リーナ対ライトクレイル 148
頭を掻きむしりながら血をばらまくライトクレイルから距離を取って様子を見ているリーナ。しかし、そのあまりの異様な光景にリーナは困惑していた。
「……でも、痛いのはもっと嫌だ。どうすれば痛くならない?どうすれば誰も俺に近づかない?どうすれば俺を虐げない?……教えられただろう?誰かを痛めつければいい」
前半と後半で声音を別人かと思うほどに変えて言葉を吐きだしたライトクレイル。その目には先ほどは見られなかった覚悟が宿っていた。
「なぁ?俺の相手はあんたでいいのか?俺は誰を痛めつければいい?俺は誰に蔑まれる?」
「……あなたの対戦相手は私だけよ。だけど、私はあなたを蔑んでなんかない」
「嘘だな。それなら、どうして俺の足は血を流してる?どうして俺の血が付いた剣を握ってる?そう言う事だ。なら、俺はお前を痛めつけるだけだ!」
ライトクレイルは言葉の語気を強めると、それと同時にリーナへと槍を構えて跳躍した。
その跳躍、一飛びでライトクレイルはリーナの頭上まで飛びあがった。
ライトクレイルの言動に困惑していたリーナ。しかし、リーナの体は思考とは異なり、ライトクレイルの跳躍に対して、姿勢を低くして剣を上向きに構えると言う驚くほど的確に対応していた。
「ほらほらほら!」
ライトクレイルは空中にいながらも槍を短く持つことでリーナへと放つ。
リーナは真上から襲い掛かるその槍を剣身で受け止めると、上方向に力を込めることなく剣身を傾けて、ライトクレイルの持つ槍を床へと追突させた。
槍と床との衝突で甲高い音が生まれ、槍を通してライトクレイルへと伝わる衝撃が小さくないのが分かる。
リーナは衝撃で怯んでいるであろう真横にいるライトクレイルへと詰め寄り、脇腹を狙って横一閃を放った。
しかし、その一撃はライトクレイルが持つ槍によって阻まれた。
「っな!?」
衝撃により動けないと踏んでいたリーナ。その攻撃を防がれことにより、驚きの声を上げた。見れば、ライトクレイルは右足で槍の先を蹴り、リーナの剣筋に槍を乗せた。
「ほらほら!」
ライトクレイルは息つく間もなく、リーナの攻撃を防いだ槍を手放して真横に肘撃ちを放った。
リーナは後方に飛ぼうと足に力を込めて、お腹を引っ込めた。しかし、ライトクレイルの放った肘撃ちはリーナの想像よりも早く、リーナライトクレイルの肘撃ちを食らってしまった。幸いにも深くは入らなかったが、ライトクレイルの一撃を許したことはリーナの精神に大きな揺らぎを与えた。
「…反射神経、スピード勝負には勝てないかも。なら、距離を取りながらこの剣で…」
ライトクレイルとの攻防で危険を感じたリーナは考えを口に出し、戦略を立てる。
しかし、ライトクレイルはそんなものを意に介す気はないようで、再びリーナの真上へと跳躍した。
その手には先ほどと違い、槍は握られておらず、リーナは長剣でライトクレイルの脚部へとめがけて攻撃を仕掛けた。
「ほらほらほらほらほら!」
武器を持たずに空中に出たことにより、自由が利かないライトクレイル。その体に向けて放たれた一撃は誰もが直撃をすると思った。
しかし、その攻撃はライトクレイルが足裏で長剣の剣身を挟み取ったことにより、止められてしまった。
「この剣、邪魔だ!」
ライトクレイルはリーナの長剣を掴むと、そのままリーナに体重をかけて一回転をし、長剣を戦闘場の端へと放り投げた。
「これで痛めつけられなくなったな。ここからは俺の番だぞ」
ライトクレイルは口角を上げて、不気味な笑みを浮かべた。