リーナ対ジタルラ 155
昨日接触した魔族の話をしていたリーナはジャッジに戦闘場へと呼ばれ、戦闘場に繋がる通路の先で決闘が開始されるのを待っていた。
その手には槍が握られており、槍はリーナがトーナメントに登録してから幾度も戦った機会の多い武器だった。
「では、リーナ選手、ジタルラ選手お願いします!」
ジャッジの解説が終わり、名前を呼ばれたリーナと対戦相手のジタルラが向かいの通路から戦闘場へと姿を現した。その手には弓が握られているが、その体格が握っていると、まるでおもちゃのように見える。
「がはははは!こんな小娘が相手とはこの決闘、貰ったな!」
戦闘場に姿を現したジタルラの体格はリーナの倍以上があり、体格だけならばオウジンをも超えている。
「ここまでは運が良かったんだろうが、その悪運も今回で終わりだな!」
ジタルラは更に声を上げてリーナを挑発する。だが、リーナはその挑発に反応することはなく、ずっとジタルラの足元を見つめるように下を向いていた。
「それでは決闘を開始して下さい!」
二人の様子を見たジャッジは早々に開始を告げた。すると、ジャッジの声と同時にジタルラは手にしていた弓を放り投げて、大きな両手でリーナを鷲掴みにしようと腕を伸ばす。
だが、ジタルラの伸ばした大きな両手はリーナが姿勢を低めたことにより空を掴み、リーナはジタルラの懐に潜り込む形となり、リーナは無言のままジタルラの顎に向けて短く持った槍を突き上げた。
常人ならば致命傷は必死の一撃。しかし、ジタルラの顎に直撃したリーナの槍はジタルラの皮膚を貫くことなく、受け止められてしまった。
「ぐへへへへ。短く持ってたおかげで槍は折れなかったようだが、攻撃が軽すぎるなぁ!痛い目に合う前にさっさと降参した方がいいんじゃないか!?」
リーナの攻撃を無傷で受け止めたことで気をよくしたのか、ジタルラは更に笑顔を浮かべてリーナに降参を勧める。
だが、やはりリーナはそれに反応することなく、反撃を恐れてか素早くジタルラの懐から抜け出した。
「連れねぇなぁ!?せっかくのトーナメントだ。お前の悲鳴で俺が盛り上げてやるよ!」
ジタルラは再び両腕をリーナへと伸ばし、リーナに向かって駆け出す。その動きは巨体に見合わず、そこらの猪などと比べるといい勝負になろうかと言うほどだった。
「…そういえば、初めての魔獣って猪だったなぁ」
リーナの現状とはあまりにかけ離れた呟き。それは誰の耳にも届くことなく、空へと消えるがそのリーナの様子に違和感を感じたものが一人だけいた。
それは控室で常にリーナを見ていたアムリテだった。
「リーナ、あんた今戦ってるのよ…?なのに、どうしてそんな顔してるのよ…」
アムリテには戦闘場で戦っているリーナの表情が決闘中とは思えないほど、落ち着いていることに不安を感じていた。
「リーナ君はこれまでの戦いで相手の力量を少なからず見分けることができ始めたんだ。ジタルラ選手は恵まれた体格をしているが、リーナ君の相手じゃないだろうからね」
アムリテの不安を感じ取ったのか、ロミオが横から口を挟んできた。
「そうだとしても、そんなのリーナらしくないわよ…。やっぱり、あの魔族の事を気にしてるんじゃ…!ヒイロ、あたしをリーナの元まで運んでくれる?」
「すみませんが、私達でも決闘中に明らかな殺意が現れるまでは入れないことになっているんです。もしも入った場合には加勢した方が失格となってしまいます」
ヒイロの言葉にアムリテは爪を噛み、じっと戦闘場を見つめる。
「そんなに焦らなくれも心配いらないさ。決闘が終わってから、彼女とゆっくり話せばいいだろう?」
「そう言う事じゃないのよ…!」