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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
141/293

Aグループ準決勝(アムリテ対オウジン)決着 141


 アムリテは圧倒的な実力の差を前にして勝つことを諦めた。しかし、勝つことを諦めたアムリテには新たな目標が生まれた。


 どうすれば恥にならない負けになるか。


 一見、正面から殴り合えばそれは叶うように見えるが、相手は殺すことを前提としているオウジン。そんな相手と正面から殴り合えば、アムリテの命はそこまでだろう。


「とりあえずは攻撃するしかないわよね!」


 アムリテは広い上げた魔石に魔力を流し込む。アムリテの魔力は魔石を通じて上空に浮遊している水球へと伝わり、水球からオウジンの身長ほどもある水槍が四本も生まれた。


 その四本の水槍はアムリテの両サイドに分かれると、回転を初めた。


「………」


 対するオウジンは無言のままアムリテと水槍を見つめる。


 アムリテにはオウジンの思考が読めないが、一つだけ確かなのは先ほどに確信したオウジンが決闘を楽しみたいと言う事だ。ならば、アムリテの魔法が発動する前に殺すようなことはしないだろうとアムリテは考えた。


「魔法使いに時間と材料を与えたらどうなるか、しっかり見ときなさいよ!」


 アムリテはオウジンが与える無制限の時間を駆使し、時間をかけて大量の水槍を生成する。そのたびに水球は小さくなっていくが、オウジンが振らせた雨により、水球は自然と雨水を蓄えて行く。


 気付けば、時間と水が十分にあるアムリテが生み出した水槍の数は十に上り、オウジンの周囲を囲う形で浮遊している。


「もう時間切れかしら?それとも、まだ待ってくれたりするの?」


「……好きにしろ」


 挑発するように問いかけたアムリテに対し、挑発に乗ってか乗らずか、オウジンはアムリテに更なる猶予を与える。


「そ、ならそこから動くんじゃないわよ!」


 十の水槍を回転させながら浮遊させるアムリテは、何も手にしていない左手を正面に突き出して指先を光らせる。


 指先から放たれた魔力が操作するは戦闘場の床を流れ続ける水だ。魔力を受け取った足元の水は水色の光を放ち、オウジンの足元へと円を描くようにして集まる。


 アムリテはゆっくりと左手を動かし、水を操作する。すると、オウジンの足元に集まった水は細かく分岐を始め、それは魔法陣の形を形成した。


「アルト・デッカ・ドォリィ・レイトルギ!」


 一定の光を放っていた魔石がさらに強い光を放つ。それに同調するように水槍は回転を加速し、十の水槍がオウジンへと撃ち放たれた。


 唯一、オウジンの体に傷をつけることができた魔法。それがありとあらゆる方向から襲い掛かる。回避不可能、元より回避する気のないオウジンに致命傷となることは避けられないだろう。


「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


「アルト・ディッピロ・シオースカローナ!」


 回転しながら襲い掛かる水槍が肌に触れる直前、オウジンは咆哮を上げた。すると、腰の位置で止まっていた変色が急速に進み、胸位置まで赤黒く変色した。


 一方、咆哮と同時に魔法を叫んだアムリテ。その叫びに同調したのはオウジンの足元に張り巡らされた魔法陣だ。


 魔法陣は青い光を放つと、その直後、点を貫くかのように水柱が現れた。


 水柱に飲み込まれるオウジン。しかし、その体に触れた水は蒸発していく。水柱はオウジンを囲うようにして空洞を開けられる。だが、空洞となった水柱の外から回転する十の水槍がオウジンの頭部に触れる。


「いっけえええええええええええええ!」


 アムリテが叫ぶ。その叫びには魔力も策も込められておらず、ただ願いだけが籠められている。




 アムリテの魔力が底をつき、水柱と上空に浮遊していた水球が崩れ落ちる。


 アムリテの手から分銅鎖がこぼれ落ちる。そして、アムリテは膝を着かないようにお尻から倒れこみ、崩れ落ちる水柱を見つめた。


 その中に立っていた者が膝を着いているようにと願いを込めて。


 しかし、その願いは届くことなく、水柱の中には仁王立ちをしている人影が見えた。


「……あたしは降参してもいいのかしら?」


 アムリテは全力を尽くしてもなお、倒せなかった相手に尋ねた。


 水柱が全て消え去り、その姿を現したオウジン。その顔は頬が引き裂かれ、両の耳を失っていた。


「お前は負けた。大人しく死ぬことだな」


 オウジンが右腕を赤く光らせアムリテへと向けた。


 魔力を使い果たしたアムリテにその攻撃を防ぐ術はなく、そっと目を閉じる。


「オウジン選手、アムリテさんは負けを認めました。ここは引いてください」


 アムリテもよく知る声がオウジンとの間に割って入る。


「死ね」


 オウジンはその人物を気にすることなく腕から赤い光を放った。その光はアムリテへと向かい、アムリ

テの傍らにあった分銅鎖を溶かした。


 それを確認したオウジンはアムリテから背を向けて、戦闘場から通路へと歩き出した。


「あ、あの、オウジン選手!?」


 まだ決着をつけていないジャッジは慌ててオウジンを引き留めようと声をかける。しかし、そんなジャッジをアムリテが引き留めた。


「あたしの負けよ。降参するわ」

 


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