ランキング二位の男 120
「それではレアル選手対クミネ選手の決闘を開始いたします!」
戦闘場では二名の選手が決闘を始めた。二名の選手は双方が冒険者との説明があったせいか、観客の盛り上がりにも欠けるものがった。
「私、ちょっと飲み物とお菓子でも買ってくるね。アムリテが気に入ってたフルーツのやつ」
「あ、私もお願いしていいですか?お金は私が出しますので」
ヒイロはポケットからお財布を取り出し、リーナへと代金を渡そうとする。
「いいよいいよ。ヒイロはアムリテのこと、見ててね?」
リーナはヒイロからの申し出を断り、ヒイロが何かを言う前にそそくさと部屋から退室した。
「気を使わせてしまったかな?」
リーナの退室した部屋でロミオは頬を軽く掻いた。
「リーナさんはそんな人じゃありませんよ。きっと、アムリテさんが勝ったことで緊張が解けて、外の空気を吸いたくなったんだと思います」
「ここは血の匂いがひどいからネ。殺しは禁止って言ってるのに、さっきから血が流れ放題アル」
ヒイロ達が会話しながら見ている決闘でも二名の選手は共に血を流し、焦点が定まっていない。
「アムリテ君もそうだが、リーナ君たちは今まで幸せな旅をしてきたんだろうね。そうでなければ、嫌でもこんな光景、慣れてしまうよ…」
ロミオは戦闘場を眺め、悲しげな表情を浮かべる。
「お前も普段から殺してばっかりアル。被害者ぶるのはやめるネ」
「あはは、それもそうだね。そんなことを言っていたら、今までの対戦相手に呪われそうだ」
「ロミオが呪われるなら、パリスが身代わりになるわ。ね、パリス?」
ロミオは自嘲するような笑みを浮かべ、シャンシャンはそれに舌をだして嫌悪した。
「リーナさんたちの旅は幸せだったと思いますが、決して楽な旅ではなかったですよ」
「…と言うと?」
ヒイロは視線を戦闘場の選手から離すことなく、ロミオへと声をかける。
「私も話を聞いていただけですが、リーナさんたちは何度も命の危険に晒されたり、二人の力だけで様々な場所に行ったと聞きました。それは、籠の中で踊っているだけの私達よりもすごいことだと思います」
ヒイロは少しだけロミオに視線を当てる。ヒイロの瞳に移ったロミオは短い息を吐く。
「籠の中で踊るは遺憾だけど、彼女たちを馬鹿にしているように聞こえたなら訂正しよう。すまなかったね」
「いえ、私も言葉を選ぶべきでした。それにロミオさんがアムリテさんに敬意を持っていたのは、決闘を見ていて分かりましたから。殺さないでくれてありがとうございます」
ヒイロはその言葉を発すると、すぐに戦闘場の方へと視線を戻した。
「そうアル!どうしてロミオはえっと、何たら何たらを使わなかったネ?」
「何たらって…。おそらくフォトンスフィアの事だろうけど、あれを使えば間違いなくアムリテ君に重傷を負わせてしまうからね。そもそも光輝剣すら使うつもりはなかったんだ」
「フォトンスフィア…。あの、高熱を持った光の球を作るやつですね。光輝剣はレイピアを光らせた方ですか?名前があるなんて知りませんでした」
シャンシャンとヒイロは大した興味もないのか、顔を見ることはない。
「名乗ることも少ないけどさ…。もう少し名乗った方がいいのかな?」
「私は良い名前だと思うけど、ロミオでなければ引いてしまうわね。パリスもそう思うって」
ジュリエットの言葉は要するに自分が恥ずかしいからやめろ、と言っているのだろロミオは理解して少し肩を落とした。
「ヒイロ、決闘の方はどうアル?どっちが勝つアル?」
「勝つのはレアル?って言う男の人ですね。クミネさんは明らかに短剣の使い方が分かっていません。おそらくは長剣や槍と言った長物が得意なのかと」
「まぁ、引き運はトーナメントにおいては重要だからね。そこで勝負が決まっても仕方はないさ」
ロミオは少しぬるくなったお湯に口をつけて、喉へと流し込む。
「あ、決まりましたね」
「勝者、レアル選手!」
決闘はクミネが膝をついたことで終わった。
「次は…、そうか彼もAグループだったんだね。これは僕が意地でも勝って止めるべきだったか…」
ロミオは何かを悔やむようにして下唇をかみしめる。
「あいつ、リーナとアムリテに何かするようなら殺してやるアル…」
「ロミオが望むなら、私とパリスも加勢するわよ?」
対戦表を確認した三人の間に不穏な空気が流れ始める。
「大丈夫ですよ。それをさせないために私をBグループにしてもらったので」
「…不正発覚アル」
ヒイロは戦闘場の通路を凝視し、奥から現れるであろう人物に殺気を放つ。
「続いてはオウジン選手対クロア選手です!オウジン選手は言わずと知れた決闘ランキング二位の選手!その圧倒的な強さを支持するファンは多く、決闘場ファンの間では王者派とオウジン派に分かれるほどであります!」
ジャッジの説明と共に通路の奥から人影がゆっくりと現れ、その姿に観客は悲鳴と歓声を上げた。
その姿は日に焼かれ、黒々とした筋肉がうねりを上げる上半身を惜しげもなく晒しており、その鋭い目つきは正面に立ったものの士気をそぎ落としてしまうだろう。
「オウジンさん…!」
ヒイロの殺気に気付いたオウジンはヒイロを視界にとらえると、眉をひそめて殺気を送り返した。
「ヒイロ、窓を開けておいてくれるかい?もしもの時は僕が…」
「いや、私が行くアル。負け犬は体力と魔力を回復してるネ」
シャンシャンは控室の窓を開けて、いつでも戦闘場に上がれるように準備を始めた。
「それでは決闘を開始してください!」
決闘の開始が告げられ、分銅鎖を持ったクロアはそれを振り回しながら。オウジンへと向かって走り出した。
「うわぁあああ!」
その声は震えており、クロアからは一切の覇気を感じられない。
「おいおい、初戦の相手がこんなんじゃ萎えちまうぜ」
オウジンは唸り声のように聞こえるほど低い声を出すと、オウジンは戦闘場の床を片足で強く踏みしめた。
すると、決闘場全体が揺れを振動させ、クロアは腰を抜かせてしりもちをついてしまった。
「あ、あ、ああぁ…」
クロアは完全に戦う力を失ったようで、体を小刻みに震わせている。
「はぁ…。そんな覚悟ならこの場所に立ってんじゃねぇよぉ!」
オウジンは腰を抜かしているクロアに大声を上げると、クロアの頭を掴み上げた。
クロアの足は地面から離れ、宙をブンブンとから回っている。
「シャンシャン、お願いします」
「了解アル」
ヒイロから命令を受けたシャンシャンは窓から飛び出して、戦闘場へと駆け出す。
「弱ぇ奴はさっさと消えろ!」
オウジンはクロアの頭部をもつ手に力を籠め、頭蓋骨ごと破壊しようとする。
シャンシャンはそれを止めるため、宙に浮かされているクロアの脚部へと音の衝撃を放った。シャンシャンの魔法にあてられたクロアの脚部はオウジンの顎に当たり、オウジンはクロアの頭部を持つ手を離した。
「さぁ、間に合うか?」
オウジンは重力に従って落下するクロアに向かって正拳突きを放つ動作をする。
「間に合わせるネ」
シャンシャンは自身の背中に音の衝撃を当て、速度をさらに加速させる。シャンシャンがクロアの体を確保したそのすぐ後にオウジンが正拳突きを放つと、その正面にあった戦闘場の壁が爆風を上げて大きな風穴を開けた。
「ジャッジ、この子は気絶してるアル。審判を」
「は、はい。勝者!オウジン選手!」