話し合い 154
リーナがヒイロたちに魔族の事を打ち明けることなく宿に戻った翌朝、ヒイロがリーナ達を宿に迎えに行くと、そこにはふくれっ面をしたアムリテがリーナの横に立っていた。
「えっと、何かあったんですか…?」
聞いていいものか一瞬ためらったヒイロが尋ねると、アムリテは大きく口を開けた。
「何かじゃないわよ!この子、昨日顔色が悪かった理由を聞いたら────」
「───アムリテ!ここで話すのはダメだよ!?人目につかないところじゃないと!」
大きな声で理由を話そうとしたアムリテの口をリーナが抑え、アムリテがもごもごと声を出せない状態になってしまった。
「ヒイロにも話すから、早く決闘場に行こ?たぶん、何言ってるんだって思われちゃうけど」
「…そんなことありませんよ。リーナさんの話なら何であろうと信じます」
リーナとアムリテ、ヒイロが控室に行くと三人を待っていたかのようにロミオとジュリエット、シャンシャンが控室のソファに座っていた。
「ヒイロ、確かここってあんた専用の部屋よね?完全にあいつらとの共有になってるけど、なんとも思わないわけ?」
「一人より大勢の方が楽しいので!けど、男の人が先に入ってるのは…」
そう言ってヒイロがロミオに目をやると、部屋にいるロミオ以外の目線がロミオへと集まった。
「ふ、安心していい。僕が愛を捧げるのはジュリエットだけだからね。それよりも────」
「──ロミオ、そう言う話ではないでしょう?私もあなたの事を愛しているけど、女の子の部屋に勝手に入るのはどうかと思うわ」
「ジュ、ジュリエット!?君までそんなことを言い出したら、僕は…!」
目に涙を浮かべ始めたロミオだが、ジュリエット以外がそんなロミオを相手にすることはなく、各々がソファへと腰を下ろした。
「あたしとかシャンシャンは元からだったけど、リーナもあいつの扱いが雑になってきたわよね…?」
「そうかな?なんだか、こういう風にした方が喜んでるみたいに見えて」
「そこ!?聞こえているからね!?僕はこれでもファンは多いんだから、もっと優しく扱ってくれてもいいんだよ!?」
「自分でこれでも、と言ってる時点で終わりアル。それよりも、リーナ、アムリテ、今日は朝一にいいお茶が売ってたネ。飲むアル?」
シャンシャンが懐からお茶の葉がはいっているであろう袋を取り出した。
「ありがとうございます。けど、その前に私からいいですか?昨日の事なんですけど、やっぱりここにいる人たちに話しておきたくて…」
「分かったアル。一応、私の魔法で防音はしておくネ」
そう言ってシャンシャンがおもむろに立ち上がり、手の平をパンと鳴らすと、その音が控室全体を包むようにして広がった。
「これで外に音が漏れることはなくなったアル」
「ありがとうございます。では、昨日のライトクレイルとの決闘の後なんですけど…」
リーナの話が終わると同時にアムリテ以外の全員が息を吐きだして、いつの間にか伸びていた背中をソファに預けた。
「魔族、か…。話には聞いたことがあるが、その程度だね。僕も一時期は冒険者をしていたが、魔族と出会ったことはない」
「私もです…。まぁ、私の場合はメルモから出たことが数える程度なので、参考にはならないかもですけど…」
ロミオとヒイロが顔を下に向けて考え込むが、シャンシャンだけが顔を上に上げていた。
「んー、私の師匠が昔、魔族と戦ったって言ってたネ」
「ほんとうですか!?それはいつ!?どこで!?」
突如生まれた手掛かりにヒイロが珍しく興奮している。
「詳しくは知らないアル。ただ、私の師匠でも一対一じゃ勝てなかったって言ってたネ」
シャンシャンの師匠がどれほどの強さを有しているのかは誰にも分からないが、ランキング上位に位置するシャンシャンの師匠ならば、生半可な力ではないだろう。
控室の空気が重くなっていると、その扉がノックされた。
「リーナ選手、決闘の準備をお願いします」