Aグループ準々決勝(オウジン) 134
一般人が座っている観戦席よりも少し上に設置された控室から、オウジンとデルタの決闘を見ていたロミオたちはその異様さにくぎ付けになっていた。
「どうなっているんだ…?デルタは確かに頭部を潰されて息絶えたはず…。なのに、何度もどこからともなく現れてはオウジンに殺され続けてるなんて…」
戦闘場では文字通り、デルタによる決死の突撃が行われている。オウジンの頭上、真横、真後ろ、果ては股の下から顔を覗かせてはその都度、オウジンに頭や心臓を潰されていく。
「ヒイロ、君はもうデルタのタネが分かっているのかな?」
「…おそらくは魔法の類だと思いますが。しかし、魔法にしては死ぬ瞬間に違和感が無さすぎます…。幻覚ならこれほど大勢の人を何の準備もなく嵌めることはできないですし、分身にしては血液や死体が残るのも腑に落ちません」
ヒイロは考えられる全ての可能性を考えるが、デルタの技はあまりにも都合のいい物であり、ヒイロは目の前の光景に確信を持つことができないでいた。
戦闘場では無限に現れては消えて行くデルタを一体ずつ殺すオウジンの表情に明らかな疲れが見え始めていた。
「デルタの狙いは勝つことじゃなくてオウジンを殺すことアル。子供を殺されたからって今回のトーナメントとは関係ないネ。今からでも止める準備をするアル?」
「悪いけど僕とジュリエットは拒否させてもらうよ。私怨はもちろんあるけど、それ以上にオウジンを止めることができない。ましてや、彼を殺せるほどの実力を持ち、彼を殺すことを胸に抱いている人間相手なんてなおさらさ」
ヒイロ、ロミオ、シャンシャンの三人はこれまでもオウジンが出場選手を殺そうとすれば可能な限りでそれを阻止してきた。それはトーナメントを円滑に行うためにランキング上位勢に定められた義務みたいなものだったからだ。
しかし、今回は余りにも決闘が激化しており、もはやランキング上位勢と言えども無傷で決闘に介入することは難しいだろう。
「オーナー、すみませんが今回は僕とジュリエットは行きませんので。契約違反と仰るならそれ相応の代金はお支払いいたします」
ロミオの断固とした眼差しに見つめられたオーナーは少し困ったような表情を浮かべた。
「契約違反なんて言わないさ。誰だって自分の命は惜しい。シャンシャンも今回は無理に行かないで構わないよ」
「そう言ってくれると助かるアル」
シャンシャンは一度、腰をソファに沈めると机の上に置かれた果物を一つ口にした。
「ヒイロ、君も────」
「────行きますよ。その必要性があるなら、ですけど」
ヒイロの意外な言葉にオーナーを含めたロミオたちが目を丸くした。
「オウジン選手は確かに許されないことをしてきました。けど、私は見殺しにしたいとは思えませんので、助けられるなら助けます。もちろん、助けを求めるのがデルタ選手であっても」
デルタの止まぬ攻撃により、オウジンの体に浅くはない傷が蓄積されていく。その肩は上下に揺れており、その顔にはわずかに汗を掻いているようだ。
「どうした?無類の強さを誇った貴様がこんなにも圧倒されるとはな。天に召された愛息子も笑みを浮かべておるであろう。滑稽、滑稽」
笑う声を響かせるはずのデルタの頭は潰され、四肢を全て失っている。しかし、その見るのも躊躇われるほどの死体も数十秒後には消え去り、次のデルタが空中から突如現れて。オウジンの背中に膝蹴りを与える。
「っち」
オウジンは膝蹴りのダメージはさほど感じていないのか、少しだけ体をのけぞらせるだけですぐに斧を振るってオウジンの下半身を切り裂いた。
「さぁ、これまで、のように、何の、慈悲もなく、殺すがよい。その、愚かさ、が貴様を冥府へ、近づける」
口から血を吐き、息も途切れ途切れになりながらもデルタは言葉を発する。
「死ね」
オウジンは足でデルタの頭を踏みつぶす。戦闘場には数十回目に及ぶデルタの血液がまき散らされた。
観客もその光景に見慣れた様子で、顔を青ざめる者はいても声を上げるものはいなかった。