買い物 158
リーナとアムリテの会話が終わり、シャンシャンを交えて控室で談笑していた三人のもとに額に汗を滲ませたヒイロが入ってきた。
「リーナさん!?」
「あ、ヒイロ…って、どうしたのそんなに汗掻いて!?とりあえず、これ!」
リーナは出会ってから初めて見るヒイロの表情に驚き、慌てて控室にあった一枚のタオルをヒイロに手渡した。
「あ、ありがとうございます…。って、いつも通りじゃないですか!?」
ヒイロはリーナからタオルを受け取ると、ある程度の汗を拭いたのちに声を上げた。
「心配して急いで戻ってきたのに、全然落ち込んでないじゃないですか!?」
「そっか、ヒイロにも心配かけてたんだ…。ごめんね…。でも、もう大丈夫だから!心配してくれてありがとう!」
リーナの笑顔にヒイロは言葉を探すが、短い息を吐くとヒイロもまた笑みを浮かべた。
「良かったです。ところで、ロミオさんとジュリエットさんはどこに…?」
「あー、ちょっとね…。確か、服とか靴を見に行くって言ってたわよ?」
アムリテはあの時の自分を思い出し言葉に詰まるが、二人の会話を思い出した。
「そうなんですね。…良かったら、私達も行きませんか?」
「いいの!?あ、けど、私はトーナメントがあるから…。三人で行ってきてたら?」
ヒイロの言葉にリーナは目を輝かせるも、あと一試合残っているリーナは同行するのを諦めた。
「トーナメントなら大丈夫ですよ。次がBグループの準決勝なので、時間が空くんですよ。その間なら選手は自由に動いても何も言われません」
「そうなんだ!なら、私も行きたいな!」
「なら、決まりね!いつも同じ服ばっかりだったし、靴とかも買い替えましょ!」
「ヒイロ、服屋なんて知ってるアル?ヒイロもいつも同じ服ネ」
シャンシャンの言葉にヒイロの表情が固まる。
「そういえば私、貰ったお金は食べ物にばかりで、服とかは全然でした…。ジャッジの人にちょっと、おすすめの店でも聞いてきましょうか?」
「はぁ、仕方ないアル。ここは私の行きつけに案内するネ!」
珍しくテンションが高まったシャンシャンだが、三人はシャンシャンの民族的な服装を見て少し戸惑いを見せた。
「失礼な目をやめるネ!私だって休日は普通の服を着てるアル!ここに来るときはこの服にしているだけネ!」
「そうだったんですね。いつもそれだったので、私てっきりそれしか持ってないのかと」
「私はシャンシャンさんの服装、好きですよ?ただ、私に似合うとは…」
「なしね。動きやすそうだけど、なし。あたしはもっとオシャレなのがいいわ!」
「全員失礼すぎるアル!こうなったら、私のセンスにビビらせてあげるネ!」
次々に寄せらる声にシャンシャンは耐えかねて、声を荒げた。そして、シャンシャンは三人に見合う服を買うために三人を控室から連れ出して、メルモの街へと繰り出した。
シャンシャンの案内で十数の店を回ったそれぞれはその手に大きな袋を二つほど抱えていた。その中でシャンシャンだけは大きな袋を四つほど抱えており、その袋は今にも破裂しそうなほど膨れていた。
「まさか、本当にセンスがあったとはね…。おかげで思った以上に買っちゃったわ」
「だね!どれもこれも可愛くて全部買いたかったくらいだよ!でも、買いすぎても冒険の邪魔になるからね…。ヒイロはもっと買っても良かったんじゃないの?」
四人の中でヒイロだけが唯一、持っている袋が一つだけであり、購入したのは一着の服と靴だけだった。
「私はいつでも買いに来れるかな、って思ったので。それに、自分では何が似合ってるかなんて分からなかったので、慣れない服は恥ずかしくて…」
「ヒイロはもっと周りを見るアル。そうすれば、服にも化粧にも気がいくネ」
ヒイロとは対照的に大量の袋を持っているシャンシャンは上機嫌になっていた。
「さて、そろそろ戻りましょうか。買ったものは控室に置いておきましょう」
「そうね。リーナ、あんた頑張りなさいよ?これに勝ったら決勝なんだから!」
「うん!アムリテの仇は私が取るよ!応援しててね!」
「リーナさん、頑張りましょう!」
ヒイロに声援に若干の違和感を感じつつも、リーナは特に気にすることなく足を進めた。