第4話『FPSを作ろう』
ファーストパーソン・シューティングゲーム。
主人公の視点を画面に、アクションを用いて戦闘する。
直接ゲームの世界にフルダイブするVRゲームにおいて、最も基本的といっていいジャンルである。
前回の集まりから数日後、ネガティブ・パーソンズ達にエンドからゲームが送られてきた。
ジャンルはシューティング、ウォーゲーム。
主人公は軍人として戦争に駆り出され、様々な銃器を用いて敵兵を倒していく、このジャンルではオーソドックスなタイプのゲームだった。
ゲーム開始前の説明では全部で六ステージ。ステージクリア制で、市街地・森林地帯・廃墟・砂漠・戦場・敵基地があり、各ステージのそれぞれクリア時間は十分ほどが目安だと表示されていた。
さっそくネガティブ・パーソンズ1はアグリゲーションを用いて、そのVRゲームにダイブした。
「おおっ! すげぇ、もう現実に数歩手前な映像だわ、これ!」
腕を振り回し、屈伸し、ジャンプする。
周りの味方の軍人を見ると、瞬きや細かな口の動き、小さな動作がまるで生きている人間のように思わせた。
「ここまでリアリティある体感映像出せるゲーム、見た事ねえわ。このジャンルだけなら世界一のゲームと言っても過言じゃないな!」
パーソンズ1が感心しながら、他の味方ノンプレイヤー・キャラクター達と共に行動を開始した。
次の日、また短い時間ながらも、ネガティブ・パーソンズ達が、エンドが作ったフロアに集まる暇が出来た。
集合すると同時に、パーソンズ1が口を開き叫ぶ。
「難しすぎるわぁあああ!!?」
試しに数歩進めば、マシンガンで全身を撃ち抜かれて即死。
しゃがんで歩いたら、手榴弾が飛んでくる。
銃器の使い方をきちんと知らないと、そもそも撃てない。
敵兵は十字砲火は当たり前、一対一で戦う場面など一切無い。
敵兵のいる場所は、ゲームスタートするたびにランダム配置。
地雷は衝撃で起爆するタイプの他、音感知や熱感知などもあり、これもランダム配置。
銃を拾ったり、扉を開けたり、何かを動かすと爆弾が起動する。これもランダム配置。
敵に戦車や戦闘ヘリが出て、狙われるとほぼ負けが確定する。これもランダム配置。
少しでもひらけた場所に行けば、数キロ先からライフルで撃ち抜かれる。
しかも味方に裏切者がいるらしく、隙を見せれば撃たれる。これもゲームスタートの度に、裏切者が誰かが変わる。
フレンドリーファイヤーをすると、逆襲されて撃ち殺されるため、先手を撃って全員殺す事は不可能。
裏切者でなくても、うっかり射線上に入れば撃ち殺される。
命令された場所より、離れすぎると上官に敵前逃亡と言われて撃ち殺される。
死んだふりしている相手もいるため、死体は念入りに一発は撃っておかないといけない。
腕を撃たれると腕が使えなくなる。足を撃たれるとひきずり歩きになる。頭か胴を一発撃たれると即死。回復行動や回復アイテムや途中セーブなんてものはない。
「まさか……この僕が……1ステージもクリアできないなんて……」
パーソンズ6がショックでうめく。
「しかも、血の流れとか凄くリアルで、死体とか気持ち悪かった」
ゲームプレイ中に、何故か涙が止まらなくなり、パーソンズ3は二回しかプレイできなかった。
「個人的には死体のパターンが豊富だったのは面白かった。戦争なんてゲームだけでやればいいと俺は思っているから、この画面のリアリティは素晴らしいと思っている。しかしこのゲームは殺意が高すぎて、ゲームができない」
パーソンズ2はゲームの方向性とリアルさはかなりお気に召していたが、さすがに死にゲー過ぎて二十回ほどプレイして投げた。
「私はFPSとか好きなんだけど、さすがにこれは無い。何度もプレイし直して、途中でイライラしてきた。人にテストプレイさせる前に、あなたがテストプレイするべきでは?」
パーソンズ2と同じく、パーソンズ4もまたこのゲームを始めた時、感動すら覚えていた。だが十回ほど再プレイして苛立ち、百回ほど再プレイして思わず家にある座布団をぶん投げた。最初に高評価だった分、叩き落された気分であった。
ネガティブ・パーソンズ達が次々にブーイングを口にした。
それに対しエンドは答えた。
「私は普通に全ステージクリアしましたけど?」
その答えに全員がキレ、エンドを一斉に罵倒する。
「嘘つくな!」「ヤル気あるのか!?」「人を馬鹿にするな!」「出来るわけないでしょ!」「こんなゲーム他にないわ!」「僕が出来ないのに、出来るか!」「証拠を見せろ、証拠を!」
エンドは無言で、ゲームプレイ動画を見せた。
それは一切の無駄のないゲームプレイだった。
銃弾を数センチ単位で全て避け。
地雷があるであろう場所を的確に見抜き。
爆弾に対しても的確に処理し。
味方に対する注意を怠らず、裏切りも数センチで避けて反撃して殺す。
マシンガンの弾を左右のステップで避けながら、リロードしつつ、ヘッドショットで返していた。
軍人というより超人ともいうべき行動で、ほとんど止まらずにステージ1をクリアした。
そのプレイ動画を見終え、ひと時の静寂。
そしてまたもエンドへの罵倒が始まった。
「ただのチートツール動画だろうが!」「真面目に話を聞く気が無いのか!?」「コンピューターにやらせてプレイできたとか、言うな!?」「不可能ではない事と、クリアできる事とは違うのよ!」「出来ない事の証拠にしからならない!」「これをもとにゲーム制作したとか馬鹿か!」「こんなのクソゲーだよ、クソゲー!!」
一通り罵倒し終えた後、パーソンズ1が意見を述べる。
「ともかく! ゲームとして売りたいなら、難易度を下げろ! せめて十発は耐えるライフ制にしろ!」
「……しかし、私はリアルな戦争を体感できるゲームを作りたいと」
「リアルな戦争が面白いわけないだろう!!」
エンドの言葉に、怒鳴るパーソンズ1。
「すぐ死ぬ一兵士を体感してどうする! プレイヤーはヒーローになりたいんだよ! イキがりたいんだよ! 主人公は特別なの!!」
「は、はあ……」
パーソンズ1の熱弁に、しかしエンドは納得がいかない。
エンドのデータ内に、現実の人間が銃弾を十発も受けて、動けるという情報が無く、このゲームにそれを反映する事に躊躇いが生じたのである。
悩むエンドに、パーソンズ2が提案する。
「最近、海外の工場でボヤ騒ぎがあったんだが」
エンドはその言葉に、瞬時にニュース情報を閲覧した。
「確か、最新式の防弾スーツを作成していた所でしたか?」
「そうだ。顔まですっぽり包むタイプのスーツなんだが、確かあれなら銃弾を十発程度なら防げるはず。それを主人公が着ているという設定ならどうだろうか?」
得心いったのか、エンドは頷く。
「わかりました。最新式防弾スーツですね。それで行きましょう」
こうして今回の集まりは終了し、解散。後日、完成したゲームを送るとエンドは約束した。
次の日、エンドの作成したゲームがネガティブ・パーソンズに送られた。
「……VRゲームってそんなに早く作り直せるものか?」
少し納得できなかったが、パーソンズ1はさっそくゲームをプレイした。
「敵にもスーツを着させるなぁああああっっ!!?」
パーソンズ1は部屋の座布団をぶん投げた。
今回のゲーム『FPS(β)』。
前回と同じく無料ゲームコーナーに置かれた。
これはネガティブ・パーソンズ達からの意見で、「このゲームが世間的にどれだけ難しいのか、その声を聞け」とエンドが要求されて、置かれたものである。
最初はよくあるFPSだと思われ話題にならなかったが、徐々に映像の良さと人間の作りの良さ、そしてその鬼畜難易度によって話題になる。
その絶望的な難易度の高さに、有志達が攻略情報を交換し合うも、全くよせつけない。なにせやるたびにランダム配置で入れ替わる為、ほとんど情報が通用しないのである。
クリア不可能ではないかと疑われる中、いくつものアクションゲームで優勝した、正体不明の伝説のプレイヤーが挑戦。
正体はネガティブ・パーソンズ6であり、皆の攻略情報とかつて見たチート攻略動画を記憶にプレイ。
千回以上の挑戦の末、ついにステージ1をクリアしたのだった。
その動画を見たネットの者達は歓声を上げ、一時祭りとなった。
だがステージ2はさらに難易度が上がる事がその動画の最後に分かり、一気に冷める。
レビューはもちろんマイナス評価。もっと簡単にしろ、テストプレイしろとのコメントが山積みになった。
「反省会だ」
「ゲームプレイヤーとは皆、ゲームでは特別でありたいらしい」
「あとワガママだ。あの程度で難しいとは……もっと簡単にするか」