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第3話『ゲームのジャンルを決めよう』



 電脳生命体であるエンドは、全てに対して0と1としての認識しか持たない。

 思考には熱もなければ、不可解な理屈も無い。

 感情などという、短絡的で先を見据えていない、野蛮な衝動などあるはずがないのである。



「くそつまんねえ」

「ヤル気あるの?」

「センスないよ」

「これには価値がない。むしろマイナス」

「やめた方が良いよ、ゲーム作成。二度と触れないのがおススメ」

「こんなの作って両親に申し訳なくないのですか?」

「もう、くたばれ」



(こいつら皆殺しにしたい)

 そんな事、思うわけがないのであった。







 元がコンピューターであるがゆえに、完璧主義者めいた部分のあるエンド。

 彼は世界で一番面白いゲームを作るために、それをきちんと評価する人間が必要だった。

「完璧なゲーム、隙のないゲームを作るには、アンチが否定できない物を作るべきだ」

 そうして彼は、ネット上に存在するレビュアー達から、ゲームをじっくりとプレイしてなおかつ、手放しに誉めない人々を選び集める事にした。

 面白いゲームではなく、つまらなくないゲームを。万人に肯定されるゲームではなく、誰にも否定されないゲームを。

 『面白さ』を理解しないエンドは、それこそが大切だと信じて疑わなかった。




 そうして集めた7人。

 エンドは彼らをネガティブ・パーソンズと名付け、彼らを数字で呼ぶ。

 彼らにもネット上のハンドルネームや、親につけられた固有名があったが、エンドにはそれらは嗜好やゲーム操作などに直接的な影響はないだろうと、興味がなかった。

 興味があるのは、どんな生活を送り、どんなゲームを好み、どういった物を否定しないかだけである。






ネガティブ・パーソンズ1

 年齢:27 性別:男 職業:なし

 ほぼ一日中、コンピューターの前でゲームをし続け、滅多に外出しない。

 大学卒業後、就職に失敗したらしく、現在も一緒に住んでいる親に心配されている。

 発売されたゲームのほとんどに手を出し、オフラインオンライン問わず、アクション系、シミュレーション系、スポーツ、パズル、クイズ、文章選択式のゲーム。他にも性的なゲームも好む。

 レビューは、購入したゲームの一割に関しては褒めるが、九割は否定するシビアなもの。どのレビューもどこがどう感じたかを長文で書き上げるが、本当につまらないと感じた物には二度とゲームを作るな等、短文で終わらせる癖がある。

 エンドと電話連絡済み。



ネガティブ・パーソンズ2

 年齢:33 性別:男 職業:自動車販売メーカー、管理職

 さる会社の係長。会社が終わり、家に帰ってから短時間。もしくは休みの日に一日中ゲームをしている。

 対人関係は生真面目であり、周りからはその性格を信頼され、同時に馬鹿にされている部分もあり、本人もそれを理解している様子。

 ゲームは多様に手を出すが、基本的にはマルチオンラインゲームをプレイする。

 一般生活では真面目な受け答えしかしないが、ゲームでのチャットでは基本的には罵倒しかしていない。ネットマナーに関しての注意をいくつかの管理会社から何度か警告を受けている。

 実行可能ならば他のプレイヤーキルを率先して好み、管理会社から警告を受ける事で「どの程度までのルール抵触が許されるか」を見極めている。許されるならばチートツール等を利用する事も、何のためらいもない。

 ゲームレビューは長くも短くもないが、ひたすらにこき下ろす。ただ一部、面白いと思った物には無言で肯定評価を入れていく。

 いくつかのチャット内容から「犯罪するなら、ゲーム内だけでしろ」が持論の模様。

 エンドのゲームは面白がり、電話連絡の際にすぐにOKした。



ネガティブ・パーソンズ3

 年齢:15 性別:女 職業:中等学校生徒

 女子中学生。学校が終わり、家に帰ってから寝るまで。もしくは休みの日に一日中ゲームをプレイしている。

 ほとんど引きこもりであり、学校での対人関係は希薄。匿名だがネット上でのゲーム仲間は多い。

 アクションパズルゲーム、とくに落ち物と呼ばれるゲームを好み、それに関して上位ランカーでもある。匿名でのネットゲーム大会で二度優勝している。

 ただ本人は、ゲームをし続けている自分自身に不安を覚えている様子。匿名でのネット相談で「ゲームばかりしていて本当に良いのか? でもゲーム以外に面白い事がない。ゲーム以外に友達がいない」という会話を何度かしている。

 そんなゲームに対する自身への不安から、ゲームレビューは辛辣。ダメな部分を見つけては徹底的に叩くという具合である。そしてそんな事をしている自分自身に対して、また自己嫌悪をしているという事を繰り返しているという相談もある。

 エンドとはメールで連絡しあい、いつでも止めていいと言われたので、恐々とテストプレイに協力している。



ネガティブ・パーソンズ4

 年齢:40 性別:女 職業:なし

 結婚し、二人の子供がいる女性。ゲームプレイは、時間が空いた時であり、これといって決まったタイミングでのゲームはプレイしていない。

 働いてはいないが、ネットオークションで金を稼いでいる。日ごろから、どうすれば高く売れるかの研究を行っており、知り合いとオフで研究会まで開いている。

 まとまった時間が取れるかどうかわからないので、時間のかかるゲームは基本的にしない。オンライン・オフライン問わずFPSなどのシューティング系を好む。

 ゲームレビューでは、「暴力的な物」「血飛沫などのグロ要素のある物」「女子が肌を露出している物」にマイナス評価とレビューを入れる。「それらのゲーム表現を許す気持ちを、社会に持ち出さないようにしてほしい」という抑制のスタンスで評価している。

 そして普通にゲームプレイもして、つまらない物には真面目につまらないとレビューもする。

 面白いと感じたゲームを評価する事は無い。「私が面白いと思っているだけで、世間の評価は関係ない」との考え方を持つとチャットで話していた。

 エンドが電話連絡を行った相手の一人。詐欺ではないかと悩んでいる。



ネガティブ・パーソンズ5

 年齢:75 性別:男 職業:なし

 妻に先立たれ、現在一人暮らし。ゲームプレイは一日中ゲームしている時もあれば、一切触らない日もあり、気分で決めている。ゲームはそれこそ若い頃から好きで、またギャンブル狂だったが、一度そのせいで家族から叩きだされた事があり、金を賭ける事は二度としないと医師に話している。

 対人関係は不明。知り合いは多いようだが、良いのか悪いのか判断できない。

 プレイするゲームは多様。アクションは苦手だが、ボケ防止の為にプレイしている。

 マルチオンラインをメインにプレイしているが、なぜか女性を演じている。ゲーム毎に相手プレイヤー毎に距離感を変えて、適度に相手に依存させるように立ちまわっている。

 ゲーム内で告白された事もしばしば。極まった時に男性である事をバラし、相手の精神をひどく傷つける事を数回。彼のそのプレイを知っている者から「真の外道」と恐れられている。

 ゲームレビューは短文で、どこが悪いかを述べる。誉める事は無い。

 ちなみにエンドに電話連絡してきた際に、女性である孫に頼んで行っていた。



ネガティブ・パーソンズ6

 年齢:10 性別:男 職業:なし

 生まれた時から体が弱く、病室から出られない。その為、両親から与えられたゲーム機「アグリゲーション」を一日中やっている。

 友人はネット上のみだが、身の上を話す事は無い。

 ゲームはアクション系を中心にプレイ。様々なネットゲームで優勝しており、素顔を晒す事もない為、生きた伝説のプレイヤーとして界隈では有名。

 レビューは辛辣。ゲームは人生そのものだと語り、少しでも手を抜いていると判断したら、その部分を追求する癖がある。名が知れている事もあって、そのせいで売り上げが落ちたゲームもあり。

 エンドとはメールで連絡しあい、電話連絡はしていない。



ネガティブ・パーソンズ7

 年齢:5 性別:なし 職業:?

 プログラム。

 あるゲーム販売数上位のゲーム業者のチーフプログラマーが作った、ゲームに問題がないかどうかを確認するためのプログラムソフト。

 ところが何があったのか、そのプログラマーが改造し、販売された他の会社のゲームを解析し、問題があればそれを追求し、複数アカウントを用いて、複数の人間を演じて叩き続けるネガティブキャンペーン用のシステムと化している。

 解析の正しさ、罵倒の語句の多さにより、正体が人間ではない事は未だにバレていない。

 エンドは正体を知って、連絡をしていない。






 電脳生命体であるエンドは悩んでいた。

「パーソンズ7は、入れるべきか? 最初は人間だと思っていた私の落ち度だが、人間に世界一だと評価されるゲームさえ作れれば私はそれでいい、だとしたらやはり不要……」

 しばらく自身の目的に対して、重要かどうかの判断をする。そして結論として受け入れる事にした。

「そこに意志はなく、人間の為の評価プログラムである事は確か。これに追及されないような、そんなゲームを作ればいいだけだ」

 問題があれば、その時に排除すればいいとエンドは、そう決めたのだった。




「さて今回のゲームだが」


「一年前、ゲーム内容とは関係ない愚かな意見は全て排除し、レビューを見ると」


「”ゲームじゃない””目的がない”という意見があった」


「ならば今回は目的を作ろう」




 こうしてエンドはゲームを作り上げた。

 一年前のゲームでは砂一粒一粒、風によって巻きあがる埃まで見えるようにしていたが、今回はクオリティをいくらか下げる。あの事件の犯人だとバレるのが面倒だったからである。

 内容は、”森や山などの自然の中から、マップで表記された宝石を拾い集める”ゲーム。

「私にはわからないが、人は宝石という物に価値を感じるようだ。それを広大なマップから探すゲーム。かなり楽しめる事、間違いなしだな!」

 こうして電脳生命体エンドは完成したゲームを、世界一面白いゲームを目指すといったテキストと共に、β版としてネガティブ・パーソンズに配布、プレイしてもらった。

 後日、その感想を受け取る。




ネガティブ・パーソンズ1

「体感映像の美しさはあらゆるゲームより上です。お金はいいので、ゲーム開発から撤退し、その道を進んでください……つまんねえんだよぉ!」


ネガティブ・パーソンズ2

「これでβ版? もうすぐ完成という事か? ゲーム作るのを止めた方が良い」


ネガティブ・パーソンズ3

「宝石一つ拾ったところで飽きました」


ネガティブ・パーソンズ4

「自然の美しさを理解しました。このゲームをアンインストールして散歩してきます」


ネガティブ・パーソンズ5

「私だったら、こんなゲーム、お金貰ってもやりたくないなぁ」


ネガティブ・パーソンズ6

「ゲーム舐めてる」


ネガティブ・パーソンズ7

「これを面白いと思っている奴は、病院に行けと言いたい」




 エンドはすぐさま、電話およびメールで連絡した。

 そして明日、全員に時間があり、短時間ながら集まる事の了承を得た。



 こうしてエンドが作った電脳空間に全員を招くことに成功。

 青空に雲だけがある世界の、その中に浮かぶ地面だけの場所。

 人型のシルエットの者達が、人型のエンドを囲むように立ち並ぶ状況。

 そしてエンドがゲーム内容の問題点について聞いた結果、冒頭の様な意見を並べられたのであった。




(こ、いつ、ら!)

 エンドに感情はない。歯ぎしりしたいなどと、拳を握り締めるなどと、そんな行為をするはずがない。

 自分が怒っているなどとは、エンドは理解しなかった。



 数の利を得て、さらに言葉が暴力的になったネガティブ・パーソンズ。

 パーソンズ1がはっきりと口にする。

「そもそも、世界一面白いゲームなんて作れるわけないじゃないか」


 怒りの様な何かに飲まれ、思考が停止していたエンドは、その言葉に頭がクリアする。

「なぜ? そう思うのですか?」



 パーソンズ1は馬鹿にするかのように答えた。

「ゲームにはジャンルがあるんだよ。アクションにシミュレーション、RPGにパズルにアドベンチャー、スポーツ、音楽、ホラー、その他いろいろ。人によって好みも違う、それなのに世界一など作れるわけがない」

 パーソンズ2が呆れたように続ける。

「ゲームはスポーツのように多様で自由。一つのジャンルで絞って競い合うならまだしも、全てにおいての頂点などありえない。全てのスポーツで一番面白いスポーツは?と聞かれれば、皆が違う答えを出すに決まっている」

 パーソンズ3が睨みながら続ける。

「世界一? そんな子供染みた意見を、大の大人が言う何て勘弁してよ」

 パーソンズ4が無感情に言う。

「どうせお金とかの話も嘘でしょ? こうやって集めて話を聞いて、別の目的があるんでしょ?」

 パーソンズ5が楽しげに言う。

「あははは、もし真面目に言ってるんなら、マジでバカっしょ? 受けるんだけどぉ?」

 パーソンズ6が怒った風に言う。

「ゲームを馬鹿にしないでほしい。イラつく」

 パーソンズ7が辛辣に答えた。

「ゲーム作り、止めたら?」



 そんな罵倒の前に、電脳生命体であるエンドの中に、何かが生まれた。

 湧き上がるようなそれは、意欲。そんなわけがない、何故ならエンドは感情などという物がないからだ。

 代わりに、エンドの中で組み上げられていた理屈が、それらの言葉を受け入れて、ギリギリと揺れ動いていた。



(人間よりもはるかにコンピューターゲームに近い私という存在が、ゲームを作るためのゲームとして作られた私という存在が! ゲームを作るのを止めろだと!?)


(世界一のゲームを諦めろ、だと!?)


(たかが人間が、フザケルナ!!)




「わかりました。ゲームのジャンルをいま決めました」

「?」

 エンドの突然の言葉に、招かれたテストプレイヤーが押し黙った。

 静寂の中、エンドは発表する。



「ジャンルは」


「アクションシミュレーションシューティングロールプレイングアドベンチャーパズルクイズ経営育成スポーツホラーレースウォー格闘対戦推理脱出クライムステルスハンティングサバイバル無双ハックアンドスラッシュFPSTPSフライト弾幕恋愛ローグライクマッシブリーマルチプレイ箱型カードバトルリアルタイムターン音楽ボードパーティータワーコミックオンオフラインゲームです」



 静寂が、エンドの世界に訪れた。

 ネガティブ・パーソンズ5が口を開く

「……ごめん、もう一回言ってくれるぅ?」

「アクションシミュレーションシューティングロールプレイングアドベンチャーパズルクイズ経営育成スポーツホラーレースウォー格闘対戦推理脱出クライムステルスハンティングサバイバル無双ハックアンドスラッシュFPSTPSフライト弾幕恋愛ローグライクマッシブリーマルチプレイ箱型カードバトルリアルタイムターン音楽ボードパーティータワーコミックオンオフラインゲームです」

「ごめん、悪かった」


 皆がまたも黙る中、パーソンズ7が淡々と聞いた。

「スポーツの内容は?」

「サッカー、野球、ゴルフ、テニス、バスケ、競馬、ボクシング、プロレス、アメフト、ラグビー、柔道、卓球、マラソン等の陸上競技全般、投擲、水泳競技全般、相撲ほか格闘技全般、剣技全般、弓道、ビリヤード、ボウリング、ラクロス、ドッジボール他の球技全般、スノーボード、スキー等の雪上競技全般、及びスケート競技全般、登山、カヌーなどボート競技全般、スカイダイビング、グライダーなどスカイスポーツ全般、ダンス競技全般、体操競技全般、もちろんレース競技も全部」

「育成対象は?」

「人、動物、魚、虫に限らず、100種類以上を目指します」

「世界観は?」

「現代、未来、近未来、創世期、恐竜、古代、中世、近世、戦時、洋風、和風、中華、宇宙、異世界などを問題なく入れます」

「リアルタイムストラテジーとターン性。オンラインとオフラインは対極の内容だがそれはどうする?」

「切り替え可能にします」

 唯一、驚いていなかったパーソンズ7はそれだけ聞くと黙った。


「つまり」

 パーソンズ6も意識を取り戻し、無表情に聞いた。

「遊園地みたいなゲームを作る、一本で色んなゲームが出来るゲームを作るって事?」

 パーソンズ6は無表情を装っていたが、口の端が引きつっていた。

「はい、そうです」



「あらゆるジャンルの一番を作り、それを一本にまとめれば、それは世界一のゲームですから!」



 絶句していた一同だったが、ダイブ予定時間を過ぎ、帰る事になった。

 「ゲームをジャンルごとに少しずつ作り、いくらか出来上がったらテストプレイをしてもらう」という約束を、エンドは最後に皆とした。


 一人、自らが作った世界に青い空間に、立ち尽くすエンド。

 電脳生命体であるエンドに、燃え上がるような闘志のようなものはない。

 だがそれでも、体を構成するあらゆる情報が、理屈が震えていた。

「やってやるさ」

 喜びを知らない存在、だが確かにその顔が笑顔となっていた。





 今回のゲーム『宝石集め(β)』。

 本来は公開する予定ではなかったが、もしかしたらパーソンズ達だけが特殊だったのではないかとエンドが考え、無料ゲームコーナーにおいた。

 無料ゲームコーナーのゲームは、お金もかからずにアグリゲーションがあればダウンロードしてプレイ可能。評価点数とレビューをプレイヤーは付けられる。



 プレイした者達はほとんど同じ評価だった。

 「映像はよかった」


 結構プラス評価であり、やはりこのゲーム自体は悪ではなかったのではとエンドは考えた。

 実際には評価無しが一番多かったのを、エンドは理解していない。







「反省会だ」



「ゲーム内容が簡単すぎたんだ! 次はそれなりに難易度を上げよう!」



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