四十九回分の約束(1)
見上げると、ふわふわした白い雲が浮かぶ鮮やかな空があった。
太陽はほぼ真上。
心地良い乾いた風が頬を撫で、金色の髪を遊ばせる。
「ここは……どこだろう」
ふう……と、青年は軽い溜め息をついた。
今いる場所は、どうやら小さな商店街の中らしい。
お昼休みをゆっくり取る習慣のある国だから、大抵のお店の扉には『休憩中』の札が掲げられ、街の中は閑散としている。
ぐるりとあたりを見回してみると、新緑が眩しい丘の上に建つ城の影が、遠くに見えた。
「城の東側か。そう、遠くはないな。……ったく、フォルカーの奴。そこかしこに、勝手に放置しないでほしいよ」
そうぼやきながら、ひりひり痛む左肘を見ると、白いシルクのシャツがほころび、血がにじんでいた。
それ以外は、黒いズボンに砂埃がついている程度で、特に不都合はなさそうだ。
しいていえば、非常に腹が減っていることが問題だった。
「どれくらい、時間がたっているのだろう」
弟のハルトと夕食を共にしたことは覚えているが、それが昨晩だとは限らない。
その後にも、食事をしたかもしれないし、していないかもしれない。
少なくとも今日はまだ、何も口にしていないようだ。
「まいったな……」
強い空腹を訴える腹を押さえ、考え込みながら歩いていると、ふわりと甘い匂いが鼻をくすぐった。
足を止め顔を上げると、『パン屋』の小さな看板を上げた建物があった。
左右を大きな店に挟まれて建つその店は玄関扉と小さな窓しかなく、見落としてしまいそうなほどこじんまりしている。
しかし、建物全体を包み込んでいるかのような甘い果物の香りが、その存在を主張していた。
「パン屋……だよね? ケーキ屋じゃなくて?」
興味が引かれた青年は、『休憩中』の札がかかる扉を開けて、中に入っていった。