ネタばらし 159
買い物から帰ってきたリーナ達が控室でシャンシャンの淹れたお茶を飲みながら話していると、控室の扉が数回ノックされてジャッジが顔を見せた。
「Bグループの準決勝を行いますので、準備をお願いします」
「分かりました。すぐに行きます!」
リーナは軽い返事をジャッジに返してカップに残っていたお茶を飲み干すと、ソファから立ち上がった。
「じゃあ、行ってくるね!」
「行ってらっしゃい」
「頑張るアル!」
これまで幾度となく言葉を交わしてきたアムリテ達は最低限の言葉をリーナに送り、それを受け取ったリーナは控室を後にした。
「…で、いつまでいるつもりアル?ヒイロ」
カップの淵に唇を当てたまま固まっていたヒイロは、シャンシャンに声をかけられて肩をびくりと震わせた。
「王者が緊張なんてみっともないアル。決闘なんか今まで何度もやってきたことネ」
「そ、そうなんですけど、相手がリーナさんなので…。怪我はさせられないし、勝っても申し訳ないです…。それに、騙してるみたいでなんだか…」
そわそわと落ち着きなく体を揺らすヒイロを見て、アムリテがため息を吐いた。
「騙してるのはそうだけど、今更なに言ってんのよ。リーナがそんなこと気にするはずないじゃない。あんたはただ、リーナと本気で戦って来ればいいのよ」
「そうアル。手加減する方がリーナは怒りそうネ」
「そ、そうですね…。そうですよね!」
二人の言葉を聞いたヒイロはすぐに自信を取り戻し、グッと拳を握った。
「それに、あんたはもう勝った気でいるみたいだけど、リーナは意外に強いから油断しないことね。じゃないと、足元すくわれるわよ?」
アムリテの笑みにヒイロも笑みを浮かべて返す。そこではリーナへの期待と王者としてのプライドがぶつかり合っていた。
「それじゃあ、私も行ってきますね。本気で戦ってきます!」
「応援してるアル!勝ったら焼肉でも奢るネ!」
「なら、リーナが勝ったらステーキね!一番高いやつ!」
そんな二人の声援を受けたヒイロもまた歩き出し、戦闘場へと足を進めた。
アムリテ達と別れてから十数分後、リーナは戦闘場に繋がる通路で名前が呼ばれるのを今か今かと待っていた。その手にリーナが最も得意としている短剣が握られていた。
通路から見える観客席はほぼ満員であり、決闘場王者の人気をリーナは感じる。
しかし、リーナの心は落ち着いており、リーナは力むことなくただ耳を澄ませた。
「それでは、リーナ選手お願いします!」
戦闘場中央に立つジャッジの声がリーナの耳に届き、リーナはゆっくりと足を前へと踏み出す。リーナが戦闘場に姿を現すと、観客席からリーナに向けた声援が飛んできた。
その中にはノノとそのファンたちの姿もあり、リーナの名前が書いたタオルのような物を高々と上げていた。
その様子にリーナは少し恥ずかしくもあったが、それよりも大きな喜びを感じ、自然と笑みが生まれた。
「ノノにもちゃんとさっきの事を言わないとだね。そのためにもまずは、王者さんに勝たないと」
リーナの独り言は誰の耳に届くでもなく、戦闘場の空気に溶けて行く。
しかし、リーナを歓迎していた戦闘場の空気は次の瞬間に一変した。
「それでは、決闘場王者、ヒイロ選手お願いします!」
選手の名前が呼ばれた瞬間に観客席から建物が揺れるほどの声援が飛び交った。だが、一人だけその声援とは対照的に言葉を失っている人物がいた。リーナだ。
リーナが自身の耳を疑っていると、リーナが見つめる向かいの通路から王者は姿を現した。太陽に照らされ、眩しいほどに鮮やかな赤髪。一見、子供かと見間違えるほどの小柄な体格をしたかわいらしい顔の少女。それは、リーナがよく知るヒイロだった。
「リーナさん、騙していてすみません。私が決闘場の王者、ヒイロです」
驚愕に満ちているリーナを真っすぐと見つめ返すヒイロ。その目には控室で見せていたような不安などはなかった。
「…まさか、ヒイロが王者だったなんて…。びっくりしたよ!」
「…怒ってないんですか?」
「うん?怒るって何を?むしろ、私いま嬉しいくらいだよ!こんなところでヒイロと戦えるなんてありがとう!」
予想していた反応とは全く異なる返しをしたリーナに今度はヒイロが驚いた。
「ありがとう、だなんて…。私もリーナさんとここで戦えるなんて嬉しいです!お互い、全力で頑張りましょう!」
ヒイロが引いた武器もリーナと同じ短剣の様で、ヒイロは短剣をくるくると回してリーナへと身構える。そして、リーナもまたヒイロへと短剣を構えて開始を待つ。
「それでは、Bグループ準決勝、ヒイロ選手対リーナ選手、始めて下さい!」