3人目
少しグロいかもしれないです。たぶん。
週末はあっという間に過ぎ去り、平日が始まった。
真は相変わらず眠そうに目をこすりながら朝食を食べ、学校へ向かった。
真がついこの前負った傷は、少し痕は分かるがほとんど治っていた。傷の治りが早いのも能力に関係しているらしい。
何事もなく授業も終わり、真は早めに部活に向かった。最近は本気で刀を振る機会があるからだろうか、竹刀を振る力加減が難しい。
(とりあえず木刀振ってみるか…)
そう思い、真は木刀を振る。
この前の公園での戦いを思い出す。
(刀でもあの早さで刃こぼれする…しかもまだ8体いる…。之は自分の戦うスタイルを持ってたな。俺の戦うスタイルはやっぱり近距離で斬りつけることかな…? んー、刀を切り替えるタイミング、戦い方、いろいろ考えてみないと…これほんとに死ぬかも…。)
気付くと木刀の持ち手が砕け、刀身部分が転がっていた。つい力が入ってしまったようだ。ヤバい、部長に殺される…。
散らばった欠片を集め、捨てに行く。
(早めに、部活来ててよかった…。)
ゴミ置き場で欠片の処理をしていると、誰かに話しかけられた。部長だ。
「あれ、真何してんの?」
「あ、いや、べつに…」
「なんも用ないのに来ないだろ…。てか、腕どうした…?」
「ああ、えっと、ころんで」
「ころんでもそこまでならんだろ笑。まあ、いいわ。今日部活は?」
「もちろん行きますよ。」
「今日はやめとけって。そんな傷じゃパフォーマンスも落ちる。ちゃんと治してからでいい。焦っても仕方ないだろ。」
(え、部長こんなに優しいんだ…笑)
「あ、はい、じゃあそうします。ありがとうございます。」
「いいよ。俺も昔怪我したけど、そのまま意地でも部活行ってたんだ。そのせいで怪我の治りが遅くなったし、とくに練習で剣道が上達したわけでもなかった。ま、無理してもなんもいいことないよ。」
「そんな過去が…。ご心配ありがとうございます。」
真は大人しく帰ることにした。
途中で進とばったり会い、今日は先に帰ることを伝えた。
「だいぶ治ってると思うんだけどな…。なんか時間できたな…。」
ふと、之に制服を買う約束をしていたことを思い出した。忘れても悪いし、先に買っとくか。そう思い、真は商店街へ向かった。
まだ明るい商店街。ついこの前も行った制服屋さんに入る。之と出会った場所へ向かうと、見覚えのある制服があのときと変わらず並べられていた。
(たしか4つとか言っちゃったな…笑)
手を伸ばし、制服を4つ手に取ると会計を済ませた。女性物で店員に少し変な目で見られたが、真は耐え抜いた。
(あー、キツかった…まあこれでもう大丈夫。)
この時間は学校帰りの学生も多くいる。そこら辺の店で飲み物を買ったり、ショッピングを楽しんでいる。
(ちょっと暇だし、散歩してみるか。)
真はせっかく商店街まで来たついでに、普段はあまり行かない商店街の奥の方まで行ってみることにした。
この町の商店街はよくあるアーケードで、そこを抜けるとちょっとした広場がある。休日の午後はよく人が座って休んでいるが、平日のこの日は人影がなかった。
(ちっちゃい頃遊んでたっけ…)
久しぶりに訪れたこともあり、真はぽつんと広場に座り、ぼーっと景色を眺める。
ここ最近、いろいろあってばたばたしていた。こういう時間も必要だったのだろう。
人の気配を感じ、ふと前を見ると女子高生が1人いた。
(1人か、珍しいな。)
女子高生は小学生の男の子に話しかけられている。弟なのだろうか、何かを話しているようだ。
(そういや進ともよく2人で遊んでたなあ…)
そんなことを思いながら2人の姿を見ていると、男の子の手に何かが見えた。爪だ。真はもう2度も妖と戦っている。その男の子は妖だとすぐに分かった。
(まじか、あの男の子、妖…!? 女の子が危ない…!)
真は荷物をその場に置き走り出そうとした、その時だった。
妖は一瞬で女の子を斬りつけた。彼女もとっさに回避したのだろう、真っ二つという最悪の状況は逃れたようだ。
「おい!大丈夫か…!!」
真はそう叫びながら、女の子を抱えて後ろに跳ぶ。幸い今、この辺りに人は見当たらない。
十分な距離をとると、彼女に話しかけた。
「君、大丈夫か!?」
「うん、大丈夫、かすっただけ。」
「よかった。じゃあとりあえずここで安静に…」
言葉を続けた瞬間、彼女はその場に倒れた。
「おい! しっかりしろ!」
顔を見てみると、なにか様子が変だ。とっさに息を確認すると、止まっている。脈を確認してみる。
(え…? 死んでる…?)
彼女の傷は左腕にかすり傷があるだけだ。制服もとくにどこか破れているわけではないらしい。
(なんだ、なんでだ…? もしかして、かすっただけでも死ぬ…??)
これは接近戦をする真にとってはあまりにも厳しい。原因が分からないままではむやみに接近もしにくい。真はスマホを取り出し、之に電話する。
だが、之は出ない。真はとりあえずメッセージを残し、男の子の居場所を確認する。
男の子はゆっくりとこちらに向かってきていた。この女の子は死んでいる…だが、傷つけさせるわけにはいかない。
真は男の子を誘導するように、物陰から勢いよく飛び出し、刀を手に取る。
手の汗を感じる。こいつ、怖い…。だが行くしかない。
真は決心し、男の子のもとへ駆け出した。
だが、いきなり接近するのは危険だと判断し、駆け出した勢いのまま刀を投げつける。
男の子は飛んできた刀を掴み、投げ捨てる。
(やっぱ飛び道具にはならないか…くそ…)
いつもがむしゃらに戦う真にとって、一度も傷を負うことなく戦うのは至難の業だ。
だが、やるしかない。すると男の子が真に話しかけてきた。
「お兄ちゃん、刀使うんだね。もしかして僕の仲間倒したのお兄ちゃん?」
驚き、真は一瞬止まる。その問いに強気で答える。
「ああ、俺だよ。俺の方が強かったんだよ。」
「そっか。今日死んでもらうから。でもお兄ちゃん勘が鋭いのかな、近付こうとしないね。その刀だと近付かないと。」
「お前、何か小細工してるだろ。あの女の子になにしたんだ。」
「僕の爪、毒があるんだよ。少しでもかすったら終わり。でもお兄ちゃんは近付かないと戦えないでしょ? ほら、早く来なよ。ま、今日は能力者を1人倒したから機嫌がいいんだ。だからお兄ちゃんにお願いしてあげてる。」
「そういうことか…。ん…? 能力者を1人倒した…? 誰だよ、その能力者って…」
真の脳裏に之の顔が浮かぶ。まだ之しか認知できていないが、誰であれ1人仲間を失うのは心が痛む…。男の子は口を開いた。
「さっきの女の子。」
「え…?あの子…能力者なのか…?」
「へえ、気付いてなかったんだ。ま、残念だったね。話はここまで。さ、戦おうよお兄ちゃん。」
(やばい…。なぜ気づかなかったんだ…。協力してたら勝てたかもしれないのに…)
「お兄ちゃん、早くー! 来ないならこっちから行くよ??」
そう言うと男の子が一瞬で目の前に来る。
(やっば…!!)
真は、妖が振りかざした斬撃をぎりぎりで受ける。
「おー! やるね! ちょっと楽しめるかも」
「楽しませねえよ…!!」
すでに2回妖と遭遇しているからだろうか、体が少しスピードについていけるようになっていた。だが、それでもぎりぎりだった。
「じゃあスピード上げるね? 頑張ってよ??」
妖はそう言うと、片手に発現している爪を両腕に発現させた。その大きさは今までの妖と比べ、半分ほどの大きさだ。
サイズが小さい分、すばしっこく、爪を刀で防ぐのに苦労する。
(っぶねえ…。これ、斬られてても不思議じゃないくらい早い…、防ぐので精一杯だ…)
かすり傷も許されない接近戦に、真は決定打を出せず、防御に徹していた。
一旦その場から後ろに跳び、距離をとると刀を確認する。前の戦いよりも刃こぼれはしていない。やはり破壊力はないらしい。
(ならこっちの破壊力で勝てるか…? どうするべきだ…?)
「何か考え込んでるの?」
妖が再び目の前に来ていた。真は思いっ切り斬りつける。妖は弾かれ、少し飛ばされた。
着地すると、妖の目が怒りに満ちていた。
「お前、こっちが優しく接してやってるのに…。こんな思いっ切りやって飛ばされたら楽しめないだろ? もっと早く、絶え間なく、斬りつけるのが楽しいだろ? なあ! そういう萎えること、すんなよ!!」
妖は明らかに怒っている。
(優しく? これ以上早くなったら…勝てるか分からない…。毒…、ふざけるな…)
そのときだった。妖の周りに光が見えた。
(…! 之か…!?)
だが、その光の中から発現したのは真が知っているくないではなかった。丸くて大きな何かがいくつも現れた。
「お前…! 何して…」
妖がそう言ったのと同時に、その丸い何かが爆発した。真は慌てて距離をとる。
(爆発した…? なんだ今の…。いや、てことは近くに能力者が)
周りを見ると、死んだはずの女子高生が立っていた。
妖は少しダメージを受けたようで、ふらついている。
「お前…何しやがった!!!」
妖は彼女に気づいていない。妖が真の方へ走り出した瞬間、その直線上に彼女が飛び入り、手を出す。先ほどと同じ光を右手にまとうと、さっきの丸い何かを右手に握りしめ、妖の胸元に押し付ける。
「えっ…!? お前さっき…」
「さよなら、妖くん。」
そう言うと手の中の丸いものを爆発させた。先ほどよりもその爆発は凄まじく、妖は粉々に吹き飛ばされた。
(やばい…なんだこの子…)
ふと彼女を見ると、右手どころか右半身が吹き飛んでいた。辺りには肉片が散らばり、断面からは血がとてつもなく吹き出している。彼女はその場に座り込む。
「おい…! 大丈夫か…!?」
「あなた…能力者、だったんだね…。大丈夫だよ…。」
そう言うと、血が吹き出す傷口がみるみる塞がり、失ったはずの右半身が元に戻っていく。
右半身が元に戻ると、彼女は何事もなかったように真の方を見る。真は口を開いた。
「君の能力って…」
「うん、私不死身なんだ。不老不死ではないよ?歳はとるよ。ただ、不死身。あと、爆弾使います…。」
「やっぱりあれは爆弾だったのか…! 素手で使えるのは君しかいないだろうね…笑。君にぴったりの武器笑」
「かもね笑。君は刀?」
「そう、俺は刀。だから戦うときは近付かないといけないんだ。」
「今回は不利だったね…。助けられてよかった。私、洋野かよって言います。今後はきっと協力していかないとだめだよね…。よろしくね。」
「ほんとにありがとう…。俺は御堂真って言います。こちらこそよろしく。」
こうして、真は新たに能力者と出会った。お互いを名前で呼び合うことにした。
かよというその女の子は、夜の商店街に1人で来るぐらい群れるのが好きではないらしいが、これは仕方ないと割り切っているようだ。
そこへ遅れて之がやって来た。3人で情報を共有する。真は之へ新しく買った制服を渡す。真の制服は、珍しく破れていない。3人は揃ってその場を後にした。
前話の女子高生はこの子だったんですね。
あのときの男達はとても恐ろしい存在に見えたんでしょうね。あいつ、不死身なの…!?みたいな感じですかね。