短剣の剣身がリーナに見えないようにと左手で覆っていた。
リーナは剣身が見えないながらも、短剣の長さは周知していたため、十分な距離を取って横方向へと体を動かした。
リーナとヒイロがすれ違う。その瞬間、ヒイロは脇腹にピタリとくっつけていた右腕を伸ばしてリーナへと伸ばした。だが、リーナは剣心野との距離を取っていたために見てからの回避が間に合うと判断した。
その結果、リーナは左手から流血するほどの傷を負ってしまったのだ。
その理由はヒイロの最初の動きに読み間違えがあったからだ。リーナが刺突だと判断した攻撃は刺突ではなく、左手で見えなかった刀身は左手の下に隠れていたのではなく、短剣を握るヒイロの右腕の下に隠れていたのだ。
逆さに持たれた短剣の刃はすれ違っているリーナの腹部を目指して最短距離でその刃を光らせる。そのことに気付いたリーナだったが、回避が間に合わないと判断したリーナは即座に左手を短剣の前に差し込み、腹部への損傷の代わりに左手を差し出したのだ。
リーナの左手を貫いたヒイロ、決闘場王者の攻撃はそれだけにとどまらず、深々と刺さった短剣に更なる力をこめて刃を腹部に突き立てようとする。
その腕をリーナは無傷の右手で掴み、ヒイロの方へと全力の力を込める。
二人の力がぶつかり合うが、力はヒイロの方が強く、ゆっくりと短剣はリーナの左手を貫きながら腹部へと進む。
力勝負では勝てないと理解したリーナはすぐさまヒイロの体を蹴り飛ばした。その蹴りはヒイロへの効果的なダメージにはらなかったものの、ヒイロは短剣を手放してリーナから飛びのいた。
リーナは持ち主のいなくなった短剣を左手引き抜こうとすると、その際にも左手に激痛が走り、顔をゆがめた。左手から溢れ出る血液、リーナはそれを止血するために自身の服の端を短剣で切り裂き、包帯代わりにして巻いた。
その間にヒイロはリーナが落とした方の短剣を拾い上げていた。