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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
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本選第一試合 アムリテ対ロミオ(決着) 119


 ロミオは黄色い輝きを纏うレイピアを振り回し、アムリテへと剣先を向ける。その際にレイピアが風邪を切り裂く音が聞こえてきた。


「いくよ」


 ロミオは独り言のように小さくそうつぶやくと、姿勢を低くしてアムリテへと走り出した。そのロミオに対し、アムリテは三本の水矢を撃ち放つ。


 水矢はロミオの正面と左右から襲い掛かる。ロミオは向かってくる水矢を薙ぎ払うように横一線を放った。


「……ミス?」


 その一線にアムリテは疑問を持った。なぜなら水矢はまだレイピアが届く範囲内に入っていなかったのだ。


 しかし、次の瞬間、水矢は蒸気を上げて消え去ってしまった。


「…なるほど。あんたも魔法が使えるのね。火の魔法かしら?」


 ロミオはアムリテの問いに答えることなく、アムリテが入っている水球の真下までたどり着いた。


 アムリテは即座にロミオから距離を取ろうと水球を動かすが、ロミオは水球が動き出すよりも早くに跳躍をした。


 その跳躍は目を見張るもので、遥か上空にいたアムリテへと急速に迫った。その手には水矢を蒸発させるほどの熱を帯びたレイピアが掲げられており、直撃を受ければ敗退どころの怪我では済まないだろう。


「どんだけ飛ぶのよ!?」


 アムリテはロミオの跳躍に驚きながらも、撃ち降ろすようにして三本の水矢を放つ。


 ロミオは真上から迫る水矢に動揺することなく、ただ水球の中にいるアムリテを見据えていた。


 跳躍するロミオのレイピアと撃ち降ろされた三本のアムリテの水矢。両者は上空で衝突した瞬間に決闘場を覆うほどの蒸気を発生させた。


 観戦席に座る観客たちは上記の中で何が起こっているのかと、ざわざわと同様を始めるが、戦闘場を見下ろす形で観戦していたリーナ達には蒸気の中から上方向に向かって漏れだす黄色い輝きが見えた。


「アムリテ!?」


 黄色い輝きはすぐに白い蒸気の中から飛び出し、ロミオと共にその姿を上空に晒した。


 そして、蒸気の中から出てきたのはもう一つあった。意識の有無も分からないまま墜落するアムリテだ。


 アムリテは戦闘場に背中を打ち付け、仰向けのまま起き上がる気配を見せない。


「………」


 上空から軽やかに着地したロミオはアムリテの姿を見ると、レイピアを鞘に納めるような手ぶりをした後にレイピアの輝きをおさめた。


「しょ、勝者!ロミ────」


 ジャッジが勝者の名を宣言しようと声を上げると同時に、ロミオの膝裏を二本の水出てきたハンマーが強打した。


 完全に不意を突かれたロミオはそのまま、地面に膝をついてしまった。


「……え?」


「…ふ、観客たちへの華はないが、美しくはあったね」


 ジャッジが困惑する中、ロミオは静かに目を瞑り、レイピアを戦闘場の床に置いた。


「…アムリテ選手の、攻撃でしょうか?しかし、アムリテ選手は…」


「ちょっと!あたしはここよ!」


 未だにジャッジが困惑していると、上空に漂う蒸気の中から片腕を水球に入れてゆっくりと下降するアムリテの姿があった。


「「え?え?えぇ!?」」


 ジャッジとリーナはその光景に驚きの声を上げる。戦闘場の床には仰向けで動かないアムリテの姿があるが、声を上げて魔法を操るアムリテは蒸気の中から現れた。それはまるで、アムリテが二人いるようだった。


「陽炎、蜃気楼のようなものだろう?」


「あら、分かったのね。いえ、分かってたのかしら?」


 アムリテはゆっくりと戦闘場の床に足を付けると、行使していた全ての魔法を解いた。すると、水球やハンマーと一緒に床に倒れているアムリテも消え去った。


「その話は後でもいいだろう。さ、君の勝利だ。歓声を受け取るんだ。ジャッジよ!」


 ロミオに呼ばれたジャッジは慌ててマイクを構え直し、高らかに宣言する。


「勝者!アムリテ選手!」


 ジャッジの宣言を耳にした観客は一斉に声を上げ、本来はロミオに向けられたであろう色鮮やかな花々が戦闘場の床を覆いつくした。




「おめでとうアムリテ!」


「おめでとうございます!」


 決闘が終わり、控室に戻ってきたアムリテにリーナとヒイロは抱きついた。


「ちょ、ちょ!ありがとう!だけど、あたしもう体力が!」


 二人に抱きつかれたアムリテは決闘後の体力でそれらを受けきることができず、後方に倒れこんでしまった。


「いろいろすごかったよ!水の量も動きも!それに最後の分身!」


「分かったから、ソファに寝かせて!」


「僕たちもお邪魔していいかい?無粋な様なら立ち去るけど…」


 アムリテと一緒に来ていたのか、ロミオとジュリエット、それにシャンシャンまでもが廊下の奥に立っていた。


「あ、どうぞ!っていいよね、ヒイロ?」


「あんたはさっさとどきなさい!」


息を荒くするリーナの頭を抑えつけ、アムリテは部屋にあるソファに倒れこんだ。


「ふふ、構いませんよ。ロミオさんもお疲れ様でした」


 ヒイロは三人でいる時よりも少し落ち着いた声音でロミオたちを迎え入れる。


「ヒイロ、二戦目までもうちょっと時間あるかしら?あたしもう、クタクタで…」


「二時間ほどならあると思いますよ。時間になったら起こしますので、眠っていてください」


 ヒイロがそう言うとアムリテは少しだけ手を上げたのちに、すぐに顔をソファに埋めて寝息を立て始めた。


「それにしても本当にすごかったねアムリテ。あんな分身なんて初めて見たよ」


 リーナは自分の上着を寝息を立てるアムリテに被せる。


「あれは分身というよりも幻覚と言った方が近いね」


「幻覚、ですか?」


「あぁ。僕のレイピアが生み出す熱と彼女の魔法によって生まれた水を利用した魔法だろう。君も知らないと言うのなら、咄嗟に成功させたのかな?すごい才能だ」


 直接戦ったためか、ロミオはアムリテの魔法をすでに理解しているようだった。


「ロミオも十分輝いてたわよ?私はそれだけで十分だわ」


「ありがとうジュリエット。君はいつだって優しいね」


「イチャイチャするのは外でするアル。爆発させるアル?」


「そうなればパリスが喜んで身代わりになるでしょう。ね、パリス?」


 ジュリエットは手にした人形の右腕を掴み、上下に動かした。


「あ、ロミオさん。気になってたんですけど、どうしてアムリテさんに魔石の事を教えたんですか?」


 ヒイロは決闘中に気になったことをロミオへと問いかけた。


「知らないまま戦っても華が無いからね。まぁ、それで負けて入れば華も世話もないね」


 ロミオは参ったと小さく息を吐き、ジュリエットと共に控室の奥にあるソファへと腰掛ける。それを気に、リーナとヒイロもソファに座り、シャンシャンは人数分のお茶を用意した。


「油断していたわけではない。が、どこかで侮っていたのかもね。そうでなければ、最後の攻撃にも対処できただろう」


「負け惜しみアル。敗者は黙ってこれでも飲んでるアル」


 シャンシャンは湯気が立つカップをロミオへと投げつけ、ロミオはごく当たり前かのようにカップを受け取ると、お茶を口にした。


「いい匂いだ。君もそう思うだろう?えっと────」


「あ、リーナです」


 リーナは飲んでいたカップを机に置き、ロミオに対して名前を名乗る。


「リーナ君か。よろしく。僕はロミオで、彼女はジュリエットだ」


「よろしくね」


 ロミオから紹介を受けたジュリエットは少しだけ頭を下げると、人当たりの良い笑みを浮かべた。


「こっちはパリス。私の、私達の奴隷なのよ?」


 ジュリエットは膝に乗せている人形の両腕を持ち、仰々しい礼をさせた。


「は、はぁ。あ、シャンシャンのお茶、とっても美味しいです!」


 リーナは人形の話を聞く気は起きず、急いで会話を戻す。


「ありがとうアル。ここでトーナメントを見せてもらうお礼アル」


「おや、なら僕たちは何かあった時の護衛ということで席代を払わせてもらうよ」


「私はロミオがいればどこでもいいけど、席代はパリスに払わせるわ」


 控室にいるランキング勢たちとリーナの会話がある程度進んだころ、次の決闘が行われるアナウンスが控室に聞こえてきた。



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