運搬作業 130
ミレアの手がアムリテから離れ、棒立ちになっているミレアをどうしようかとリーナ達が悩んでいると、控室の扉が三回ノックされた。
「何度もすまないね。アムリテ選手とミレア選手の様子はどうかな?」
扉を開きながらオーナーが控室へと入室した。リーナ達は大して驚く様子もなかったが、アムリテだけがその人物に頭をかしげた。
「あ、アムリテ、その人はオーナーさんで、ここの一番偉い人だよ」
アムリテの困惑する姿を察してか、リーナは少し小さい声でオーナーの事を説明した。
「へー。一番偉いってことは、こいつの世話を頼んでもいいのかしら?」
「…アムリテ君、もう少し言葉遣いを…。仮にもこの人のおかげで、今回のトーナメントは開催されているんだよ?」
「ははは。別に構わないさ。アムリテ選手は決闘場の選手でもない冒険者だ。立場はない物として接してほしい」
アムリテの言葉遣いをとがめるロミオに対して、オーナーは軽く笑った。
「さて、ミレア選手の件だが、意識が戻るまでは決闘場の休憩室にいてもらうことになった。そして、決闘の方は時間を考えても明日の午前中に再開する」
「午前中ってことは今日はもう帰っていいの!?」
「あぁ、十分に休んでくれ。だが、この後はランキング二位とランキング三位の名勝負が行われる。君が進むかもしれない準決勝の相手が決まるが、見て行かないのかな?」
ランキング二位と三位、それは本日行われた決闘の中で間違いなく一番注目されている決闘だろう。それに、あらかじめ相手の動きを見ていれば本番でも相手に合わせて動きやすくなる。それは大きなアドバンテージだ。
アムリテは唇に手を当てて考えるような仕草をすると、口を開いた。
「別にいいわね。見ておきたいってのも多少はあるけど、今は少しでも早く食べて寝たいの。寝不足、魔力不足でミレアに負けました、なんてことになったら笑えないわ」
「確かにそうだね。なら、ミレア選手は後にジャッジの数人が運び出すだろうから、置いて行ってくれて構わない。お疲れだったね」
「そうしてくれると助かるわ。リーナ、ヒイロ…、はジュリエットの護衛よね。何か買って来ようから?」
「いえ、今日はジュリエットさんたちと決闘を見ながら食べようかと思ってるので。お疲れ様でした!」
ヒイロは頭を軽く下げて、アムリテの申し出を断る。
「ありがとね。なら、先に帰らせてもらうわ。リーナ、行くわよ?」
「うん!ヒイロも皆さんも今日はありがとうございました!ね、アムリテは何が食べたい?やっぱり肉?」
リーナは退室際に控室にいる全員に向けて頭を下げると、先に控室を出たアムリテを折って行った。
「私もここで食事をしてもいいかな?代金は私が出そう」
「え、いいんですか?なら遠慮なくお言葉に甘えます。ジュリエットとヒイロも構わないかな?」
「ロミオがいいなら何も問題ないわ」
「奢ってくれるなら大丈夫です。私、お腹空いてるので一番高いステーキで」
「いいね。僕も同じものを頼もうかな。オーナー、お酒はどれにしますか?」
そう言ってロミオは数ページあるお酒のメニューから、一番後ろにある値段が張るお酒の載ったページを開いてオーナーへ手渡した。
「料理やお酒もいいが、まずはミレア選手だね。従業員で女性の方、すまないがヒイロ選手専用控室に意識のないミレア選手がいるから、数名で休憩室に運んでくれ」
オーナーは付けているネクタイピンを口元に寄せると、小声で小さく言葉を発した。
すると、その数分後に数名の女性ジャッジが駆けつけて、ミレア選手を抱えて休憩室へと運んで行った。
「あぁ、君、すまないがメニューを聞いてくれるかな?」
オーナーが数名と言ったためか、ミレアを運ぶのに余ったジャッジにオーナーは声をかけてヒイロたちの注文を取らせた。
注文を受けたジャッジは深々と頭を下げて退出すると、オーナーは戦闘場に目をやった。
「ヒイロ、今回の決闘、君はどちらが勝つと思う?オウジン選手かデルタ選手か」
「…デルタ選手が隠している何かを使えば、ってところですね。それが無い限りはオウジン選手だと思います」
ヒイロたちが注文した料理が届くと同時に、戦闘場に二人の人影が現れた。