本選第二試合(アムリテ) 122
少し早い昼食が終わり、シャンシャンの入れるお茶で全員が一息ついたころに、本選の第一試合が全て終了した。
「さて、そろそろ行ってくるわ!」
アムリテはお茶を全て飲み干すと、勢いよくソファから起き上がった。
「なんだかすごいやる気だね!少し前とは別人みたい!」
「当り前よ!魔石があれば杖がなくても満足に戦えるからね!連続でランキングに載るような奴に当たらない限りは勝てるわよ!」
「良い意気込みだね。それくらいでなくちゃ、君に負けた僕が情けなくなるよ。これを」
ロミオは指先で一枚の硬貨を弾いて、アムリテへと渡した。
「何よこれ?」
「お守りみたいに思ってほしい。勝利を願ってるよ」
「アムリテ、頑張ってね!」
「頑張ってください!」
「頑張るアル!」
「ロミオに勝ったのだから、期待してるわ」
アムリテは硬貨を胸ポケットへとしまい、心強い声援を受けて控室から出て行った。
「とこで次のアムリテの相手って誰なの?」
「あ、えっと、チャギアンって人ですね。聞いたことのない名前なので、冒険者だと思います」
トーナメントに今まで出場している選手は、ノノのような例外を除いては決闘場の選手か冒険者がほとんどだった。
「なら、ひとまずは安心だね。アムリテ君の魔力も小さくはなっていたが、安定していた」
「ロミオさんって、魔力が見えるんですか?」
「視認はできないよ。ただ、何となくで感じられるだけさ」
そんな他愛のない話をしていると、戦闘場にジャッジが現れた。
「皆様、大変お待たせ致しました。これより、トーナメント本選の第二試合を開始いたします。予選を抜けた強豪の中でも更なる強さを持つ選手たちの決闘をお楽しみください」
ジャッジは仰々しく頭を下げると、戦闘場の通路へと腕を伸ばした。
「第二試合、始めの決闘は冒険者ながらも決闘場ランキング五位のロミオ選手を打ち破り、圧倒的なまでの魔法を行使したアムリテ選手!」
ジャッジの紹介と共に現れるアムリテに対し、集まった観客から大きな声援が送られる。
「彼女の決闘を見てファンになった方も少なくはないでしょう。オッズも決闘前とは比べ物にならないものとなっています!」
アムリテは送られる声援にぎこちない笑顔を浮かべ、手を振っている。その手には、鎌のような姿をしたそれよりも一回り小さい武器が握られていた。
「対するは自ら暗殺者を名乗る謎の人物。その中性的な外見からは男性か女性かもわからず、登録情報にも記載はしていない。しかし、強さだけは本物。くじで引いた武器を巧みに扱い、相手を圧倒する!チャギアン選手!」
アムリテと同様にチャギアンにも声援が送られるが、その声援はアムリテと比べれば少し寂しい物だ。しかし、チャギアンは愛想のよい笑みを浮かべ、慣れた様子で観客へ手を振っている。
「暗殺者のくせにこんなところに出ていいのかしら?顔バレするわよ?」
「問題ないさ。仕事になれば顔なんていくらでも変えられるし、そもそもターゲットは僕の顔を見ることがないからね」
チャギアンは人当たりの良い笑みを崩すことなく、その笑みをアムリテにも向ける。
チャギアンが手にしている武器リーナと同じ鎌であったが、その鎌はチャギアンの身長を超えるほど大きなものであった。
「武器には大きな差があるように見えますが、アムリテ選手は魔法の使い手。今回の決闘もおそらく見ごたえのあるものとなるでしょう。それでは始めてください!」
アムリテは鎌に付けられている魔石に魔力を流し込む。魔力を受けた魔石は水色の光を発した。
「見ごたえのない、一方的な展開にしてあげるわよ!」
アムリテが持つ鎌が水色の光を強く発すると、アムリテの背後に三本の矢と一つの水球が生み出された。
「あれ?ずいぶんと小さいね。一試合目みたいにその中に入らないの?」
アムリテの生み出した水球は一試合目の時と比べればとても小さく、人の頭ほどの大きさだった。
「はん!あんた程度ならこれで十分よ!」
「……僕を舐めてるんだね?ランキング五位に勝ったからって、調子に乗ってるね」
アムリテの言葉を聞いたチャギアンから笑みが消え、チャギアンの目は冷え切って行くのが目に見えた。チャギアンはアムリテを見据えると、大きな鎌を肩に担ぎ上げると、目を見張るほどの速さでアムリテへと向かった。
「はっや!?」
アムリテが衝撃を受けている間にもチャギアンはアムリテを射程に捉え、その鎌を振り降ろした。
アムリテは咄嗟に三本の矢を鎌の軌道上に配置し、横方向へと飛びのいた。
三本の矢はまるで紙のように切り裂かれ、チャギアンの鎌はアムリテが立っていた床を深く入り込んだ。
「っよ!」
チャギアンは鎌の持ち手部分に踵落としをすると、床に突き刺さっていた鎌はするりと床から離れ、宙を一回転してチャギアンの肩へと戻っていた。
「これで本気出してくれるかな?」
「……その程度なら問題ないわよ」
アムリテは背中に流れる冷や汗を感じられないように、無理矢理に笑顔を作り上げた。