渡された運命
ジリリリリリリリリリリ…
目覚まし時計が鳴り響く。
真はなんとか布団から抜け出し、身支度をする。
「ねっむ…」
リビングに向かうと、父親と弟が朝食を食べている。母親はキッチン越しに真の姿を見ると朝食を準備し始めた。
いつも通りの朝だ。
昨日、命がけで戦ったとは思えないほどいつも通りだ。現実だったのか疑わしいほど。
「「行ってきまーす。」」
いつも通り2人で家を後にする。
学校へ向かう途中、あの現場へ差し掛かった。そこには近隣住民から通報を受けたのだろうか、警察が集まっており、家々の塀に残された斬撃の痕跡、道路に残された3本の溝を調べている。警察は皆、不思議そうにそれらを見ている。
近隣住民が現場を覗きに来ている。ここらは閑静な場所で、こういった警察沙汰が珍しいからだろう。
その人達の中に、1人の少女が紛れていた。少女はその現場を見ると1つため息をつき、その場を後にした…。
真と進は、今日も変わらずに授業を受けていた。真はもちろん授業の話など聞いてない。昨日を思い出していた。
妖と思われた男を倒した後、真は進とともに帰宅した。制服は所々破けていた。それを見て
「真…もしかして、来たの…?」
と母親が少し怯えながら聞いた。
「…だと思う」
「そうかい…とりあえず、2人とも無事でよかった。真、進、お父さん帰ってくる前に2人とも風呂入っちゃいなさい。」
「わかった、そうする。」
真は人生で初めてここまでの怪我を負わされた。風呂に入ると痛みとともにその傷の多さに気がついた。
「いった!!くっそ、あいつマジか!」
少しキレ気味に風呂に入った。
そうこうしていると、父親が仕事から帰宅した。
母親はすぐに父親に事情を話した。父親の顔が少しこわばり、そして真と進を呼んだ。
「前にも聞かせた話だが、まさかこの世代でな…。だが仕方ない、もう一度妖について話しておく。もうお前たちは本物を見たからわかると思うが、ただのおとぎ話なんかじゃない、本当の話だ。きっと前より真剣に聞いてくれるだろう。」
そう前置きをすると、父親は部屋から古い巻物を持ってきた。
巻物を広げる。そこには文字とともに少し絵が描かれている。
「妖が発生したのは江戸時代だ。この巻物も我々の先祖が当時書き、伝えてきたものだ。自分たちの血筋を護りたいということだろう。当時20体以上の妖が確認された。その妖は人間を殺していたそうだ。その理由については書かれていない。その妖から人間を護るために、当時の人間が研究を重ね生み出された人間がいた。その人の名は、神童一という。意味合いも含め、その人を神童としてこの町で崇めていたそうだ。我々はその神童の子孫だ。」
真と進は真剣に話を聞いている。
「神童は本当に強かったらしい。妖も全く歯が立たないほどに強化され、不思議な力を使って人間を救っていたそうだ。半数以上の妖はそのときに殺されたらしい。神童に勝ち目を感じなかった妖は、残った者たちで身を隠した。それから今の今まで姿を表していなかったが、ついに動き始めたということだ。」
父親は話を続ける。
「当時の記録から、残存する妖は10体とされている。たぶんこれは間違いないと思う。妖への警戒心は強く、残り何体か正確に把握していたそうだ。そして真は一体倒したんだな? ということは残り9体のはず。」
「あと9体もいるのか…結構大変そうだな…。」
「大変とかいうレベルじゃないぞ。昨日お前が1人で倒せたのは、正直運がよかったのもあるだろう。妖にも強弱がある。久々の戦い、様子見をするなら…?」
「昨日のは一番弱いやつだったってこと?」
「だと思うぞ。昨日の妖は残存するものの中で最弱レベルだと考えていい。その妖相手にこれほど怪我を負ってる。そこまで深刻ではないが、これからもっと厳しくなる。命がいつなくなってもおかしくない。そこは、神童の末裔として覚悟するしかない。」
そして最後に父親は言った。
「申し訳ない。我々の祖先から渡されてきた爆弾をお前たちの手の内で爆発させてしまったようだ。本当に、すまない。」
真は笑みを浮かべ、こう言った。
「大丈夫、父さんのせいじゃない。俺がなんとかするよ。祖先からの使命を果たしてみせるよ。」
父親は涙ぐんだ。進も真とともに戦える力が自分にもあればと悔やんでいる。
「神童の末裔は何人もいる。そして真が持つ能力以外にも5つ、全てで6つの能力が神童から分け与えられる形で存在している。つまり、真は1人じゃないんだ。昨日の事件、きっとその人たちは勘づいてる。目的は同じだ。きっと次からは助け合って戦うだろう。いや、助け合わないと勝てない。そこだけは頼む。お前たちには生きていて欲しいから。」
「大丈夫。じゃあ、皆であと9体倒せばいいんだな。任せろよ…父さん…」
真はそう言って気を失った。体が限界だったようだ。
気づくとそこはベッドの上で、いつもの目覚まし時計に起こされた。
こうして真は、自分の目的を理解し、戦いへの決意を新たにしたのだった。