話し合い 153
リーナとライトクレイルの父親を名乗る魔族が顔を合わせていたころ、決闘場を揺らすほどの歓声が戦闘場から上がった。
「ヒイロ、不味いことになった。控室に今すぐ戻って来られるかい?」
暗い通路の壁に背中を預けていたロミオはヒイロを見ると、壁から背を離してヒイロに声をかけた。その表情にいつもの笑みはなく、事態の深刻さが露になっていた。
「……魔族、でしたか?」
「…その通りだ。リーナ君が魔族と接触した。幸いにも危害は加えられていないが、魔族の口から勇者言葉が出てね」
「分かりました。ですが、このことにリーナさん達を巻き込まないでください、リーナさんが打ち明け
れば驚き、黙っているなら合わせましょう」
「君があの二人を気にかけているのは痛いほどわかる。だが、そんなことを言っている場合じゃないろう。それに、もしかしたら彼女たちが勇者の存在を知っていることだって────
「──それこそリーナさん達には関係のない私達だけのことです。さ、早く戻りましょう。シャンシャンにもこのことを共有しておかないといけませんしね」
ヒイロの鋭い目線に見つめられたロミオはそれ以上言葉を発することはなく、ただ先を行くヒイロの後ろをついて歩いて行った。
リーナが控室に戻ると、いつの間にかヒイロとライトクレイルの介抱を頼んだシャンシャンまでもが先に控室に戻っていた。
「シャンシャンさん、ライトクレイルはどうなりましたか?」
「意識が戻ってからは父親を探し始めたアル。どうにか誤魔化して安心させると眠ったけど、次に目を覚ましたらもう嘘は通じないネ。一緒にいるジャッジの苦労が目に見えるアル」
控室にライトクレイルがいないところを見ると、ライトクレイルは現在決闘場の休憩室でジャッジと一緒にいるのだろう。
「リーナさん、大丈夫ですか?ずいぶんと顔色が悪いようですけど…」
ヒイロがリーナの顔を覗き込むよ。そのヒイロの顔には不安が宿っており、リーナは慌てて笑顔を作って手を交差させた。
「ううん!ちょっと疲れちゃって…。今日ってこれで終わりだよね?」
「そうだね。君達が良ければだが、知り合いの店に連絡をしている。一緒にどうだい?」
ロミオの誘いにリーナは首を振って、再び笑顔を作った。
「すみませんけど、今日は疲れてるので…。アムリテだけでも行って来たら?」
「あたしも帰るわよ。ヒイロ、悪いんだけど宿まで付いてきてくれる?もしもリーナが倒れたりしたら、魔力のないあたしじゃ運べないだろうしね」
「もちろんですよ。リーナさんもアムリテさんも今日はお疲れ様でした」
そうしてリーナとアムリテはヒイロの付き添いのもと宿へと戻り、夜を過ごした。