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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
132/293

Aグループ準々決勝(オウジン) 132


「化け物め…」


 デルタは衝撃で痛む右腕を一払いすると、即座に飛ばされた刀を回収し、再び刃先を膝へと打ち付ける。デルタの膝に衝撃を与えられた刃先は甲高い音を上げて、折れる。デルタの手元に残った刀はもはや短剣のような短さになって、鋭利さを取り戻した。


 デルタはその短剣を腰に巻いた布に突き刺すと、刀は鞘に収まるかのようにデルタの腰布にとどまった。


「剣遊びは終わりか?なら、見逃してやるから降参しろ」


「戯言をほざくな。あまたの命を断ってきた貴様が今更、見逃す?急に生に価値を見出したか?冗談であっても笑えんぞ?」


「価値のある命は俺より強く生まれる。お前を見逃すのは萎えてるからだよ。俺はさっさと寝て、明日になったあの魔法使いとの殺し合いをしたいだけだ」




 オウジンの言葉に控室で観戦していたヒイロが目を見開いた。オウジンがアムリテの事を気に入っている事は一回戦の時に分かっていたが、ランキング三位であるデルタとの決闘をないがしろにしてまでとは思っていなかったのだ。


「ヒイロ、今戦闘場に出ては全てが台無しになる。その殺意を収めるんだ」


「……分かってます。ただ、明日の決闘の結果によっては話しかけないでくださいね」


「安心するアル。その時は私も手伝うネ。何があってもアムリテとリーナはやらせないアル」


 気付けば、ソファで晩御飯を食べていたはずのシャンシャンまでもが立ち上がり、戦闘場に立つオウジンを睨んでいた。


「私もここのオーナーとして医療準備は最善を尽くす。だが、君達の手出しも限界までは止めさせてもらうからね?」


「…オーナーには恩があります。でも、守れるかは分かりません」




 オウジンの言葉を聞いたデルタは体を震わせ、拳を握り締めていた。


「貴様より弱い命に価値は無いだと…?ならば、昨年、貴様に殺された我が愛息子にも価値は無かったと申すか!?」


「知らねぇよ。俺に殺されたならそういう事だろうけどな」


 思い出すそぶりも見せずに吐き捨てられたオウジンの言葉を耳にしたデルタはその場から消え、次の瞬間にはオウジンの懐に潜り込んでいた。


 先にも述べた通り、オウジンの姿は暗闇に紛れるような黒を基調とされているもので、見失う可能性は高い。しかし、今回の移動はあまりにも早く、その姿を捕えられたものはいなかった。


「おっ」


 言葉通り一瞬で懐に現れたデルタに声を上げようとしたオウジンの顎をデルタの掌底が襲う。オウジンは顔をのけぞらせ、地面から足を浮かせる。


 デルタはその間にも強烈な掌打をオウジンの体中に放ち続ける。胸や腕、脇腹や金的に。


 止まることのないデルタの猛撃にオウジンは耐え切ることができず、デルタが腹部に放った強烈な一撃によってオウジンは背中から床へと倒れた。


「この程度で終わらせる気はない。膝をつける自由も与えん。二度と見ることのない陽に焦がれながら、黒一色の天を見上げて落ちろ」


 デルタは仰向けになっているオウジンの胸板に飛び乗ると、デルタは更なる追撃を仕掛ける。その光景はあまりに一方的であり、観戦する観客は誰一人として声を上げない。


 戦闘場に倒れるオウジンをデルタが殴り続ける鈍い音だけが、響く。




「すさまじい攻撃だね…。一撃一撃が目にするのすら難しいほどに早く、正確に急所を狙って放たれてる。その上、とても重い。衛兵や軍の兵士程度なら一撃で殺せる威力が籠められている」


「デルタ、だったアル?子供をオウジンに殺されたとかって言ってたネ。あのまま、殺すつもりじゃないアル?ま、私達としてはその方が助かるけどネ」


 そう語るシャンシャンの口調は明るい物ではなく、それは本心ではヒイロの考えと同じ気持ちだったからだろう。


「あの程度で死ぬならとっくに殺されてますよ。あの人の強さは此処にいる人なら全員知っているはずです」


 ヒイロの言葉に控室の全員が押し黙ってしまう。控室にいるランキング上位勢は皆、過去にオウジンと戦った、あるいは親しい者を殺された経験の持っているのだ。


「そうだね。私怨で殺せるなら、僕がとっくに殺しているよ。悔しいけど、彼の強さは本物さ。いや、見ないようにしていた半年間の間に、更に強くなっているね」


「ロミオ…。ナイワニの事はもう…」


「心配させてすまない。だけど、もう彼の事は僕の中で区切りがついている。あれは実力不足だった僕たちの責任だと」


 ジュリエットの憂うようなまなざしにあてられたロミオはジュリエットの頭の上に軽く手を置いて一撫でした。


「けど、いつ何時もこの殺意を忘れたことはない。できるなら、この手で…」




 デルタに殴られ続けているオウジンは小さく言葉を呟いた。


「っはぁ…。痛てぇじゃねぇか…」


 その言葉はあまりにも軽く、致命傷になっているはずの傷を負いながら発せられたものとは思えない。


 しかし、その言葉を耳にしたデルタは猛撃を中断し、オウジンの上から飛びのいた。


「おい、お前。一体俺にどうして欲しいんだ?殺してほしいのか?」


「貴様への願いなど一つしかない。冥府に落ちろ」


「なら、望み通り殺してやるよ!」


 オウジンの咆哮に決闘場が揺れた。



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