討伐クエスト コーヒー 16
パーツとリーナが再びギルドに入ろうとすると、扉が勝手に開き出てきた男とぶつかりそうになる。
「あ、すみません」
リーナは軽く謝り、道を譲って中に入ろうとする。
「っち」
すれ違った男はわざと聞こえるように、舌打ちをしてきた。そのことが少しだけ気になり、リーナが男の顔を見ると帰ってきたときにモミジと話していた男だった。
そんなことは気にせず、モミジとパーツギルドに入りモミジがいる受付に向かった。
「モミジさん、お疲れ様です!」
「リーナさん!お帰りなさい!早いお帰りですね!」
モミジは二人を見ると、出していた書類を片付けて笑顔を向ける。
「さっきの人って…?」
リーナは何気なく先の男のことを尋ねる。
「もしかして何かされましたか!?」
「あ、いや舌打ちされただけですよ」
モミジが慌てた様子になったので、モミジもつられるように言葉を返す。
「本当にすみません!あの人にはいつも困っていて…」
「何かあったんですか?ずいぶんと長く話していたような?」
「あまりこういう事は話さない方がいいんですが、あの人にはよく苦情が来ていて…」
モミジは困り顔になり、深いため息を吐いた。こんな顔をするモミジをリーナは初めて見て事態の重さを感じた。
「ところで、クエストはどうでした!?やっぱり…」
「モミジさん、今まで心配かけてすみませんでした。それと、こんな僕を見捨てないでくれ手ありがとうございました」
パーツはモミジに頭を下げ、謝罪とお礼をする。その光景に目を丸くしたモミジは次第に目に涙を浮かべる。
「ということは、ついに…」
「はい、ホーンラビット三匹査定、お願いします!」
珍しく声を張り、パーツはカバンから保存袋を取り出した。袋の口からは二匹分のホーンラビットの首が見えていた。
「はい、お預かりいたします!クエストお疲れ様でした!」
モミジは目じりに涙を流し、きれいな笑顔で自分の事のように喜んでくれた。
「では、討伐クエストでしたので冒険者カードを出して、査定が終わるまでしばらくお待ちください。」
「わかりました。お願いしますね!」
モミジは保存袋を持って、受付の奥に消えていった。リーナはパーツと一緒にアマナに紹介されたママの店に訪れた。
「ママー!やってますかー?」
「あら、リーナちゃん!立て続けに来てくれるなんて嬉しいわ!」
リーナが店に入り、奥に向かって呼ぶと、ママは奥から以前と同じように出てきた。
「あら、そちらの男の子は?」
ママはパーツの方に目をやり、顔に手を当てた?ちなみに、アマナにママの本名を聞いても知らないとの
ことだった。
「パーツ君です!討伐クエストを一緒にクリアしたんですよ!」
「まぁ、もう討伐クエストを!?シヨンちゃんよりも早いわね!パーツ君もお疲れ様!」
「ど、どうも…」
「シヨンさんより早いって本当ですか!?今度会った時に自慢しますね!」
リーナはシヨンに誇れることが一つできて誇らしくなった。
「それじゃあ、好きな席に着いててね。メニューを持ってくるわ」
リーナとパーツは一番奥の席に対面で座った。
「はい、注文が決まったら呼んでね」
ママはメニューとお冷を机の上に置き、奥へ消えていった。
「ありがとうございます!パーツ君、何にする?」
リーナはパーツにメニューを渡した。パーツはしばらくメニューとにらめっこすると
「では、チョコケーキにします」
「なら、私はショートケーキにするね!ママー、注文お願いしまーす」
「はいはーい!」
リーナはパーツの分の注文もして、受けたママは奥に再び消えていった。
「先ほどのシヨンさんって、もしかしてSランクのシヨンさんのことですか?」
料理を待っている間、どうしようかと思っているとパーツから質問が来た。
「うん、私の命の恩人で登録試験をしてくれた人だよ。Sランクって言ってたから合ってると思う」
「このギルドにいるSランクはシヨンさんと、カルロさんだけですよ!そんな人と知り合いなんて羨ましいです」
パーツは今まで一番の表情を見せた。リーナはシヨン達が想像以上にすごい人たちなのだと知ったことに驚く。
「さっきの男、デルゴンもあの人たちがいる間は大人しいんですけどね…」
「あの人って、どういう感じなの?モミジさんも困っていたみたいだし」
舌打ちされたことにはそれほど何も感じなかったが、モミジの困りようには少し思うところがあった。
「デルゴン絡みで多いトラブルは報酬の横取りですね」
「報酬の横取りって…?依頼を受けたなら、報酬も受けた人がもらえるんじゃないの?」
「僕たちが受けた依頼みたいなのは、市場からの安定した需要と供給が成り立っているんです」
ハツラツ草やホーンラビットの素材は汎用性が高いうえに、安定して数を取れる。だから、ギルドから冒険者に依頼という形で出している。
「しかし、中には貴族や商人が直接ギルドに高い報奨金を出して依頼するクエストがあります。そのクエストは何人でも受けられる上に先に達成した人が報酬を受け取れるようになってるんです」
「早い者勝ちってことだね?あれでも、それなら横取りって?」
「簡単な例で言えば、他のパーティーが追い込んだ魔獣のとどめだけを刺して持ち逃げしたり、護衛の依頼でコンタクトを取ったパーティーより早く合流して出発したりですね」
魔獣のとどめを奪うというのは想像できるが、護衛を依頼した雇い主はわからなったのかとも疑問に思うが、そんなことよりもリーナは想像以上の悪質さに気分を悪くする。
「まぁ、僕たちはまだ彼が狙うほどのクエストは受けないと思うので、気にしなくても良いと思いますよ」
それでもリーナはモヤモヤした気持ちを静められずにいると
「お待たせ、チョコケーキとショートケーキよ!コーヒーもおまけしておくわね!」
「ありがとうございます!コーヒーってどんな味なんですか?」
リーナは目の前に置かれた黒い飲み物を覗き込んでみる。
「うふふ、飲んでみたら?」
リーナは冷え切ったコップを掴み、口に入れる。
「げほげほ!にっがい!何ですかこれ!?」
リーナは喉を抑え、席をする。しばらくして治まると水で喉を潤す。液体を飲んだはずなのに、逆に喉が渇いたように感じた。
「ごめんなさいね、このミルクと砂糖を飲んで入れるとおいしいわよ」
リーナは渡されたミルクと砂糖を入れる。すると、真っ黒だった液体が柔らかな茶色い色に変化した。リーナは恐る恐る、口に入れる。
「甘くてすごく飲みやすいです!」
「そう?よかったわ!それじゃぁ、ゆっくりしていってね」
そう言って、ママはまた店の奥へ消えていった。ママがいなくなった店内でリーナとパーツはギルドについて話しながらケーキとコーヒーを堪能した。