リーナ対ヒイロ 160
リーナとヒイロ、二人の間で決闘の開始を高らかにジャッジが宣言した瞬間、二人は前方へと駆け出し、お互いの短剣を重ね合った。
二人の握る短剣の間には火花が散り、直撃すれば致命傷となり得る攻撃は両者が一切の手加減をしていないことの証明になった。二人はその証明に笑みを浮かべるが、次の瞬間にはヒイロの軽やかな回し蹴りがリーナの腹部へと入り、リーナは戦闘場の宙を舞った。
体が浮くほどの攻撃、無傷では済まないだろうと思われた一撃だったが、リーナは宙を舞っている状態から重心を傾けることで一回転をして、床へと着地した。
「あの一瞬で後ろに飛ぶなんて、すごいですね。かなり自信はあったんですが…」
「ヒイロにはいっぱい訓練してもらったし、アドバイスも貰ったからね。だからかな、ヒイロなら絶対に攻撃してくるって思ったんだ」
ヒイロがリーナに行った訓練回数は多い物ではなかった。しかし、リーナはそこから教えを会得するだけでなく、ヒイロの癖までもを理解していた。
それはヒイロの想像をはるかに超えた成長速度だった。
「…でも、癖を知っているのは私も同じです!」
ヒイロが再びリーナへと駆け出す。リーナはそれを迎え撃つ形で、ヒイロへと視線を集中させる。
短剣の範囲まで接近したヒイロはリーナの目の間でわずかに飛び跳ね、リーナの右首筋を狙った一撃を放つ。
それをリーナはその一撃を横にした短剣の剣身で受け止め、体をわずかに左へと逸らすことでヒイロの攻撃をいなそうとした。
「ほら、すぐにこっちが空きました!」
形的にリーナの右肩に乗っているような状態となったヒイロが耳元でささやくと、リーナは後頭部に強い衝撃を受けた。
それは驚くほど体を曲げたヒイロから繰り出された踵蹴りだった。
不安定な体勢から放たれた踵蹴りはダメージこそ少なかったものの、リーナの態勢を崩すには十分であり、リーナはヒイロの思惑通り前のめりとなってしまった。
そんなリーナに追撃するようにしてリーナの肩の上で一回転をしたヒイロから繰り出される踵落とし。前のめりになっている状態にそんなものを食らえば、床に膝をつくことは必死に思えたが、リーナは持っていた短剣を離して右手でその踵落としを防いだ。
そしてリーナそのまま掴んだ踵を下へと振り降ろそうと、振りかぶるがヒイロがその右手の甲を短剣の柄で殴打したことにより、リーナはその手を離してしまった。
リーナの拘束から逃れることができたヒイロはリーナの頭を蹴り、一度リーナから距離を置いた。
「ヒイロ、さすがに顔を蹴ってくるとは思わなかったよ!?」
「私も本気なので!それに、しっかり反応してたじゃないですか!やっぱりリーナさんはすごいですよ!」
そんな会話をしている間にリーナは投げ捨てた短剣を拾い上げて、しっかりと握り締める。
「今度はこっちからいくよ!」