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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
116/293

トーナメント本選 116


 翌日、リーナとアムリテは朝の支度を終えて、宿から出される朝ごはんを食べ終わったころに、ヒイロが二人を出迎えに来た。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


「うん。私はぐっすり眠れたよ。右耳が聞こえにくいのにも慣れたし、痛みはなくなったよ」


 戦ううえで音というのは非常に重要な役割を果たす。だが、リーナは先日のシャンシャンとの戦いで右の耳を攻撃されてしまっていた。


「あたしの方も体の疲れは残ってないわね。魔力は七割って言ったところかしら」


 アムリテは手の平を握り締め、体の調子を確かめる。


「トーナメントは殺害こそ禁止になっていますが、選手も観客も興奮しているので危険を感じたらすぐに降参してくださいね」


 ヒイロはいつになく真剣な表情で二人に忠告をする。


 トーナメントの本選となれば、普段の決闘場で試合をしている選手たちも多く残っているだろう。その選手たちがシャンシャンほどの実力を持っていれば、その危険性は言うまでもなかった。


「最悪の場合は私が乱入しますが、それでも間に合わない場合があります。特にランキング上位の人たちには気を付けてください」


「ランキング上位の人たちって、シャンシャンもそうだけど、相当強いんだよね」


「強いのもそうですが、彼らは相手を殺すことを躊躇いません。特にランキング二位と当たった時は早い段階から降参しても良いと思っておいてください」


 ヒイロの表情は更に険しい物となっていく。


「彼は負けるくらいなら殺してしまえ、なんて考えです。現に、以前のトーナメントでは優勢に立った対戦相手を殺してしまいました。それも明確な殺意をもって…」


「なら、どうして今回も出場できるの?殺したなら衛兵に渡して犯罪者にすればいいじゃない」


 罪を犯せば犯罪者となり衛兵から追われる。それはリーナから窃盗を働いた男ですら、そうだった。ならば、人を殺すという大罪を犯したその者は衛兵に捕まらなければおかしい。


「…ここでの殺害は外で行われる行為ほど重い物ではありません。なぜなら、決闘はもちろん、トーナメントに出場した時点で絶命しても構わないと言う事になってますので」


 ヒイロは苦虫を噛み潰したかのような顔をした。


「……そっか。なら、仕方ないかな」


 リーナは少しだけ考えたのちに、軽い言葉を発した。


「仕方ないって…!それで死んじゃったら…!」


「死ぬ前に降参するわよ。リーナもあたしも死ぬほど優勝したいわけじゃないからね」


 アムリテは腕を頭の後ろに回して、リーナに続くようにした。


「降参しても殺されるかも知れませんよ…?」


「それがリーナならあたしが行くし、あたしならリーナが来てくれる。それにヒイロも来てくれるんでしょ?なら、そこまで心配しなくて良いわよ」


 たとえ、そのせいで失格になろうとも二人はお互いを助けるためならば、本当に駆け出すだろう。


「さ、ヒイロ!もうトーナメントが始まるんだよね!?案内してくれる?」


「……はい!二人は私が守りますので、思う存分戦ってください!」


 ヒイロの不安は二人によってかき消され、三人はその足で決闘場へと向かった。




 三人は昨日の待ち時間で利用していたヒイロの部屋で戦闘場を見下ろしていた。


「本日もお集まりいただき誠にありがとうございます!昨日に行われたトーナメント予選が終了いたしましたので、これより本選を開始いたします!」


 決闘場に集まった観客は昨日の比ではなく、戦闘場を見下ろす形で円状に設置された観客席は満席となっていた。


「細かい説明は昨日と同様になりますので、省略させていただきます。それでは、選手の準備が整うまでの間に惜しくも予選負けとなりました、ランキング四位のシャンシャン選手とランキング八位のジュリエット選手の試合をご覧ください!」


 ジャッジが戦闘場の中央から脇に逸れると、戦闘場の設置された二つの出入り口からシャンシャンとジュリエットが観客に手を振って登場した。


「ヒイロ、選手の準備って何かしないといけないの?」


「あ、トーナメント本選はAグループとBグループに分かれてるんです。これがトーナメント表ですよ」


 リーナとアムリテはヒイロから差し出された紙を見つめた。


「あ、私はBグループでアムリテはAグループだね」


「うまくいけば決勝で戦えるわね。でも、Aグループには王者って書かれた奴がいるから、難しいかもね…」


「で、でも!リーナさんと王者が戦うとしたら準決勝なので、それまでに落ちるかもですよ!あ、そんなことよりシャンシャンとジュリエットの戦いが始まりますよ!」


 ヒイロは慌てて紙を取り上げて、戦闘場へと二人の視線を促す。




「ジュリエットも予選落ちとは珍しいネ。お腹でも痛かったアル?」


「うふふ。予選の組み合わせでロミオと当たってしまいまして…。お互いが全力を出しても削れ合うだけなので、じゃんけんにしたのです」


 二人は友人のように笑顔を浮かべて堂々と話し合う。


「それではシャンシャン選手対ジュリエット選手!決闘始め!」


 ジャッジの男が開始を告げると同時に二人の表情から笑顔は消え、シャンシャンはリーナを危機に追いやった魔法を使い始めた。


「あぁ、ロミオ!私の雄姿を見て優勝してください」


 ジュリエットは手にした人形を前に突き出す。その人形はシャンシャンが放つ魔法によって、人形の頭部は爆散して中の綿が周囲に舞い散る。


「ジュリエットって人大丈夫なの?あのままじゃ…」


「大丈夫ですよ。ジュリエットもランキング上位の一人。簡単に負けるような人ではありません」


 リーナの心配とは裏腹にヒイロは口角を少しだけ上げて決闘を見つめる。


「さぁ、パリス。私とロミオのために咲きなさい!」


 ジュリエットは爆散した人形の下半身を握り締める。すると、周囲に舞う無数の綿は落下をやめてジュリエットの周りを舞い始めた。


「ダンスは結構。私の気を引きたければ、あの恋敵の血を持って来なさい」


 命令を受けた無数の綿は急速にシャンシャンの元へと向かう。


 向かってくる無数の綿に向かって魔法を放ち続ける。


 また一つ、また一つと綿は爆ぜて行くが、爆ぜるだけで地面に落ちる様子のない綿は次第にシャンシャンへと迫る。


「やっぱり相性が悪いネ。けど、そんなのは王者さんの前では言い訳って言われるアル」


 シャンシャンは手を叩くことをやめると、自身の腕に爪を立てて肌を引き裂いた。


 シャンシャンの腕から大量の血が流れる。


「ジュリエット、命令は細かく出すべきだと思うネ!」


 シャンシャンは血が流れる腕を綿の方へと振り上げると、無数の綿はシャンシャンの血に飛びつき、その身を赤くした綿たちはジュリエットの元へと帰って行く。


「パリス。だからあなたはダメなのよ」


 赤くなった無数の綿はジュリエットの持つ人形へと集まって行き、真っ赤な頭部が生まれる。


「パリス。あの恋敵の心臓を捧げなさい」


 再び命令を受けた人形はジュリエットの手から抜け出し、シャンシャンの方へと向かう。


 シャンシャンもその人形に迎え撃つようにして距離を縮める。


 二人の距離が十分に近づいたところで、人形はシャンシャンへと飛び掛かった。


 対するシャンシャンは人形を素早くかわすと、更に速度を上げてジュリエットに肉薄した。


「さ、降参するネ?」


 シャンシャンは血が付いている両手をジュリエットの前で止めた。それはいつでも魔法が放てるという意味だ。


「えぇ。あなたの血をもらえたのだから、ロミオも喜ぶと思うわ。降参よ」


「勝者はシャンシャン選手です!」


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