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ワケアリのお客様の幸せの食卓

 捕らえられたエアハルトとカルヴィーン卿には、ほどなく極刑が言い渡された。

 しかし二人は、刑が執行される直前に、厳重な監視をものともせずに侵入した何者かによって殺害された。

 手を下した暗殺者の手がかりは何一つ見つからず、今後、捕らえられることも決してないだろう。


 二人の共犯者や協力者も次々に捕らえられ、フレデリクの指示で冷酷な処分が下された。

 しかし、大逆者二名を出したランゲンバッハ公爵家は、今回の件でのゲラルトの貢献が考慮され、また今後も彼を皇帝の側近として残すために、爵位は剥奪されなかった。

 ただし、領地の大部分は没収され、家督を継いだ長男は、わずかに残された辺鄙な領地から出ることを禁じられた。


 ブラウヒューゲル皇国皇帝、フリードリヒの在位十年を祝う式典は、摂政と皇国軍大隊長、そしてその周辺が大量に失脚したことを理由に、規模を縮小して執り行われた。

 舞踏会のような浮ついた行事も中止となった。


 式典当日、初めて国民の前に姿を見せた若き皇帝は、これからの新しい時代を自らの手で切り開いていくことを高らかに宣言した。





 カラン、カラン……。

 店の玄関の鐘が軽やかに鳴る。


「いらっしゃいませ」


 工房に続く扉から出て来たのは、この店の制服である茶色のドレスと、クリーム色のエプロンを身につけた、金色のくせ毛の娘。

 この店に住み込みで働く彼女は、店主であるエルナの友人であり、凄腕の護衛でもある。


「なんだ。また、あんたか」


 営業用のぎこちない笑顔を浮かべていた彼女は、客の顔を一目見ると、とたんにうんざりした顔になった。

 彼女がぞんざいに扱うその客は、数日に一度やってくる常連だ。

 ダークブロンドの髪と涼やかなエメラルドグリーンの瞳の彼は、庶民風の質素な装いをしているが、高貴な雰囲気は全く消せていなかった。


 彼の素性はこの町の人々にもよく知られていたが、誰も騒ぎ立てたりはしなかった。

 多忙な合間を縫って、足繁く愛しい女性に会いに来る彼を、誰もが温かく見守っていた。


「エルナは奥かい?」

「あぁ」


 青年は、勝手知ったる様子で店舗の奥に向かった。

 焼き上がったばかりのパンがずらりと並んだ天板を、窯から取り出していたエルナは、扉が開く物音に視線を向けた。

 そこに最愛の人の姿を見つけ笑顔を浮かべる。


「フリッツ! ちょうど良かった。林檎のパンが焼けたところよ」

「うん。一緒に食べよう」


 彼は満面の笑みを浮かべ、彼の指定席となった質素な椅子に座る。

 エルナは彼の前に、二種類の林檎のパンが並んだ皿と、林檎の皮で香りづけをしたハーブティのカップを置いた。


 林檎のパンから香ばしい香りの湯気が上がっている。

 表面がひび割れる微かな音を立てているのは灰色がかった楕円形のパンで、表面に角切りの林檎が散りばめられている。

 もう一方のふんわり膨らんだ白いパンは丸く、皮がついたままの林檎の薄切りが丁寧に並べられていた。


「おいしそうだね。いつもだけど」

「でしょ?」


 香ばしく甘いパンの香りを楽しむ彼に、エルナは「はい」とフォークを手渡すと、自分も向かいの席に座った。




本編はこれで完結となります。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。


この後、1話だけ番外編を公開いたしますので、よろしければ。

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