第三試合(アムリテ)決着? 128
背後からの衝撃を受けたミレアはアムリテに捕まれた腕から力が抜け、顔を下に向けてただ茫然と立ち尽くす。
ミレアの後頭部へ強烈な体当たりをした血球はその勢いを失い、ミレアの背中にぶつかりながら戦闘場の床へと転がった。
アムリテは脇腹に刺さったままの矢を引き抜き、出血箇所に魔力を流し込むことで止血を行った。
「気絶、してるのよね…?」
アムリテは傷口が痛まないようにゆっくりと、ミレアの腕を離してからその背後へと回る。突然の奇襲に備え、アムリテはミレアが背負う筒から全ての矢を取り上げようと手を伸ばした。
その瞬間、下を向いたままのミレアが背後へと手を伸ばし、アムリテの腕を掴んだ。
「な!?気絶してたんじゃ!?」
驚愕するアムリテに対するミレアの反応はなく、依然として顔は下を向いたままだ。
そのミレアはアムリテの腕を掴んでからの展開をする様子はなく、アムリテは手にしている短剣の魔石へと魔力を流し込む。
「アイマ・スフィリー!」
アムリテは即座に追撃が無いことを確信すると、戦闘場の床に転がる血球をハンマーの形へと変え、ミレアの膝裏へと打撃を与える。
不意を突いたとはいえ、ランキング五位であるロミオでさえ膝を着いた一撃。しかも、ロミオの時は水で出来ていたものが、今回はアムリテの血で出来ている。硬度は言うまでもなく増しているのだ。
ランキング十位のミレアが受け止めきれるはずはない、誰もがアムリテの勝ちを予感した。
「っな!?意識もないくせにどうして倒れないのよ!?」
血で出来たハンマーはミレアの膝裏を間違いなく強打した。常人ならば膝を着くどことか、骨折していてもなんら不思議ではない。
だが、目の前に立つ意識のないミレアは、重いハンマーの一撃を受け止め、微動だにしていないのだ。
アムリテは更なる驚愕に襲われ、状況を整理するためにミレアとの距離を取ろうとするが、ミレアはアムリテの片腕を掴んで離さない。
「ジャッジ!気を失ってるんだから、さっさとあたしの勝ちにしなさいよ!」
「なりません。現在の状況から鑑みても、ミレア選手があえてそのような態度をとっている可能性は捨てきれませんので」
確かにミレアは後ろに手をまわし、対戦相手の腕を掴むという意識がなければ到底できないようなことをしている。
アムリテは何度も何度も宙を舞うハンマーでミレアの膝裏、脛、腹部、頭部を殴打するが、ミレアはを着くどころか、アムリテを掴む握力を強めた。「っつ!」
あまりの握力にアムリテの腕は悲鳴を上げる。これ以上、下手に攻撃を与え続けるとアムリテの腕が折れてしまう。
「どうしろって言うのよ…」
アムリテはミレアへの攻撃を諦め、少しでも魔力の消費を抑えるためにアムリテはハンマーの操作をめ、床へと着地させる。
「これ、ほんと、どうしろって…」
決闘が開始してから何時間経ったのだろうか。頭の上にあった太陽はすっかり赤に染まり、観客の三分の一ほどは決闘場から退出していた。
しかし、戦闘場の中央で帰りたくても帰ることのできない少女がいた。
その腕は銅像のように動かなくなった対戦相手に捕まれている腕の手先の感覚はなくなっており、魔力を流すことで何とか血を巡らせている。
「ジャッジ、あたしはいつまでこのままでいればいいの…?これがわざとなら、殺意を感じるんだけど?」
アムリテの顔からは気力が抜け、魔力切れを起こし始めているのか、その顔は青ざめていた。
「そう言われましても…。一度、こちらでも会議をいたします。もうしばらくだけお待ちください」
「これ以上、何を待てって…」
異例の事態が起こり、対応に頭を悩ませたジャッジはジャッジ用の通路へと入っていた。
すると、ジャッジは数分とかからずにすぐさま戻ってきた。
「えっと、アムリテ選手、並びに観客の皆様にお伝えいたします。本決闘は一度、中止となります。勝敗の方はミレア選手の意志が確認でき次第、となります」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!中止にするのはいいけど、これはどうするのよ!?」
アムリテの腕を掴むミレアを無視できるはずもない。
「えっと、運営としましては対処のしようがなく…」
「そんな無責任な!?」
「失礼しますね。ジャッジさん、中止ということはミレア選手もアムリテ選手も戦闘場を出ても良いと言う事ですよね?」
困惑するジャッジとアムリテの間にヒイロが割って入る。
「左様です。この次はオウジン選手の決闘を開始いたしますので、退出していただければ…」
「分かりました。なら、アムリテさん失礼しますね」
「え?ちょ────」
ジャッジの確認を取ったヒイロはアムリテとその腕に捕まるミレアを抱きかかえると、控室へと跳躍した。
「きゃああああ!?」