準備運動 145
本選一試合目を勝利で終えたリーナは二戦目の待ち時間を控室で持て余していた。
本選はAグループの時と同様、予選である程度の人数に絞ったとはいえ、まだ一戦目の段階では出場選手が多く、一番最初に決闘を終えたリーナが次に戦うのは数時間後となるのだ。
「リーナさん、アムリテさん、この後の予定ってありますか?」
食事を食べ終え、ソファの上で横になりながら戦闘場を見ていたリーナとアムリテにヒイロが声をかけた。
「特にはないかな。どうかしたの?」
「よければ訓練場に行きませんか?一戦目では勝てる選手は全力を出さないと思うので…」
リーナの決闘から数試合が行われたが、体力の温存目的なのか決闘は一方的になるものが多く、見ごたえのある決闘は行われていなかった。
「訓練場って体を動かせる場所みたいな?ここにもあるのね。いいんじゃない?あんた、さっきの決闘であんまり動いてなかったし、準備運動してきたら?」
「んー、そうだね。ヒイロ、案内してもらえる?」
「はい!えっと、アムリテさんは行かないんですか?」
「あたしはパス。魔力も少ないし、今はゆっくりしておくわ」
オウジンとの決闘を終えたアムリテはまだ魔力が戻っていないらしく、ソファから体を起こそうとしない。
「分かりました。それじゃあ、ロミオさんとジュリエットさんもお願いできますか?」
「ふむ…。いいよ。僕も体を動かしたいと思っていたしね。オーナーには話してるのかい?」
考えるような仕草をしたのちに、ロミオはソファから立ち上がった。そのロミオに付き添う形でジュリエットもスッと立ち上がる。
「いえ、ランキング勢用の方を使おうかなって。この時間なら誰もいないと思うので」
「それじゃあ、私はアムリテと一緒にいるネ。ヒイロ、あとで時間を作って欲しいアル」
シャンシャンは決闘を見ていたいのか、控室に残る選択をした。
「分かりました。では、リーナさん、行きましょうか」
「うん。んー!久しぶりにコレを使いたいなぁ!」
リーナは腰の鞘に入れてている短剣を撫でて、控室から退出した。
決闘場の階段をいくつか降りたところに出てきた扉を開けると、そこには地下とは思えないほど明るく
広い空間が現れた。
「ここ本当に地下なの…?すごく明るいし、なんだか温かいけど…」
「魔石が大量に使われているからね。こんなに良い設備が揃っているのも、ここだけだと思うよ」
ロミオは訓練場の壁まで歩いて行くと、訓練場の壁に手を触れた。すると、訓練場の壁が少しだけ動き、その中から綺麗に並べられた数本の長剣が顔を出した。
「ヒイロ、僕を呼んだのはリーナ君と戦わせるため、という解釈でいいんだね?」
「はい。アムリテさんと旅をしていたリーナさんなら、魔法を使う相手との戦いは慣れていると思います。ですが、もし、近距離が慣れていないようなら先に目だけでも慣らしておければと」
「そうなんだ!色々考えてくれてるんだね!ありがとう!」
ヒイロの思考を聞いたリーナは、自身を思ってれているヒイロの手を取り、感謝した。
「い、いえ!せっかくのトーナメントですし、悔いは残ってほしくないので!」
照れたように頬を赤くするヒイロ。リーナはその手を離して短剣を引き抜いた。
「では、ロミオさん!よろしくお願いします!」
「こちらこそお手柔らかにお願いするよ。アムリテ君には格好もつかない負け方をしたからね。少しだけ、意地悪だと思ってくれて構わない」
数本の長剣から一本を手にしたロミオは柄を肩の位置に構え、剣身を下に向ける構えを取った。
「それでは、始めてください」
ヒイロの軽い宣言と共に、リーナとロミオは前へと駆け出した。
二人の距離はあっという間につまり、最初に攻撃を仕掛けたのはリーチの差を得たロミオだった。
右下からの切り上げ。リーナは下から襲い来る長剣にあえて短剣を当てる。それにより、長剣に速度が乗る前に軌道を逸らすことに成功した。
軌道を逸らされた長剣に体を持って行かれるロミオ。その顎の下から今度はリーナの短剣が襲い掛かる。
「っふ、近距離戦も問題ないようだね」
ロミオは一切の焦りを見せることなく、体を後ろに逸らして短剣を回避した。