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ミキタビ始めました!  作者: feel
4章 決闘の街
113/293

三戦目(リーナ) 113


 決闘に勝ったアムリテが戦闘場から降りると、リーナが目を輝かせて待っていた。


「水の矢って防がれたらもう動かせなかったよね!?それに、相手の服に入った水まで操ってたし!いつから出来るようになってたの!?」


「あれはアナザーの件があってからね。正直、あそこでの戦いにあたしだけ付いていけてなかったから、必死に練習してたの。本当はリーナを倒すために使いたかったんだけど」


 アムリテがアナザーの時に撃破できたのはアイカが生み出した落ち葉人形だけだった。


 しかも、その落ち葉人形には一度負けており、勝てたのもリーナが落ち葉人形の魂を見つけ出したからだった。


「すごいよ!私も同じことされたら負けると思う!」


「ありがとね。だけど、まだ慣れてないせいか、あれを使うと魔力がすぐなくなるの。水球も一個無駄にしちゃったし、トーナメントは諦めね…」


 アムリテはトーナメントが始まる前に、杖がないと水矢を作り出すのは五本が限界だといっていた。だが、アムリテは一回戦と二回戦で水矢を三本、水球を三個作りだしていた。


 その状態で三戦目に挑めば、魔力切れになるのは目に見えている。


「あたしの事は気にしないで、リーナだけでも────」


「ダメだよ!携帯式ログハウス、欲しいんでしょ!?なら、倒れるくらい頑張らないと!」


 リーナはアムリテの手を握って、アムリテの目を見つめる。


「…そうね。魔力切れになったところで二、三日倒れるだけだものね!とことんやってやるわ!」


 アムリテは何かが吹っ切れたかのように、背筋を伸ばして拳を握り締めた。


「リーナ選手、決闘を始めますので戦闘場に上がってください」


 リーナの三戦目はアムリテが行っていた戦闘上で行われるようで、近くに行ったジャッジがリーナに声をかけた。


「あたしに倒れろって言ったんだから、絶対負けんじゃないわよ!」


「うん!先に本選に行って待ってるからね!」


 リーナはアムリテに手を振って戦闘場へと駆け上がる。それから少しして、対戦相手である金色の髪で、これから戦うとは思えない派手な服を着た少女が戦闘場に上がってきた。


「「「ウオォォォオ!頑張れ頑張れノノ!優勝目指して突き進め!」」」


 金髪の少女、ノノが戦闘場に上がると、その後方から同じ服を着た大勢の男が奇妙な踊りをしながら、彼女に応援を始めた。


「みんなありがとー!ノノの精一杯頑張るから、応援よろしくー!」


「「「ウオォォォオ!」」」


 ノノが後ろの男たちに手を振ると、男たちはさらに大きな声を上げた。


「では、くじを引いて下さい。リーナ選手は三戦目ですが、武器が使用不可能な状態になりましたので、もう一度お願いします」


「分かりました」


 リーナが二戦目で引いた武器は弓であり、出来ることならば使いたかったが、肝心の弓はシャンシャンの魔法によって粉々にされてしまった。


 リーナとノノがくじを引くためにジャッジの傍へと寄ると、ノノが周りに聞こえない小さな声でリーナに話しかけてきた。


「すみません。お願いなんですけど、勝ちは譲りますのでそれなりにいい勝負風にしてくれませんか?」


「え?」


 あまりの唐突な発言にリーナの口から声が漏れる。


「私、実は戦ったことなんてないんです。だけど、ファンの人たちにトーナメントに出たら有名になれるって言われて…」


 ノノを見つめる背後の男たちはノノに熱烈な視線を送っている。


「でも、出た手前に簡単に負けたらファンの人たちにも申し訳ないかなって。だから、ある程度盛り上がったら降参しますので、お願いできませんか?」


「…それはいいですけど、いい勝負風って?」


 ジャッジは聞こえているはずの二人の会話を止める気がないのか、ただじっとくじが引かれるのを待っている。


「私が最初に数発パンチしますので、ひざをつかないように倒れて下さい。その後にあなたが起き上がって私に襲い掛かります」


 ノノは人差し指を立てて説明を始める。


「それを私は避けてから裏拳?って言うのをします。そうしたら、あなたは数歩後ろに下がって息を切らしてください。そこからはパンチのしあいで、数分したら私が膝をつきますね」


「わ、分かりました。できるだけうまくやりますね…」


「話は終わりましたか?なら、くじを引いてください」


 ジャッジはくじをグイっと突き出して無言の圧をかける。


「お待たせしてすみません!ノノから引かせてもらいますね!」


「「「ウオォォォオ!」」」


 ノノは一つ一つの動作を大きく振る舞ってくじから一枚の紙取り出す。その後、リーナもくじを引いて紙を広げた。そこには盾の文字があった。


「これって、武器なの…」


 これが今まで通りの決闘ならばリーナの攻撃手段はなく、負けが濃厚になっていただろう。リーナは心のどこかで少しだけホッとした。


 リーナは戦闘場の端に用意されている盾を右腕に装着すると、戦闘上へ速やかに戻った。


 一方のノノが手にした武器はハンマーだったようだが、アムリテの一戦目の対戦相手のように扱うことはできないのか、早々に床に置いていた。


「それではただいまより、リーナ選手対ノノ選手の試合を始めます。なお、リーナ選手はこの試合に勝利すると、本選への出場が決定いたします。それでは始め」


 決闘の開始が告げられると、打ち合わせ通りにノノが拳を振り上げてリーナへと向かう。


「りゃあああ!」


「………」


 リーナはその光景に言葉を失った。その理由はノノにあった。走る速度も遅ければ、そんな遠くから拳を振り上げる意味もない。ノノが戦闘をしたことがないと言うのは本当の様だった。


「これじゃ、合わせる方が大変だなぁ。私から向かってやられよ」


 リーナはノノが来るまで待つことよりも、自身から向かうことで早々にノノの優勢を作ろうと動き出した。


「っわわ!?」


 リーナが突然向かってきたことにノノは驚き声を上げた。振り降ろしていた手は後ろへと倒れていき、重心が定まらなくなったノノは後方に尻もちをついた。


「ノノ選手、原点となります。次で敗北となりますので、ご注意を」


「ちょ、ちょっと!話が違うじゃないですか!私が負けるのはもうちょっと負けてからですよ!」


 ノノは小声ながらもリーナに抗議する。


「いや、今のは早く倒されよう叶って…」


「もう!今度はちゃんと倒されて下さいね!」


 何はともあれ、リーナとノノの距離は近づいた。そこからノノは再び拳を振り上げて、リーナへと振り降ろす。


 その拳はあまりも遅かったため、リーナは思考した。これは盾を使って激しい攻防を演じろと言うことではないかと。


 そう思ったリーナは素早く腰をかがめると、右腕に装着した盾を構えた。


「痛ったあああ!」


 ノノは拳をゆっくりと振り降ろすと、その拳をリーナの装着している盾にぶつけた。


「なんで守るんですか!?殴られてくださいよ!」


「今のはてっきり盾で防御しろってことかなって…。すごく遅かったから…」


「遅くてすみません!?もう殴り合って早く終わらせましょう!痛いのは嫌です!」


 ノノは演出を大幅に飛ばして殴り合いを始める事を提案した。リーナはそれに従ってノノの顔面を横切るようにして拳を放った。


「っひ!?」


 ノノは小さな悲鳴を上げるが、リーナは拳を繰り出し続ける。そうしなければ、周りに不自然だと思われてしまうためだ。


「ちょ、もう、ちょっと…!」


 ノノは襲い掛かる拳に涙目になりながら、体を震わせる。


「おい、ノノちゃん…。あそこまでやられながら、まだ降参しようとしてないぞ…」


「あぁ。俺、、てっきりすぐに降参するとばかり…」


「ノノたそは戦う前に精一杯頑張ると言っていた。それを実現してるんだな!」


 ノノを応援する男たちの目に涙が溜まって行く。


「「「ウオォォォオ!ノノちゃん頑張れ!」


 男たちの声を背中で受けたノノは体の震えを止めて、立ち止まった。


「ノノさん…?」


「……リーナさん、でしたっけ?私、少しだけ頑張りますね!」


 ノノは目にためた涙を飛ばすと、リーナをしっかりと見つめて拳を繰り出す。その攻撃は先ほどまでの物と比べると格段に早くなっていた。


 リーナはその攻撃を腹部で受け止め、ノノの腹部に優しく拳を入れた。


「痛いんですね…。人を殴るのって…」


 ノノは汗を流しながらも必死にリーナへと拳を繰り出し、リーナも拳を打ち出しては外す。ゆっくり打ち出しては当てるを繰り返した。


 その本気と偽物の攻防が数分続いた時に、ノノは息を切らしながら笑った。


「リーナさん、ありがとうございました!私、満足です!」


「ノノさん、輝いてましたよ!」


 リーナは繰り出された拳を掴み取ると、自身の方に引き寄せる。それだけでノノは前に倒れそうになる。


 リーナはその体をもう片方の腕で支えると、ゆっくりとノノの膝を床に下した。


「勝者、リーナ選手!よって、リーナ選手の本選出場が決定しました!」




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