リーナ対ライトクレイル 149
長剣を失ったリーナを見つめていたライトクレイルは元々低い身長をさらに屈めて、リーナへと駆け出した。その速さは目を見張るものであり、リーナは頭で考える前に後方へと引いてしまった。
その結果、リーナは戦闘場の壁にぶつかってしまし、ライトクレイルの接近を許した。
「ほらほららほ!痛いだろ!?きついだろ!?お前が悪いんだ!お前らが悪いんだ!」
襲い掛かるライトクレイルの型も流派も法則もない連続で繰り出されるただの拳。
短剣を持った状態のリーナだったならば難なく受け流すことができただろう。しかし、短剣どころか武器を持っておらず、背後を抑えられている状態では十分に対応することができなかった。
一発、一発と腹部や足にライトクレイルの打撃が入る。一撃は大したことのない威力だが、打撃を受けるたびにリーナの心に焦りが生まれる。
「ほらほらほらほらほら!泣いたってダメだ!謝ったってダメだ!強い奴が正義なんだ!」
ライトクレイルの連撃は更に速度を上げて、リーナの全身へと撃ち込まれる。リーナは頭部へのダメージを防ぐために両腕を顔の辺りで交差させた。
すると、ライトクレイルはむやみやたらに放っていた打撃を腹部に集中させた。
「うっ…!」
両足とお腹に力を込めてライトクレイルの打撃を受け止める。しかし、ダメージがリーナの体に溜まり、リーナは呻き声をあげた。
「ほらほらほらほらほら!いつだってそうだ!いつでもそうだ!誰もがお前を蔑む!誰もがお前を痛めつける!この痛みもお前のせいだ!痛いのが嫌ならお前が変われ!」
ライトクレイル言葉が次第に加速していき、その言葉に比例して打撃が重く早いものになって行く。
次第にライトクレイルの体が浮き始め、放たれるライトクレイルの拳に体重が重なる。
リーナはその拳に耐えるために腰を落とし、左足に負荷をかけることで右足に余裕を与える。
「こんのぉおおおおおおおお!」
自身に体重をかけて宙に浮くライトクレイルの腹部に、余裕のできたリーナの右足蹴りが決まった。
リーナの足蹴りを受けたライトクレイルは無言のまま弧を描き、戦闘場の中央に墜落した。
「はぁ、はぁ、ふぅ…」
ライトクレイルの猛攻から逃れたリーナは息を整え、重点的にダメージを受けた腹部に手を当てる。すると、痛みを訴える腹部は手が触れただけで更なる悲鳴を上げて、直接見ることも躊躇われることになっているだろうとリーナは思った。
「うぅっ、うぅっ、ううううううううう…!」
一方、戦闘場の中央に戻されたライトクレイルは起き上がることなく、仰向けになった状態でうめき声を上げ始めた。
「……悪いけど、容赦はしないよ。私も結構痛かったんだからね!」
リーナはライトクレイルのうめき声を気にすることなく、ライトクレイルへと駆け出し、仰向けになっているライトクレイルの脇腹を蹴り上げた。
「がぁあ!」
ライトクレイルは悲鳴を上げて再び弧を描いた。そのままうつぶせの状態で床に膝が触れて欲しいとリーナは切に願うが、ライトクレイルは再び仰向けの状態で墜落した。
「うぅっ、うぅっ、ううううううううう…!」
ライトクレイルは先ほどと同じく仰向けになったまま起き上がることなく、うめき声を上げる。リーナはそのライトクレイルの様子を見ることなく、戦闘場の端へと駆け出してライトクレイルに放り投げられた長剣を拾い上げた。
「降参するならもう傷つけないけど、どうする?まだ痛い目に合いたい?」
「……どうせ、僕を痛めつけるんだえお?蔑むんだろ?」
「決闘が終わればそんなことしないよ。蔑むのも私はしないし、この決闘を見てる人は誰もしないと思う、だって、君は強かったから。拍手が貰えると思うよ?」
リーナの言葉にライトクレイルは頭を上げて、瞳を見つめた。
「ほんとう?誰も僕を痛めつけない?誰も僕を蔑まない?」
「うん。みんなが君に笑いかけて褒めるよ」
「なら────」