Bグループ本選、リーナ対コマイ 143
「それではBグループ本選、第一試合を行います!リーナ選手、コマイ選手戦闘所にお上がりください!」
ジャッジに名前を呼ばれたリーナと対戦相手のコマイが戦闘場へと上がる。
お互いの顔が見えたところで、リーナはコマイの顔に驚いた。それは、あまりにも白かったためだ。
リーナの驚きを察してか、コマイはクスクスと品のある笑いを浮かべて口を開けた。
「驚かしてしもうたようですみまへんなぁ。この顔と喋り方は地元特有のもんやから、慣れへんと思うけど、堪忍やで?」
「え、あ、かんにん、ですか…?」
「あ、許してな?って意味どす」
「は、はぁ…」
聞きなれない言葉と話口調に戸惑いながらも、リーナは首を縦に振る。
そして、リーナは自身が引き当てた腕に付ける小さな盾、バックラーを見てから、コマイの持つ武器を確認した。
コマイが左手に持つ武器は鉄で出来た扇子、鉄扇だった。一目見ただけでは武器と言えるかも怪しいが、それはリーナが鉄扇についての知識を有していないからだと思い、リーナは気を引き締める。
「それでは、時間が押しておりますのでさっそく始めさせていただきたいと思います!」
「あら、せっかちさんやねぇ。もっとゆっくりお話でもしたかったんやけど…」
「それでは、両者、始めてください!」
ジャッジから開始が告げられると、リーナはバックラーを胸の前に構えて腰を落とした。予期せぬ不意打ちを防ぐ狙いだ。
すると、コマイは鉄扇を広げた。リーナは襲い来るであろう攻撃に備えて腕へ力を込めた。
しかし、いつまでたってもコマイはそれ以上の行動をすることはなく、鉄扇をまるで普通の扇子のようにして自分へと風を送るだけだ。
「リーナはん、やったけ?なんか、さっきまで雨も降ってたのに、雲一つなくなってえらい暑いなぁ?日焼けはしたないんやけど」
コマイは世間話のように気さくにリーナへと話しかける。
リーナはその声に答える気はないが、お互いが動かなければ進展が無いと考え、じりじりと横へ、前へ、後ろへと足を進めてコマイの出方を伺う。
「なんやなんや、その動き。カニみたいやで?なんか、可愛いわぁ。ほら、もっと踊ってみ?」
相変わらず形の崩れない品の良い笑みを浮かべ続けるコマイが鉄扇で仰いだ風はリーナの方へと向かった。
リーナはその風を気にすることなくなおも距離を見定めようとしていると、鉄扇から生まれた風が放つ異様な音と土埃を纏った姿に驚き、慌てて真横へと飛んだ。
土埃を見に纏いながら竜巻状になってリーナの横を通過した風は戦闘場の床に衝突すると、周囲にそよ風を起こして消え去った。
「……魔法、使いなんですか?」
その光景に確信を持って尋ねたリーナに対し、コマイは今までのような品のある笑顔ではなく、見たものに恐怖心や不快感を与える不気味な笑顔を浮かべた。
「さぁ?どうやろなぁ?そうかも知れんし、そうやないかも知れんよ?」
しかし、その不気味な笑顔を直視してもリーナは怯むことなくコマイへと駆け出し、一気に距離を詰める。
「魔法使い相手なら、一気に距離を詰める!そうすれば魔法を使う隙を与えないことになる!だよね、アムリテ!」
「はて?あての名はコマイどすえ?間違えんとって欲しいわぁ」
バックラーを胸の前にあてて直進するリーナ。それを細めで捕えるコマイは鉄扇で扇いで風を送る。
その風は先ほどの竜巻のように変形するのではなく、戦闘場の床を切り裂きながらリーナへと向かう。
リーナはその風の軌道上から避け、足を止めることなくコマイへと向かう。
「風は気まぐれってよう言わんかった?」
突如、風とすれ違ったリーナのすぐ横でコマイの声が聞こえた。リーナはその意図せぬ接近に驚き、反対方向へと飛びのいた。
「クスクス」
すると、聞こえてきた声とは別、コマイが元々立っていた方向から声が聞こえてきた。
リーナはすぐ横で聞こえてきた声の方向に視線を向ける。そこに姿はなく、コマイが元々立っていた方向に目線をずらすと、そこには開始時から一歩も動いていないコマイの姿が見えた。
「どう?驚いてもらえてたら嬉しいんやけど。意地悪なんは名前を間違えた仕返し、ってことで堪忍な?」
「……間違えたわけじゃないんですけど」
コマイが魔法を使うことは確信しているリーナ。しかし、だからと言ってリーナはコマイに対する有効な手立てがなく、攻めあぐねている。
「さて、あてが魔法使いやとしたら十分に魔力は溜め終えたと思うけど、あんさんに勝ち目はありますやろか?」